肉料理でも、野菜料理でも、どんな料理でもいっとう食事を旨くしてくれる、麦わらの一味の料理人。彼が中でもいっとう得意とするのがシーフード、すなわち海鮮料理だ。なぜ彼がシーフード料理を得意とするのかは定かではないし、麦わらの一味にとってはどうでもいいことだった。
なぜなら、彼が毎日どんな料理をも楽しく作っていて、彼が毎日美味しい料理を作っているのだから。
「えっ、今日はサカナメシなのか?」
「シーフードといえ、シーフードと。問題あるか?」
「ンンン!無い!!サンジのメシはどれも最高だからな!楽しみにしてるし!作るの見るぞ!」
船長は肉が大好きだ。けれど、食卓が肉でなくとも、あまり文句は言わない。理由は前述の通り、彼が何でも旨くしてくれると信じているからだ。
「冒険は」
「明日だっ。作るのみてぇんだ!!なぁゾロ!」
「おれは別に」
「見たそうにしてたろ!」
「なんだよ野郎が観客はやる気でねぇな」
「さっさと作れクソコック」
「んだと寝腐れ剣士が!」
「もー!いいから!!」
「おい!!なんだその強引な止め方は!」
「首根っこを掴むな、やめろバカ!首が締まる!首が!」
ぎゃあぎゃあとにぎやかなやり取りをしたあと、気を取り直して、襟を正して、ネクタイをぎゅっと締め直して、彼は料理を始める。まずは、野菜からだ。パプリカを撫でるように掴み、きちんと洗ったあと、包丁を握ったと思ったら、くし切りになっている。
「ゾロ見えたか!いまの!」
「見えた」
「すんげぇ速かったぞ!」
「だろうな……いちいち叩くな、みじん切り見逃すぞ」
「!そりゃ大変だ!」
船長が人参の方に視線を戻す頃には、時既に遅し。にぃと笑った顔の下に、みじん切りを完成させていた。船長の口がきゅっとうさぎみたいにすぼむ。
「もっかい!」
「バカ、人参だらけになんだろ。別のもの切るから見とけ」
「よし!よし!みるぞ!」
「おい、ルフィ。ありゃなんだ」
「あれ……?もー!ゾロ!話そらそうとすんなっ!」
「ははは」
野菜が切れていく。ブロッコリーに玉ねぎのみじん切りにトマトは潰す。やぁ、次は海鮮だ。つまみ食いに伸びた手をきちんと払いながら、今日の獲物へと目を落とす。
「これ、ウソップがとったやつか!」
「あぁ、貝を素潜りしてとってたら勝手に袋に入ってきたやつな」
「いつ素潜りしてたんだ、ウソップのやつ」
「お前が外でぶらぶらしてるときだろ。今度行くならデケェ深海魚でも狩ってこい」
「よぉし!そんときはおれもいくぞ!」
「お前はやめとけ!」
新鮮な海老。きちんと処理をしないと臭みが出てしまうので、背わたを丁寧にとっていく。イカは喋りながらその白い手でワタや墨袋をするりととったのだろう。いつの間にか、きれいに輪っかになっている。アサリは既に砂抜き済み。ムール貝は足糸をとってからが勝負だから最後。貝の汚れを丁寧にとりのぞき、塩水へ。これを話しながらさらりとやってのけた。
「さ、火を通すぞ」
「でけぇ!」
「今日は3人前だからな」
「ウソップがとったのに食えねぇのか?」
「そんなわけねぇだろ。てめぇらが寝てるときにあいつが先んじて食いたいものを……」
「あっ!!何作ったんだずりぃぞ!」
「悔しけりゃとってこい、食ってからにしろよアホマリモ」
「わかってるわアホ」
巨大なパエリア鍋でにんにくの良い香りが立ち上り、野菜とイカが巨大な鍋で踊りだせば、立ち上がりかけた剣士も席につく。じっくり炒めたら、次はトマト。くつくつくつくつ、爽やかな匂いが鼻をくすぐる。もう、料理人は喋らなくなった。汗を浮かべ、ちょっと真剣な顔、けれど食材の愛は忘れていない顔。船長と剣士は二人で談笑をしつつ、見やる。海鮮を煮る。たっぷりと魚介の旨味を取り出してから、米をそこで煮詰める。魚介と野菜は後でのせるから一旦退避だ。
