sevendays23
2021-10-16 13:33:37
2164文字
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煮込みハンバーグのお話

映画の冒頭でいいからほのぼの日常かほしいです

ことことと心地良い鍋の音。銀色のおたまでぐるりとかき混ぜれば、デミグラスの豊潤な香りが立ち込めた。

「お昼はビーフシチュー?」

キッチンのソファー。本からふと顔を上げた同じく船番の航海士。料理人はニッコリと口元を緩ませて笑った。

「そっちのがよかった?」

「ううん。あんたのご飯なんでも美味しいもん」

「極上の幸せー!!」

目をハートにして宙に飛ばしながらも料理への注意は忘れない。火を止めて、冷蔵庫から取り出したのは大ぶりのハンバーグ。航海士が思わす本から顔を上げて見ていることに気づいてか気づかずか。熱したスキレット3つにハンバーグを並べた。じゅわぁぁっと表面が香ばしく熱せられていく音が小気味いい。

「今日は煮込みハンバーグだよ」

もうわかっただろうと確信して、ハンバーグをひっくり返す。じゅわぁっと裏返り、こんがり焼け目のついた表面が香ばしい匂いとともにあらわになると、彼女はこくんと唾液を飲んだ。

「サンジさんむりですお腹が空いてもう作業できません」

バタンと扉を開けて早口で入ってきたのは同じく船番の音楽家。肉とソースの香りの波状攻撃を外でダイレクトに食らったようだ。料理人は、いたずらっぽく眉を揺らした。

「残念、まだできねぇぞ」

「えっ!?」

いつの間にかハンバーグをのせたスキレットを煮込むためのソースで満たし、オーブンに運んでいたようだ。見るまもなく、いや見てしまったらもっとお預けを食らった気持ちになるだろうが、ぱたんと閉じられたそれを、音楽家はそんなぁと泣きながら見送るのだった。

―――――――

「サンジくん、まだ?」

「ナミさんったらかわいいんだから!!」

「ま、ま、まだでずが」

「お前はよだれ拭けあと5分だ」

チーズを入れてオーブンを閉じたのは、いつのことだっただろう。グツグツという音が響いて、チーズのかりっと燒けた香りがただよいだすと、料理人だけでなくて航海士も音楽家も子供のようにオーブンにはりついた。そしてジリジリ焼けていく、暗い中に火で照らされた煮込みハンバーグをじいっと見つめ、ごくんごくんとよだれを飲み込んでいた。

「よし、開けるから席について」

「わ、わかった。ブルック、あんたまたヨダレ出てるわよ」

「な、ナミさんは、出てないですか?」

「私は出てないけどさっきから何回飲み込んだと思ってるの!もう!」

「えーっ、逆ギレ!?」

賑やかにテーブルに向かった二人は、めいめいの席につく。今日はライスで、と希望したからか皿の上にホカホカの白いご飯。スプーンとフォーク。そしてシャキシャキのサラダは今日は既によそってあって、レタスとトマトが鮮やかだ。ドリンクはミルクとみかんジュース、そして水。ぽっかり空いた耐熱の敷物の上には、きっと主役がのるのだろう。

「おまたせ、熱いから気をつけてね」

そう、お野菜がぷっかりと浮かんだ、カラメル色のソースがたっぷりの、煮込みハンバーグのスキレットが。ふつふつとまだソースが煮えて、香ばしいチーズがとろりととろけて目を引く、今日のメイン。ごくん。最後のよだれを飲み込んだ。

「じゃあ」

「いだだぎばず!!」

「だからよだれっ」

料理人が音楽家にツッコむのを尻目に、航海士はもう我慢できないとばかりにスプーンをハンバーグに入れた。チーズと焼き目の層をスプーンが潜り抜けると、ジュワリと肉汁がソースに染み出し、目を丸くする。逃さぬようにすくい取って、ふーっとふいて、ソースと一緒に、口に放る。ちょっと焦って大振りに切り取ってしまったからか、

「あふっ」

そんな声が思わず漏れた。けれどここは高級レストランでなくて、彼女が心安らげる船。だから頬が少し膨らんでも、ちょっとはしたなくても問題がないのだ。

「おいひい!」

口に入れると、ピリッとスパイスが効いたハンバーグに、デミグラスのシチューがたっぷりと纏って引き立てあっている。チーズの香ばしさも加われば。

「よかったぁ!おかわりあるからねぇ!」

目をハートにして上機嫌に答える。そして、航海士と目を合わせて至福な時間を過ごしたあとは、ようやく音楽家が食べ始めたのも横目に入れた。彼は大ぶりのシチューの具材、にんじんやマッシュルームから口に入れていた。

「ハンバーグいきなり食べると幸福すぎて死んでしまいます、あ、もう死んでるんでした私!……うま!」

忙しく喋りながらも口に入れた野菜の旨さに感動する。にんじんはとろけんばかりに甘くて、マッシュルームは歯ごたえとともにジュワリと旨味を口に広げるのだ。

「そりゃそうさ。シチューの具材にも手は抜いてねぇよ」

いつものスカルジョークはサラッと流して、彼もハンバーグとシチューをパクリと口にした。その後に米をそっとスプーンですくって口に入れる。淡白なコメを噛み締めるたび、濃厚なハンバーグとシチューが和らいで、口の中で幸福に変わるのだ。

「あっ、その食べ方いいですね、真似します!」

「わたしも!のせてもいい?」

「もちろん、好きに食べて!」

ただし、骨にソースをこぼすなよ、とだけ音楽家に忠告を入れて、彼らは今日も美味しいもので空っぽの胃を満たしていくのだった。