白夜
2018-04-27 23:38:10
3361文字
Public 強竜
 

無題

雪ネタ。怒+哀+楽。
みんなで仲良く人間に紛れて生活している設定。キャンデリラちゃんはノっさんの家にいる。
何でも許せる人向け。

 目が覚めて僅かに開いているカーテンの隙間から窓の外を見ると、眼前に広がる世界は真っ白だった。雪が降ったとしてもあまり積もることのないこの地ではなかなかお目にかかることの出来ない光景にラッキューロは感嘆の声を漏らした。
 まだ気持ち良さそうに布団にくるまって寝息を立てているアイガロンを踏んでしまわないように布団の上からまたいで着替えを取りに行く。急ぎ早に着替えて、コートを羽織り、マフラーとニット帽と手袋を身に付けた。そして、玄関に行き、ゴム製の長靴を履いて、玄関のドアを開けると冷たい空気が室内へと入り込んできた。
 後ろの方でクチュンとアイガロンがくしゃみをしたのが聞こえたので、慌てて外へと出てドアを閉める。まだ薄暗い寒空の下、冷たく澄んだ空気を吸い込んで吐き出した息はいつもより真っ白で気温の低さを実感する。
 ラッキューロは想像していた以上の寒さにぶるりと身震いをした。しかし、その寒さを気に留めることなく、まだ誰も踏み入れていない綺麗な新雪の中へと足を踏み入れた。新雪の踏み心地は何とも言えない感覚で心地良い。ひたすらさくさくと自分の足跡をまっさらな雪に付けていく。本当は雪達磨でも作って遊びたかったが、それを作れる程、雪が積もっているわけではない。
「おい、そんなところで何やってんだ」
 そんな時、後ろから呼びかけられた。振り向くとこちらを見ているドゴルドと目が合った。最近、臨時で始めた新聞配達のアルバイトから帰ってきたのだろう。
「あ、おかえりなさーい」
 そう言って、手を大きく振ると、ラッキューロは先程自分が踏んだ雪の跡の上を歩いてドゴルドの方へと足を進める。
「ドゴルドさま、雪っすよ!雪!」
「んなもん、見れば分かる」
 相変わらず無愛想な物言いをしてくるドゴルドにラッキューロは頬を膨らませる。そんなラッキューロを軽く鼻で笑ったドゴルドはラッキューロの膨らんだ頬を片手で潰した。口から空気が抜ける間抜けな音が早朝の静かな外に響いた。
「アホ面だな」
「ひどいっすよー」
 ニタリと上機嫌に笑ったドゴルドにラッキューロもヘラリと笑う。ラッキューロとしてはしばらくこうして外に居たい気持ちもあったのだが、中に入るぞとドゴルドに促され、ドゴルドの後を着いていく。ドゴルド様は寒くないですか?とジャンバーとマフラーだけ身に着けているだけで、ラッキューロのようにたくさん着込んでいないドゴルドに問うとてめーらとは鍛え方が違うんだよと言葉が返ってきた。

 氷結城にいた時、炬燵を持ち込んで暖を取っていたラッキューロ達は人間の真似事をしてなにやってんだと言われたことを思い出す。あの頃から根本は何も変わることはないが、今はラッキューロがどんなに炬燵に入って暖を取ろうがドゴルドは何も言うことは無い。唯一あるのは夜に炬燵の中で寝ようとして無理矢理引きずり出されることくらいだ。
 そして、今ドゴルドが身に付けているマフラーは去年のクリスマスにラッキューロがドゴルドに贈ったものだ。寒くなってからはいつも身に着けてくれており、ラッキューロは内心嬉しかった。口に出してしまえば照れて着けてくれなくなってしまうので、決して口に出すことは無いが。

