かちゃかちゃ、と食器を持ち上げる音がする。どのお皿もどの食器もまるで舐めたように綺麗だ。料理人は小さく口許を緩めながら煙草をふかした。
「よし」
腕捲りして、気合いをいれる。今日は、というより昨日から夜通しの宴だった。理由は、音楽家が仲間入りして剣士が快気した記念だ。いや、剣士は完全に治ったわけではないので酒は控えるようには言われていたが。それでもよくはなったのか、つまみの薫製チーズやら自家製サラミやらを片手に巨大な樽を一つ空にしていた。止める役の船医もわたあめはもちろん、とろーりとソースがあふれでるチョコレートもちに瞳を奪われていたからそうなったわけだが。今は仲良く毛布のしたでいびきをかいている。
「まずは、樽、と」
ため息混じりに樽を脇に避ける。こいつはきっと、今日も肉汁たっぷりのハンバーガーをたくさん平らげた船大工が何かしらの加工を施すだろう。もちろん船大工も、機械の腹を満足げにさすりながら、舵の側で夢の中だ。
「でへへ」
ちょっと鼻の下を伸ばしてから、グラスを手に取る。航海士と考古学者もたくさんおかわりをしてくれて最高だった。今日のタマゴサンドとミカンのまるごとゼリーは特に最高のできだったから、なおさらだ。そして、お腹一杯になったのか二人マストに寄りかかるようにしてすやすや眠っている。まさに天使だ。そっと毛布をかけなおす。
「ったく」
ちょっと洗い物が大変なお皿が目についた。たっぷりきのこのグラタンの皿だ。意外にも狙撃手はよく食べた。きのこ嫌いのはずなのに、大分食べられるようになったのか。いいことだ。塞ぐように転がっているから、鼻をひょいとつまんでやった。
「また、見事に骨だけだな」
キッチンにある程度運んでから、骨が山積みになった皿を揺らしながら呆れる。肉はもちろん一欠片もついていないし、食べたのはほとんど船長だ。一番元気な男が、一番食べるのは当然なのか。そしていっとう大きないびきをかいているのも当然なのか。
「ヨホホ、呼びました?」
すると、骨に反応してか、声がした。見れば、音楽家がヒョコヒョコと甲板の脇から出てきたではないか。
「あ?起きてたのか」
「えぇ。サンジさんのお手伝いがしたくて」
よく見れば、いつの間にかテーブルがきれいに拭かれている。ふきんを濡らしてふいてくれたのだろう。そして今床もはいてくれているようだ。箒片手にいそがしそうだ。
「気ぃつかうなよ、おれの仕事だ」
「楽しそうですもんね。ですから手伝います!」
「なんだよ、それ」
ぷはりと笑って返す。どうやらこの新しい仲間は何がどうやっても手伝いをしたいらしい。
「だったら、箒頼む」
「はーい」
さっ、さっとリズミカルに掃く。かちゃかちゃとリズミカルに食器を片付ける。
「お前、よくカレー食ってたな」
「えぇ!好物でして!!」
「だったらもう少しきれいに食えよ。じゃねぇと次から出さねぇぞ」
「ぞんなぁ!!」
そんなことを喋りながら、分けて作業すれば、あっという間。甲板はきれいに片付いた。
「次は洗い物ですか?」
「まぁ、そうなんだがな」
料理人はにぃと笑った。音楽家は首をかしげる。
「見てみろよ」
ゆっくりと、空を指差す。雲の切れ間、明るい太陽かゆっくり上ってきた。闇を白く照らすように。波の表面を、キラキラと美しく輝かせるように。見惚れてしまいそうなほど、美しい。
「おれは、煙草吸いながら宴の後にこれ見るのが好きなんだ」
かちり、と煙草に火をつけ、ふかしながらニィとわらう。気づいていたから。音楽家が見る、太陽への感動は一度だけでは終わらないことを。
「きれいだろ」
「は、い」
フッ、と笑って、伸びをしながら、料理人はキッチンに向かう。仄かな太陽を黒いスーツ一杯に浴びながら。
「さ、洗い物と朝メシだ」
かつかつ、と足音と声が遠ざかる。音楽家は、ぐしと零れた雫を拭いて、満足そうに微笑むと、手伝いますと叫びながらそちらに振り返り駆けていくのだった。
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