sevendays23
2019-03-07 00:20:27
2112文字
Public
 

餃子の話

タグその6。
餃子の話。ありがとうございました!

餃子(ナミさんと)

「サンジ君!ご飯食べた!?」

「む!?」

ばたん、とキッチンの扉が急に開く。料理人は口をむっとすぼめてビックリした反応を見せた。

「お買い物、いいのなくて帰ってきちゃった。ご飯なにかない?食べずに帰ってきたのよ」

「むぐ、ごくん。ナミさん、待ってて。パスタでもすぐ作るから」

料理人はそういいつつ席を立とうとしたが、航海士は見逃さない。テーブルに広がったお皿。まだ残っている半月型の食べ物。まだほこほこと湯気をたてるこんがりパリパリときつね色の表面。小皿に乗った昆布の匂いがたまらない手作りポン酢。ほかほかのご飯。サラダやスープはさておいて。

「待ってサンジ君!」

「はいい!!?」

「餃子食べさせて!!それ!!残り冷凍かなんかしてあるんでしょ?」

「う」

料理人は鋭いと言わんばかりに顔を歪める。餃子が食べたくなったので、一人分より多目に作り、残りは冬島用の鍋に使うときに冷凍してある。だから、焼けばある。あるけれども。

「でも、ナミさん、これ、にんにくたっぷりだよ」

料理人は心配していた。彼は出歩くつもりもないし、しっかり歯磨きや息のケアをするつもりで食べていたからいいのだが、レディというものは口臭をよりいっそう気にするものだ。まだ昼だから、もし出掛ける場合はあまりよろしくないだろう、このメニューは。

「そんなのどうでもいいわ。たべる。お昼から外でないし」

「でも……

「おなかすいてるし、あんたのとびきり美味しい餃子が食べたいの!」

航海士はムスーッとした顔でそう突き通してきた。こんな顔されると、女好きとしてもコックとしても弱い。料理人は降参した。

「わっかりました!今すぐ焼いてきます!」

「待って、あんたご飯途中でしょ。私自分で焼くわよ」

「いやだめ、それはだめ。おれが焼きたい!!すぐ焼けるから大丈夫、冷めないよ!!」

料理人は手早く立ってそこは譲らなかった。フライパンに油をひいて、餃子をひょいひょいとはなして並べ始める。そして、お湯をどぷりといれて、蓋をして。しゅうしゅうとお湯が蒸発する音が聞こえてきた。その間に、航海士の白飯とサラダとスープが置かれる。手際に抜かりがない。

「あとは蒸発したら」

たらりと胡麻油をかければ、しゅうっと油が弾ける音。広がる芳しい匂いに、航海士はごくんと唾液を飲み込む。もうちょっとだから、となだめて、かりっと焦げ目がつくまで焼いてから。

「はい、完成」

お皿に規則的に並ぶのは、表面が綺麗なきつね色の餃子。丁寧に作られたひだがつやつやと煌めいていて、見た目でも美味しそうなのがわかる。

「ほんとに、早いわね」

「でしょ」

冷めないうちに食べてね、そう呻きながら料理人は自身の餃子に戻る。航海士はゆっくりと焼きたての餃子の皿に箸を伸ばした。皮をつかむだけで、しゅっと中の肉汁が踊る音がした。揺らすと、にんにくやにらの食欲をそそるにおい。ちょんちょんと柚子かおるポン酢をつけたら、もう我慢できない。

「いただきます」

「どうぞ、マドモアゼル」

言うが早いか、航海士は髪をかき分けて、口をすぼめる。ふぅ、ふぅ。ふるりと揺れる綺麗な唇をすぼめて吹いて冷ましたあとは、ぱくりと焼きたての餃子にかぶりついた。さくり、じゅわっ。皮が香ばしい食感と同時に破ける。熱い肉汁や野菜の旨味が口いっぱいに溢れ出し、香りや味の強いにんにくやにらと共に鼻に抜け、喉に幸せの熱い旨味として滑り落ちる。

「っ!おいひい!サンジ君!!」

「極上の幸せーっ!!」

料理人のメロメロ声を聞きながら。はふ、ほふ。勝手に湯気を逃がす音を漏らす。ちょっとお米の上に肉汁と柚子ポン酢を逃がして、もう一口。今度は冷めて、肉の柔らかな口当たりや野菜のほのかなしゃきしゃき感、ポン酢を吸い込んだ皮のもちもち部分を堪能する。それを炭水化物、すなわち米で追う。空っぽだった胃が、喜びとエネルギーに跳ねる。そのエネルギーがまた箸を動かし、餃子を、お米をつまむ。口に運ぶ。幸せのループが止まらない。

「そんなに美味しそうに食べてもらえると嬉しいなぁ」

料理人もにこにこしながら、先程の続きを口にしている。だが、航海士は洞察力が鋭い。自身の熱々餃子をとり、またふうふうと息を吹き掛けて冷ますと、

「はい!」

料理人の鼻先に、つきだしたのだ。彼は、キョトンとする。指をさす。自身の皿をさす。まだこんなにあるのにと言いたげだ。

「あんたのちょっと冷めたでしょ。熱々のも食べなさい」

「え、いや、ナミさん。おれ最初の方に」

「私の無料のあーんの機会なんか、今しかないわよ。私のお誘い断るの?」

「うっ」

ほら、と鼻先で餃子を揺らされて、料理人はもう退けなくなったのか。おずおずと口を近づけてくる。こんなときは遠慮するんだから。そう呆れながら、航海士は料理人がちょっと申し訳なさそうに、でも幸せそうに餃子をかじるのを優しい笑顔で見つめるのだった。

「美味しいでしょ?サンジ君」

「もう、はひほーへふ!!」

<end>