「よし」
ふ、と少し表情を緩めて、フライパンに油をはる。冷蔵庫から取り出したのは副菜。船長の顔がキラキラ輝いた。
「肉だ!」
「副菜のチキンウイングだ。辛くねぇやつな」
「辛いやつも好きだなー、おれ」
「そっちは」
「カクテルマリネだ、酒じゃねぇぞ。残念だったな」
「後で酒もよこせ」
「ください、だろうが」
喧嘩を自身で遮るように、油の海にチキンウイングを落とす。じゅわぁぁ。油の音。肉の香り。パエリアの香りと相まって、えも言われぬ。
「はぁぁらぁぁへったぁ」
「のさばるな」
船長はダウン。剣士は腹の虫が泣き始めた。料理人は呆れたように笑って、
「ん」
カラッとあがったチキンウイングを、カウンターから箸で一本突き出した。まるで飢えた獣のように、ウイングにそのままかぶりつく。手で持てよ、という警告は当然無視。もちろん、船長が早かった。次は剣士の分も差し出して。同じくして手は使わずにかぶりつく。いずれも噛みちぎらんばかり。まるで獰猛な飢えた鳥のようだ。
「あち」
「うめぇ」
「もうちょい待ってろ。あと手ェあらってこいよ」
「ごくん、いく!ゾロ!こっちだぞ!」
「わかってる!」
「……あーあー、骨まで食いやがった」
さらっとパエリアを強火にしておこげをつくる。さぁ、仕上げだ。チキンウイングの残りを皿に盛って、カクテルマリネにちょこんと香草を載せて仕上げ。パエリアは野菜と魚介を戻し、くし切りレモンを添えて、パセリを散らせば。
「おら、できたぞ」
「うっまっほー!!」
「こりゃ、ビールが進みそうだ」
彼らが戻ればダイニングテーブルは美味しいものに溢れていた。からりと揚がったチキンウイング。めいめいに置かれた宝石のようなカクテルグラスのマリネ。どちらも副菜。主役は真ん中だ。トマト色のコメの上に、海鮮がこれでもかと踊るパエリア。おこげができているのか、ちりちりと鍋のヘリでまだ音がしている。ビールとジンジャエールがジョッキに注がれて、カトラリーが置かれれば、もう食べる準備は万全。
「いただきます」
「いただきます」
「いっただきまーす!」
声を揃えて挨拶をして、キラキラと視線を向ける。パエリアは料理人が取り分けてくれる。レモンは?の言葉に頷いて欲しいと示し、おこげのパリパリをこれでもかと見せつけられながら、取皿にこんもりと盛り付けられて、海老がてっぺんで早く食べてと笑った。ならば、あとはかき込むのみ。ふーっと湯気を逃がし、スプーンで豪快に掬って、喰らう、喰らう。
「はふ」
「ん」
「うめぇ!!」
コメに凝縮された海鮮の旨味がこれでもかと口に飛び込む。魚介の食感やコメのカリッとしたおこげが、パエリアを飽きさせないアクセントとして最高だ。頬袋を3人ともぱんぱんに膨らませながら、箸休めにマリネで口を爽やかにして、はたまた肉のジューシーな旨味を入れて、いやいや炭酸のしゅわしゅわも楽しんで、またパエリアへ。スプーンが止まらない。うめぇうめぇとひたすら呻きながら、貝は啜るように、海老は殻ごと楽しんで。あっという間に、取皿は空になる。
「おかわり」
「おかわりー!」
「自分で好きなとこつげ、こっからは」
「うおぉ、ゾロ。海老はもらうぞ!」
「じゃんけんだ!」
魚介料理でも変わらず、取り合い、味わい、喜び合う仲間たちを見て小さくふ、と笑いながら、料理人はまた一口パエリアを口に運ぶのだった。
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