今日の食事は酒にも合う品だった。カルパッチョにアヒージョ、特製キッシュ、そしてパスタ。だから食卓には酒も並んでいて、一味は酒なしでもありでもよく食べた、いつものとおり。しかし、ただ一つ、想定外だったのは。
「ルフィ、それ酒」
「チョッパーも、ウソップもかしら」
「あ」
子供組が美味しいご飯に夢中になるがあまり、ジュースと間違えて、酒を口にしてしまったことだった。
―――――
「だから!!サンジのメシよりうまいもんはねぇ!!ぞ!!」
「……こいつの師匠のがうまいんじゃねぇのか」
「ゾロ、大人気ないわよ。でもそうね、私もルフィのほうに一票かしら」
「そーだそーだ!」
「サンジのメシは世界一ー!」
「ナミすわんありがとっ!お前らは酔いすぎだバカ!」
酔っ払いは自制聞かずに声をはるときがある。声だけでなく、感情も同じだ。酒によって骨抜きにされたその感情は、真であることしかない。
「でも、ゾロの言うことも一理あるわね。私はこっち派についてみるわ」
「たしかに、世界は広ェし、こいつは若ぇし、ゾロ助に味方してやらぁ」
「いや、ロビンちゃん?あとクソメカも。どっちがどうとかそういう問題じゃ」
「いえいえ、サンジさんのご飯は世界一ですよ、おじいちゃんが保証します!」
「わしはまだサンジのメシを食い始めて日が浅い。確かに世界一というほどに美味いが、判断には難しいのう」
「おい……お前らはせめて止めろ」
料理人は航海士にメロメロしつつも、現状に頭を抱え始めた。酔っ払った勢いかはたまたそれを面白そうだと発展させたのか、謎の大議論大会が始まったのだ。いつの間にやら飲み物とだいぶ減った食事を片手に、テーブルに分かれて。
「サンジはここでメシ食いながら聞いてろ!いーなっ」
「いや、その」
「だーめだっ、これとこれとこれがうめーぞ!」
「いや、ちゃんと自分のあるからなー、おーい聞けよ」
キッチンの方で仕込みなどをして逃げようと思ったが、酔っ払いの船長は圧が強くて逃してはくれなさそうだった。お誕生席に招かれて、肉中心に食事を取り分けられた。普段からこれくらい思慮深ければいいのに、と思ったが、それはそれで気味が悪いと思いつつ、現実逃避がてら食事を口にした。
「えーと、現在、ゾロさんチームがロビンさんとフランキーさんで、残りが我らがルフィさんチーム。ジンベエさんはまだ入りたてなのでもう一つのお誕生席ー!」
「よし、しっかり勉強させてもらおう」
「……おいおい、親分も酔ってんのか?」
「グラス出してくるからしこたま飲ませた」
「何やってんだよアホマリモ」
「んだと」
「サンジー!大人しく見てろー!ゾロもちゃぁんと聞いてろー!」
喧嘩になりかけた二人を止めるのは予想外にも船長だ。圧に負けて、二人はけっと悪態をつきながら大人しく席につく。
「第一に!サンジのメシは一番うめぇぞ!理由はうめぇからだ!な!チョッパー!」
「おお、そうだぞ!サンジのご飯はおいしいからおいしいんだ!」
「何だよそのガキみてぇな理由」
「理由になってないわね」
剣士と考古学者はばっさりと言った。船長と船医はぷくうっと頬を膨らませて怒った顔をする。
「気が済んだか?じゃあこの話は……」
「そうよ。もっと具体的に言わなきゃ、ねぇ、ウソップ」
「いや、ちょっと、ナミさん……?」
「サンジ君、せっかく褒められてるんだから聞かなきゃ、ねっ」
「はい、聞きます!」
航海士が小さくウインクすれば、料理人は目をハートにして何も言えなくなった。
「そうだぞ!サンジのメシはなぁ、嫌いなものですらもうまく料理しちまうし、食ったらすごくあったかい感情になるだろ!ときにフランキー、お前はそんなことも感じられなくなったのか?」
