sevendays23
2021-10-03 12:41:43
2180文字
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豚汁の話


今日のお昼の豚汁は、こってり目がいい。そしてちょっとだけ、甘めがいい。こってり目なのは、麗しい航海士からのリクエストだから。甘めなのは、美味しいさつまいもがとれたから。簡単な理由だが、どれも料理人にとっては大切だ。加えて今日は、もろみに漬け込んだ鶏肉を香ばしく焼いたものがメインにもやしのナムルやワ風ドレッシングのサラダなどの野菜の副菜を添えるつもりなので、野郎のことも考えて、具沢山豚汁だ。

「さてと」

具沢山の豚汁にするためには、野菜をたくさん準備しなければならない。勿論、皮むき一筋にだって愛情を欠かしてはいけない。きゅっと包丁を握り、慈しむように食材と向き合う。大根、人参、玉ねぎ、おネギ、さつま芋、椎茸。とんとんとんとん、とリズムよく切る音が心地よくキッチンに響き渡る。もちろん野菜以外も切っていく。主役の豚肉、こんにゃく、たまたま買い出しで手に入れた味付きおあげ。

「今日は、こってり目だから」

あっさりにするときは炒めないが、今日は炒めてから煮る。ごま油を垂らし、具材を炒め始めれば、じゅわじゅわという音と一緒にもういい香りが立ち込め始めた。そしてだんだんキッチンの外の足音がソワソワし始めたのもわかり、小さくぷはりと笑う。

「これからなのに」

先にとっておいた鰹だしを、具材たちが待っている寸胴鍋にいれる。じゅわぁっ、たぷん。お肉の脂や野菜の旨みが、だし汁に溶け込み始める。逆もしかり。だし汁の美味しい旨味を具材も吸い込み始める。アク取りをし、外の音を聞く。窓のところからひょこひょこと顔が出ている。麦わら帽子、長鼻、角。交代交代。さながら敵船への偵察の風景。

「まだかかるんだがなぁ」

おかずもあるし、もちろん白いご飯も炊かねばならない。第一さっきおやつを食べたばっかりだ。なのに、もうよだれを垂らした上に、船長の腹の音がでかでかと響いている。ちらと鍋と時計を見、窓の方を見る。目があった。狙撃手と。口を声もなく動かす。なんとなくの雰囲気作りで。

「wait or candy?」

待つか飴か。狙撃手は頷き、しゃがんだ。ヒソヒソコソコソと話し声。

「んん、きょうはまつぞ!!!」

……せっかく雰囲気つくったのに」

飛んできた言わずもがな船長の声にふうと呆れた息をついて、味噌をとく。ちなみに、まだこれは完成ではない。ご飯を炊いて、他のおかずを作ってから、最後にすることがある。具沢山豚汁の醍醐味を。

「それまで、休憩な」

寸胴鍋の蓋をパタンと閉じて、料理人は他のおかず作りに向かうのだった。

―――――

「うんまほぉぉぉぉ!!!」

「待ったかいあっだなぁ」

「ヴン、ヴン」

こうして出された豚汁定食、もとい大皿に積み重なったおかずと御飯と味噌汁と言う状況のものを、待ちくたびれてよだれの跡がついた三人、いやいや残りの五人もアピールしないだけで腹を鳴らしたり鼻をひくひくさせたりしていたのだが、彼らはしげしげと眺めた。ホカホカの白飯やつやつや照りがついた鶏肉のもろみ焼き等のおかずに目を奪われたあと、やはり目に映るのはどんぶりのような大きさの豚汁だ。豚の旨味はもちろん野菜の旨みが溶け込んだ汁の中から色々な具材がひょこひょこと顔を出し、かぐわしい香りと共に湯気を立たせて、早く食べてと訴えかけている。

「じゃあ、いただきます」

「いただきまーす!!」

手を合わせて、声を揃える。食事が始まる。料理人は、ニコリと笑って丼サイズの豚汁を掴んだ。確かめたいのは一番最後に入れたアレ。味噌色の具材を少しだけかき分けて、見つけた。

「卵」

「あぁ、最後に落として入れたんだ」

目ざとく見ていたらしい剣士がボソリと呟くと、御名答とばかりに返してから、見つめる。とろりと広がった白身に包まれた、黄身を割る。ほくほくに固まったところから、とろりと溢れ出す半熟。そこを啜る。玉ねぎやとろとろのさつま芋が連れてこられたが、気にせずに。ずず、しゃりっ、ほくっ、ほうっ。吐息が溢れる。美味しい、吐息が。

「おれもまねする!!」

「少し固まらせてからのもうめぇから好みにしろよ」

「ま、迷わせるようなこと言うなよぉーー!!」

「おれは半熟で食う」

「おめぇは潔いなァ。おれは少し固まらせるかな」

「私も固まらせようかしら……悩んでしまうわ」

「私半熟で食べる!サンジ君の美味しそうだったもん!」

「え、ええ、おれ、どうしよう、ブルック」

「私、よくばりですから」

すると答えを求められた音楽家。黄身を即座に割って、とろりとしたところをズズとすすりながら、

「おかわりにもう一個もらったときに、固まらせて食べます」

「え、えぇ!?」

「そうかサンジがおかわり用意してねぇわけがねぇ!」

「て、天才だーー!!!」

稲妻が落ちるような顔をしたあと、わぁっと一味が湧いた。

「さすが最年長、やるじゃねぇか」

くつくつといたずらっぽい笑みを浮かべた料理人。

「おかわりたっぷりあるからな」

「いやったー!!」

歓声をあげたあと、食事は再開する。ごはんをかきこみ、おかずをかじり、汁をすすって、うまいうまいと声を上げる。
今日も鍋いっぱい具材いっぱいの豚汁は、見事に空になりそうだ。