誰が名付けたのか知らないが、端っこ弁当という名前の弁当がバラティエの時代から存在していたのは事実だ。船旅の買い出しで作るのが面倒なコックたちのために食材や料理のいいところを弁当にして、その残りの食材や微かな焼きムラのところを自身の弁当としてまかないで食べるのである。もちろん、端っこ弁当ですらも美味しく仕上げることに変わりはないし、愛情を注ぐことに違いはないのだが、自身が食べるものだからと少しだけ見た目や味に実験したりや配列で味が変わるのを確かめるために少し貧相な見た目になっているのは事実だったりもする。
この習慣は元バラティエの副料理長サンジとて例外ではなく、習慣づいたものを変えるのは面倒だということで、ひっそり海賊になった今でも続いている。
そう、仲間たちに食材の美味しい部分を出し、彼が冒険に出るときの自身の弁当として端っこだけの弁当を用意するのだ。
今日は、そんな優しいかつ勉強熱心な塊のお弁当を、仲間たちが見つけたときのお話。
――――――
「げ」
しかめる。あからさまに、顔をしかめる。今日は山に果物や山菜を取りに行く予定だった。一日かけてなので、もちろん弁当を持って、である。
しかし、どんとおいてあるのは深緑の包みだ。自身のはちゃんと深い青色の包に入れておいたのに。
「今日の卵焼き、米に合う最高の出来なのに」
不満そうに、こぼす。今日の卵焼きは渾身の出来なのに、あの弁当には。
「帰ってこねぇよなぁー」
少しばかりの罪悪感を抱え、料理人は剣士のための弁当をため息混じりに持っていくのだった。
―――――
「!」
弁当づつみを見て、剣士は驚いた顔をした。いつもの色と包みが違う。
「あのアホのと、取り違えたか」
弁当包は一味のイメージカラーで取り揃えてある。だから、見ればすぐわかるし剣士も流石に覚えている。ただ、この日は狙撃手たちと喋りながら出たから、取り違えてしまっただけで。
「まぁいい」
ならば、料理人の弁当を代わりに食うしか道はないので。剣士はゆっくりと青色の包を開き、弁当を開けた。
「あ???」
途端に声をひっくり返す。彼の弁当は、いつもの剣士の弁当とだいぶ異なっていた。ほんのり焦げている卵焼きの両端、いつもは分厚いロースで仕上げる生姜焼きは薄い豚バラになっている。そして、こんがりと揚がったたぶん試作であろう、ワンタンなど。盛り付けは自分用なので少しだけ雑で、少量をたくさんというような感じだ。
「……いただきます」
むすり、とした顔を出して、白いご飯に豚バラを巻き食いする。すると、目を点にして、ごくんと飲み込む。カリカリといつもとは違った食感の豚バラ。顔に、うまいが現れた。ワンタンに手を伸ばす。かりっとかじるとエビなどのオーソドックスな具材の代わりに、マヨネーズで味付けしたツナや大葉が現れた。そして、卵焼きの香ばしい端っこを噛み締めて、旨味を米で追いかける。平らげる速度は、いつもと同じだった。
「ごちそうさん」
からんと箸をおいて、満足げに腹を擦り、
「バカコックが」
ボソリと口にしたのだった。
―――――
「ん」
きれいに舐めたように空になった弁当箱を突き出してきたのは、いつも通りだった。
「あれ、ゾロ?それサンジの包みじゃねぇか?」
「ほんとだー」
「間違えたのか?」
だが、料理人が何かいう前に、狙撃手、船長、船医が同じく弁当箱を突き出しながらツッコミを入れた。すると剣士は踵を返しながら、
「あぁ、間違えたが、あることを知れた」
「あること?」
「こいつ、お前らよりも特別な弁当食ってるぞ」
「なにーっ!!!」
きっ、と周りの目が料理人に向いた。
「サンジー!どういうことだーー!!!!」
ギャーギャー騒ぎ始めた船長。料理人はきっと剣士を睨むも、
「ごちそうさん」
当の剣士はどこかしたり顔。ぎゃーぎゃーと尋問を受けるコックを尻目に、ゆったりと背伸びをしながら、キッチンから出ていくのだった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.