「はっ、なんてこった、おれは心まで鋼鉄になっちまったのか……確かにサンジのハンバーガーは食えば心にも染みるようなとろける情熱的な味だ……」
「おい……」
狙撃手の酔っぱらいの矛先は船大工に向かい、船大工は泣き上戸を始めた。彼は酒を飲んではいないのでいつもどおりではあるが。しかしながら、褒め殺されている。料理人は止めようとしたが。
「論点がズレてるわ、ふたりとも。もっともっと世界一かそうでないかの理由を詳しく言わないと響かないわよ」
「あ、あの、ロビンちゃんー?」
「例えば、サンジのサンドイッチは食べた途端に口の中いっぱいに美味しさが広がって、世界一の幸福を得られるけれど、次食べたときは前より腕が上がって以前はまだ世界一じゃなかったの、って驚かされる、等ね」
「アッ、最高のウインク」
料理人の言葉に、考古学者はサラリと自分の意見を述べた後、ニッコリとウインクした。そうすると料理人はまた目をハートにして黙ってしまうのだ。
「なるほど、なるほど。たしかにロビンさんの言葉には理がありますねぇ。でもサンジさんのご飯は毎回食べるたびに世界一を感じさせてくれるからこそ世界一なのでは?一度死人となった私が言うから間違いないですね!」
「いーぞいーぞブルック!!」
「そうだ、サンジのごはんは毎回世界一で、幸せを更新するんだぞ!」
「チョッパー、言葉まとめがうまいぞ!さすが医者だー!これにはジンベエも?」
「わかりやすいわい。こりゃ今後も楽しみじゃ」
「やったー!ジンベエ陥落だ!」
「いや、あのな」
料理人はメロリンから冷めてずっと目を左右にきょろきょろ動かしている。顔まで、照れたように赤くして。
「あら、このままじゃ言い負けそうよ、ゾロ」
「おい、ロビン……」
「だから、ゾロもサンジのご飯が世界一じゃない理由を言って」
「そーだそーだ、ゾロもきかせろ!」
考古学者は剣士の呆れ顔に指を立てて笑顔で制した。相手も囃し立ててくる。ならば剣士は言わねばならない。
「……たしかにこいつの唯一の取り柄だけあってメシはうめぇが、世界一って言ったらこいつが納得しねぇだろ。まだまだ腕あげるんだろうし」
「あら、じゃあサンジのご飯は後々世界一に届くと言うことね」
「そうだそうだー!ロビンの言うとおりだー!サンジのメシは世界一ー!」
「……お前は一体どっちの味方なんだ?」
「私はゾロと同じでサンジの味方よ」
「あのな……」
考古学者は笑顔でさらっと言えば、剣士は何も言えなくなった。料理人は食事を口にして誤魔化しているが、明らかに褒め言葉の数々で破顔一笑だ。
「あら、私もゾロとロビンと同じでサンジくんの味方よ。サンジくんのごはん大好きだもん」
「ずりぃぞ!じゃあおれもサンジの味方だ!!おれはサンジのメシがもっともっと大好きだ!」
「おれもー!」
「もちろんこのウソップ様もー!」
「もちろん私も」
「これにはわしも参戦できそうじゃな!わしもサンジの味方じゃ!!」
「おれもだ、うぉんうぉん!」
「よーし、みんな来い!みんなサンジの味方だー!」
「お、おい!もういいだろ、メシ中だぞ!!レディたち以外抱きつくなぁ!!」
料理人のところに船長は一味全員を引き寄せ集めた。彼はあからさまに赤い顔を緩ませたまま、抱きしめられるがままになり、彼が褒め殺しされるだけの議論は幕を閉じたのだった。
「そうだ!サンジもサンジのメシ食うぞー!みんなで一緒に食うぞー!世界一のメシ食うぞー!!」
「そーだ!そーだ!!世界一のメシー!」
「わかった、わかったよ、ありがとう、わかったって!!」
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.