麦わらの一味、現在は9人。だから、3人ずつでグループを組めばきれいに分かれられる計算ではある。しかしながら、今回は難題だ。グループに分かれるに加えて、3つの中から一つに選ぶ、が入っているのだから。
「ゔーん、悩みすぎて火が出そうだ」
「全部食べてもいいけど、余分2万ベリー払ってね」
「そんな金ねぇよぉぉぉ!!!」
航海士がテーブルの上においたもの。3種類のレストランでのコース料理のお食事券3枚綴り。つまり、全部で9つのチケットがあるのだ。
「ナミ、どうしたのこれ」
「サンジくんがおばあちゃんの荷物運びして3枚、チョッパーが子供の相手して3枚、ブルックのファンから3枚もらったんだって」
「いやすげぇな太っ腹かよ」
「いやぁなんか困ってたし」
「勝手にまとわりついてきたんだぞー!おれはシカじゃないのに!」
「大変だったんですよー!一曲聞かせたら卒倒したんですもん!!」
手に入れた三人にはそれぞれのストーリーがあるようだがそれは後でと言わんばかりに、航海士は指をおいた。
「問題が9枚とも期限が今日までだから、今日はこのレストランで夕飯を食べなきゃなんだけど」
「ゔーーん!!!どれもうまそーだ!」
船長が頭をぐしゃぐしゃに悩ませる。そう、この食事券が使えるレストランは3つのレストランなのだ。一つはしゃぶしゃぶコースのレストラン。高級な牛肉や新鮮なお野菜をいただける。二つはステーキのレストラン。大きな肉のステーキをメインに、美味しいコース料理を順番にいただける。そして三つは天ぷらのレストラン。カウンターで揚げたてを順に提供してくれるのだという。
「手に入れた三人の希望は」
「サンジくんは天ぷら、チョッパーはステーキ、ブルックはしゃぶしゃぶがいいみたい」
手に入れた人は当然先に決める権利があるとのことで、航海士のあとに続いた三人の主張曰く。
料理人は何でもいいと言ったが何でもは駄目と航海士に云われたらしく普段あまり揚げたてをすぐにかつ手間もなく食べる機会がどちらかというと少ない天ぷらに決めた。確かにいつも揚げたてを食べる機会が少なかったもんなと一味は納得して頷いた。ついでに一緒に食べる機会をうまく作れともつけたして。
船医は大きな塊のお肉を食べてみたいという興味からステーキだった。他にもいろんなご飯が出るのでそれも楽しみだったようだ。どんなフルコースが出るのか楽しみだと料理人が言ったので彼のためにメモを取ってくると船医は請け負った。
音楽家は単純にしゃぶしゃぶと言う文化経験がないらしい。お肉を出汁にさっとくぐらせてゴマダレやらなにやらで食べるというイメージは、彼にとってあまりないものらしく。ならばぜひ経験してみるといい。ただし、ホネに熱いものをこぼすなよと仲間たちから忠告が入った。
「ちなみに残りのみんなで決まってる人はいる?」
「おれどれも食いてぇから最後に残ったやつでいい!」
「ならあとはレディ優先で!」
珍しく船長がひき、料理人がぽそりとつけたした。天ぷらにもしゃぶしゃぶにもステーキにも肉はあるからどれでもいいらしい。成程、と納得して航海士は頷く。
「じゃあ、私は、しゃぶしゃぶの気分だけどロビンは?」
「天ぷらが食べてみたいわ。一つ一つ出てくるなんて初めてだもの」
「やったー!!ロビンちゃん!」
「ナミさん!しゃぶしゃぶ食べながらパンツ見せ……あだっ、すいません」
さくさくと女性陣が決まると、すでに希望をしていた二人は喜びの声を上げた。
「おれどうしようかな、フランキーは?」
「そりゃあおめぇ、男は豪快にステーキよ」
「おお!一緒に食べよう!アニキ!」
船大工はステーキを所望していたようで、船医は嬉しそうな声を上げた。これで残り3人3種類が残る。
「じゃあゾロは?」
「おれは天麩羅だな。酒が飲みてぇ」
「おっ!じゃあルフィはステーキな!おれしゃぶしゃぶの気分だから!」
「ウソップさん!しゃぶしゃぶにようこそ!」
「いいぞ!!ステーキ!!!」
「おお!ルフィ一緒だ!」
「フランキーがいるから丁度いいわね」
「まぁしっかりお目付け役こなしてやらァ」
「何だマリモか、飲みすぎんじゃねぇぞ」
「るせぇアホ」
「ロビンー、あの二人お願いね」
「ええ、任せて」
残りの三人も無事に決まった。それぞれ18時に出発、帰宅は21時である。帰宅してからそれぞれの夕飯について詳しく話す事を約束し、彼らはバラバラになって食事に向かったのだった。
――――――――
「服装これでよかったのか」
「ドレスコードなかったから大丈夫だろ。ロビンちゃん、お先にどうぞ」
「ふふ、素敵なお店ね」