「アイガロンは寝ているのか?」
「まだぐっすりでしたよー」
 そして、そんな他愛もない会話をしながらドゴルドが玄関のドアを開けようとした――が、それよりも先に内側からドアが開けられた。ドアの前には何故か真っ青になっている先程まで寝ていたはずのアイガロン。一体どうしたのかとドゴルドとラッキューロは顔を見合わせ、アイガロンの様子をうかがっていると、二人のことを目視したアイガロンの両目からはいきなり涙が流れ始めた。
「え、ちょっと、アイガロンさまどうしちゃったんすか!?」
 元哀しみの戦騎であり、涙腺が緩いのは周知の事実であるが、いきなり目の前で泣かれる意味がドゴルドとラッキューロと共に意味が分からない。慌てるラッキューロに対して、ドゴルドは近所迷惑になるだろうが!と一喝し、泣いているアイガロンと慌てているラッキューロをアパートの中へと押し込み、ドアを閉めた。
 アイガロンが嗚咽を上げて泣いている姿をジッと眺めていると、まともに話すことが出来ていないが、何かを言った。何だって?とすでに防寒具を脱いでいるドゴルドがアイガロンに聞き返す。その声は苛立ちの色が含まれているが、それ以上は何も言わずアイガロンの言葉を待っている。
「ひっぐ、だ、だって、おきたらドゴちゃんとラッキューロがいなく、て。なんか外も白い、し。オレさま置いていてみんないなくなっちゃったかと……、ひ、ひッ、ぐ」
 外が白いのは雪のせいなのにと的外れなツッコミを頭の中に浮かべながらも、おそらく起きたばかりの寝ぼけた頭だったからだこそ、そんなことを思ってしまったんだろうなとラッキューロはアイガロンの話を聞きながら思う。
「もー、泣かないで下さいよー」
 未だに涙を零すアイガロンの背中を慰めるように撫でる。どうしたら良いのかとドゴルドに助けを求めて顔を向けると、眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。そして、アイガロンの背中に容赦なく蹴りを入れた。ラッキューロも危うく巻き込まれそうになったが、アイガロンはものの見事に分厚くはない布団の上へとダイブしていった。
「な、な、なにすんのよォ……!!」
「ピーピーうっせえんだ、腹立たしい!寝ぼけた頭でおかしなこと言ってんじゃねぇ!勝手な妄想すんじゃねぇ!」
 顔を思い切りぶつけたのか顔を擦りながら、アイガロンはドゴルドに非難の声をぶつけるが、それに対してドゴルドは容赦なく罵声を浴びせる。
 相変わらず容赦ないなーと思いながら、ラッキューロも身に着けていた防寒具を脱いでいく。ドゴルド様も素直にお前を置いていなくなるわけがないって言ってあげれば良いのになぁとドゴルドの言葉の裏に含まれている内容に気付いて密かに苦笑する。
「アイガロンさまー、外が白いのは雪が積もってるからっすよー。朝ご飯食べたら溶けちゃう前に遊びましょーよ」
 未だに酷いわぁ!と涙を止めることのないアイガロンにラッキューロは声を掛ける。確かに薄暗くひんやりと寒いところで一人目を覚まし、本来いるはずの者がいないとなるとほとんどの人が不安にならないわけがない。元々ネガティブな性格でもある。頬に伝う涙を眺めながら、目を覚ましたばかりのアイガロンの気持ちを想った。
 自分たちはデーボス軍だった。そして、デーボスを復活させるため、いつも戦いの中にいた。仲間想いであったアイガロンは部下がいなくなる度によく泣いていた。今はもう誰もいなくなることなどない。それでもやはり不安になってしまうのだろう。ラッキューロ自身も一人でいるのはあまり好きではなかった。
「お布団しまって、炬燵出しましょうよぉ。さっきまで外にいたから余計に寒いんすよぉ」
 しばらくして、ようやくアイガロンの嗚咽がおさまってくるとラッキューロはアイガロンに動くように促す。アイガロンはグスグスと鼻をすすりながらも、分かったと言って立ち上がった。
 すぐ近くからは朝食の美味しそうな匂いが漂ってくる。もうすぐ朝食の準備は終わるのだろう。鼻をくすぐるその匂いに小さくお腹が鳴り、空腹であったことに気付く。ほらほら早く片付けましょ!とノロノロと動くアイガロンを急かして、手際良く慣れた手付きで布団を押入れにしまっていく。
 布団をしまって出来たスペースに炬燵机を置いて炬燵布団を敷く。これで朝食を取る食卓は完成した。未だに鼻をすすっているアイガロンにもういい加減泣き止まないとまたドゴルドさまに蹴飛ばされるっすよー?と言いながら、しまっていたカーテンを勢い良く開いた。
 少し前まで薄暗かった空はすでに日の出を迎えており、眩しいくらいの太陽の光が部屋の中へと入ってくる。おそらくこの太陽の光で積もっている雪はすぐに溶けてしまうのだろう。そんなことを思いながら、今日もラッキューロの一日が始まった。



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しんみり要素いれるつもりなかったけどいれてしまった。
ぼろアパートに住む男三人衆を書きたかっただけです。