sevendays23
2019-03-04 21:59:11
1503文字
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オムライスのお話

タグより。その1。
ありがとうございます!

フライパン三つ、卵が踊る。とんとん。とんとん。柄を柔らかに叩き、手首にスナップをかけると、ミルクの香りがほんのりただようとろとろ卵が、美しい薄黄色が艶やかなオムレツになっていく。
かたや、皿の上に調えられた巨大な楕円形にチキンライス。つやつやとケチャップをまとったライスの中には柔らかな鶏肉が一口大でかくれんぼ。また、サラダやスープはついているけれどこちらでも野菜もとってほしいというコックの願いを込めて、お星さまのように小さなニンジン、コーン、グリーンピースが輝いている。

「もうできるぞー」

「はやくしろ」

「腹ペコだ!!サンジ!!」

今日の客は、船長と剣士。この船の中でも大食漢だ。だから、形を調えたところで空腹が勝ってしまってガツガツやり始めるのは見えているわけだが。

「まぁまて」

チキンライスの上。卵が空をとぶ。一回転のち、見事に着地する。ふるり、ふるふる。オムレツが微かに揺れる。ほっそりとした指で掴まれたナイフがきらりとライトに光る。食い入るように今はオムレツオンザチキンライスというだけの皿をよだれだらだらで眺める船長。剣士は焦らすなとうめきつつ口の端からちょっとよだれが出ている。くつくつと笑って、今日はサービス。見ないふり。

「じゃ、いくぞ」

すうっと柔らかな表面を撫でるようにナイフをいれる。切れ目からとろりとした卵のベールが飛び出して、赤いチキンライスをふわふわとくるんでいく。固くあれ柔らかくあれ卵でくるむ、この作業があってこそのオムライスだと料理人は思う。この作業がなければ、先程も言ったようにただのオムレツオンザチキンライスなのだ。長いけれど。

「最後に、ケチャップで、と」

今日は趣向を凝らして、手作りケチャップのリボンをつけてやる。何でだ、と船長に問われたので、その頭の上にのってるやつと形が似ているからと返してやった。

「ほら、できた」

サラダとスープを添えれば、麦わらオムライスの出来上がり。そういうが早いか、スプーンをひっつかみ、いただきますと喚いた二人。眺めたのはほんの数秒だろうか。最初の一掬いは、がばりとむしるように。でもゆっくりと。もむもむと味わう。ごくん。そこからは、ガツガツと、むさぼるように。頬袋を膨らませる。その表情は至福を表しつつも、一粒たりとも残すものかと必死な様相。誰もとりはしないのに。いや、船長ならやりかねないか。

「焦って食うとつまらすぞー」

そう呻きながら、自身はちゃんと一口大。とろりとバターの香りを纏った半熟卵がチキンライスの上でふるりと揺れるのを目で楽しみ、ぱくりと口に含む。鶏肉の旨味が米にまとわり、野菜の歯応えや甘味がとろけ、ケチャップが酸味と甘味を与え、くどくないように優しい口当たりの卵が口の中でもそれらを包んで、和らげる。

「んー、絶妙」

瞳を閉じて、その旨味の一体感を噛み締めて味わう。だが、ゆっくりと今度は大きめにもう一口。この後はちょっとペースアップだ。なぜか。これから始まるのは、一流コックの毎日のような嬉しい悲鳴。ちょっと美味なご飯を急かしてでも味わいたい、至福の一言。

「おい、コック」

「サンジぃ!!うんめぇ!!」

美味さに急かすように、名前を呼ばれたあとに響き渡る、コックにとっては最高の決まり文句。

「おか」

「わりーーっ!!」

……ん」

料理人は嬉しそうにぷはりと笑い噛み締める。至福の一言を、噛み締める。そして、皿の上のオムライスの最後の一口を飲み込むと、ゆっくりと席をたち、新たな仕事に動き出すのだった。

「少々、お待ちを」

<end>