薄暗くなってきた18時。3人は店を訪れていた。白壁のお店。塀で囲まれて、小石が敷き詰められた店の入口には小さなランプがぽっと灯り、入り口の暖簾には『天麩羅 十兵衛』と書かれている。厳かかな雰囲気にちょっと気をひきしめてから、ゆっくりと暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ」
女将の声が響き、ゆっくりと通されていく先は個室。ここまでくると、店の内観があらわになる。まさにカウンターキッチン、そして一部屋に5人ほど従業員がいるらしい。他の個室からは人がいるのかいないのか、どこか静かな雰囲気が漂っている。
「他の奴ら連れてきたら萎縮したかもしれねぇな」
「そうね。チョッパーやウソップはあがっちゃうかもしれないわ」
「確かに。この振り分けで良かったかもな」
椅子に座り、出されたお茶を飲みながら、もちろん飲み物のワ酒がチケットで1瓶サービスと言うのも手伝って、剣士は注文して、考古学者と料理人は今日は気分じゃないから全部飲めばいいと言ってやってお茶にして、そんな話をする。高級感がある店内だが、達筆な貼り紙が一つあり「どうぞ楽にしてください」と書かれてあった。きっとひどいマナー違反以外は見逃してくれるような、そんな柔らかさを持った店なのだろう。
「では、始めさせていただきます」
女将が頭を下げて、コースが始まる。ことり、と最初に運ばれてきたのは季節の先付けの小鉢だ。今この島は秋島の秋だからか食用菊のおひたしです、と説明があった。控えめなピンクにも見えるような紫と白のコントラストが美しい。いただきます、と彼らは声を揃えて言って、食べ始める。
「お花なの?」
「うん、ほろ苦くて美味しいよ」
「酒にも合う」
「……ペースはええぞ」
「るせぇ、ちゃんと考えてる」
しゃきっ、ほろりとしたおひたしはさっぱりとした味わいで、空っぽの胃袋を落ち着けてくれる。どこかゆったりと時間が流れていく店内に、いつもとは違った外食の心地を彼らは覚えた。
「続いて、サンマのお刺身です」
ことりと置かれた艷やかなサンマ。彼らは一度料理人のサンマのフルコースを食べたことがあったからそう珍しいものではなかった。けれど、ついついじっと見てしまうほど、美しい。
「サンマってあしが早いから、なかなか刺し身では食べられねぇんだ」
「そうなの?」
「そうさ!だから以前食えたのはラッキーだったんだぜ」
「また釣りゃぁ食えるのか」
「まぁ、刺し身向きのサンマが釣れたらだが」
「釣る」
「ボウズも多いくせに」
「んだと」
「私を挟んで喧嘩しないで」
「はーい!」
「けっ」
じんわりと甘い脂が溢れ出すサンマのお刺身を食べながらいつもの会話代わりの軽い小競り合いをした二人を考古学者がゆったりと制した。ふん、とうめきつつ、ちらと眼前の鍋を見やる。そう、次からは天ぷらの番なのだ。
「……おぉ」
「綺麗ね」
「へぇ」
美しい琥珀色と称えてもいいほどの油がとぷとぷと鍋に満ち溢れている。本当に油なのか、と疑ってしまうほど。けれど、何度か温度を確かめるように天ぷらの衣が散らされると、しゅううっと小気味いい音を立てて揚げ玉にかわったから、改めて油なのだと感じられた。
「揚がるところまで見られるのは面白い」
「確かにな。よほど真似されねぇ自信があるんだな」
「あら、素敵ね」
下処理された具材がとぷんとクリーム色の液につけられ、油にそっと入れられる。しゅわぁぁっと油の小気味いい音が響き始めると、彼らの視線はじっとそちらに集中した。皿の上に油を取る紙が置かれ、塩やつゆなどの準備が着々とされているが、そちらにどうしても目がいく。
「海老です」
「……殻も?」
「食えるのか」
「食えるよ、そのままでいいのか?」
「ええ。殻はぜひそのままで」
驚いた声と共に視線がこちらを向く。料理人はくつくつと笑って板前に問えば然り、という顔。食べてみろという顔。ならば、考古学者と剣士はじいと出されたものを見つめる。もう一度、見つめる。
身の方はわかる。大ぶりで、まだ微かに音をたてる白黄色の衣が見るからに美しい。尻尾までピンと立って食べてほしそうに待っている。一方で殻は?確かにからっとあがっていそうだが。
「じゃあ」
「食う」
同時に箸を伸ばし、殻をとる。おずおずと口に入れると、瞬きした。かり、ぼり、さくり。香りと食感が口いっぱいで楽しめて、しかも美味しいからだ。
「今度は殻もつけるようにするかな」
料理人はニコニコしながら海老の身の方に塩をつけて食べていた。そちらは約束された旨さだった。さくりと歯を通したあとほろりと溶ける衣の中からぷりぷりの身が口の中ではねるのだ。
「普段はどうしてるの?」
「海老の殻って使い道が色々なんだよ。ふりかけだったり、出汁取って味噌汁やスープにするし」
「サンジはワ食だけじゃないから、使い道がいっぱいなのね」
「そうさぁ!もちろんこういう一本に絞った職人もおれは好きだけどね」
「……おい、あと何品出てくるんだ」
考古学者が料理人と話す中、剣士は酒を杯に注ぎながら2本目の海老を揚げている板前にそう尋ねた。既に殻も身も皿からは消えていた。
「そうですね、海老がもう一本と、残りは9品と〆の小天茶、そしてシャーベットになります」
「9品も?」
「えぇ。お楽しみに」
そう言いつつ2本目のエビが揚がり、剣士は思わず唾液を飲んだ。
「なんだ、よほど美味かったのか」
「美味ぇだろ」
「まぁな。あと何が出るか楽しみだ。秋だし、芋とかかな」
「あー、あとはキノコだ」
「きのこか、松茸とか食えるかもな。高ェ店だ」
「そりゃあ楽しみだ」
次出る天ぷらに期待し、どこか和やかに予想をしながら彼らは揚げたての海老をサクサクと口に運ぶ。考古学者はくすりと笑って、それに続くのだった。
―――――――
そこからも一品ずつの天ぷらのフルコースが出されていき、和やかに舌鼓を打っていく時間になった。どこか上品な味の鱧に身悶えして、大ぶりのぷりぷりと甘いホタテをちびちびと食べ、子持ちの鮎のぷちぷちとした旨味の強さに驚いて、銀杏と栗は2つで一品換算らしく素直に喜んでほくほくの食感を楽しみ……秋をいっぱいに感じさせるフルコースをさくりさくりと夢中になって堪能する。剣士のお酒も進み、そして、三人の会話も進んでいくのだ。
「ねぇ。このさつまいもとても甘くて美味しいわ」
「あー、チョッパーが気に入りそうだな」
「ちょっと値は張りそうだけど、明日市場で見てみるかな」
「あら、素敵。私も連れて行って」
「よろこんでぇ!!」
なんて、他の仲間のことを思い出しながらケラケラ笑って話したり、
「この秋ナスのうまさはあいつらにゃわからねぇかもな」
「ウソップならいけるんじゃねぇか」
「ふふ、ルフィとチョッパーには少し厳しいかもしれないわね」
サクサクに続いてとろりと口の中でとろける秋ナスを天つゆにつけて食べながら、大人の味の秋を堪能したり、
「本当に松茸出たな……うめぇ」
「これはどこでも食えねぇな」
「サンジ、いくらくらいするの?この松茸」
「――ベリーくらいかな」
「まぁ」
「……」
「お前の小遣いじゃ買えねぇぞ、クソマリモ」
高級かつじゅーしーな旨味が高まった旬の松茸の天ぷらをかじりながら、その値段を想像して驚いたり、買おうと算段していたのかこっそり指を数えたり。楽しいコースの時間はあっという間に過ぎていくのだった。
「いやぁ美味かったなぁ」
「珍しいもんが食えた」
「とても楽しい時間だったわ」
最後に締めの天ぷら茶漬けとシャーベットを食べ、コースを終えて、腹を満足にさすりながら彼らは店の外に出る。時間はあっという間に2時間が経過していて、美味しい楽しい時間はすぐ過ぎてしまうのだと実感する。
「じゃあ明日は薩摩芋の市場チェックかな!覚えた味をナミさんとその他に食わせてやらねぇと!」
料理人は美味しい物を舌に覚えさせてやる気満々だった。考古学者はその様子をくすりと見て素敵ね、と囁きながら、腹をさすっている剣士に耳打ちする。
「ね、サンジも揚げながら食べるいい方法ないかしら」
「あ?」
「美味しいものは美味しい内に食べないと」
剣士は少し考えた顔をしたが、
「……知るか。フランキーがどうにかするだろ」
「あら、流石ね」
「けっ」
そんな返答があり、考古学者はまたくすりと笑う。知るかと言いながら、船大工が何かしら開発して、料理人にも揚げたての天ぷらを食べられるようにしてくれると、さらりと信じ提案してくれたことに。
「おいクソマリモ!ロビンちゃんと何話してんだ!」
「てめぇがアホでアホなことだよ」
「んだとぉーー!!」
ぎゃーぎゃーと喧嘩し始めた二人を素直じゃないのね、と呆れながら考古学者が止めに行く。
「あー!!ゾロー、サンジ、ロビンー!おーい!」
そこにちょうど、船長の声がして、ん?と喧嘩を止めて振り返る。見れば、街灯の下に影が6つ。
「みんなも今終わったのね!こっち美味しかったわよー!」
「いやー、ゴマダレもポン酢も最高だったなぁ」
「ええ、初めての文化でした、また食べたーい!」
「こっちもだ!!肉うまかったぞー!」
「すっごかったぞ!とろけるみたいで」
「アウ、うまかったぜぇ。ちゃんとチョッパーがメニューメモってきたからまた再現頼むぜぇ」
どうやら6人とも、最高の食事時間を過ごしてきたようだ。すると、残りの3人も笑顔になって、
「あら、天婦羅も美味しかったわよ」
「あー」
「美味かった。また作ってやるよ」
影はすべて合流し、ちょうど9つ。仲良く並んで帰りながら、今日の食事の話に、華を咲かせ始めるのだった。
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