sevendays23
2017-03-30 16:53:13
3812文字
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フライ・フィッシング

リクエストboxその1


「よーし!!」

「つーるーぞー!!今日の晩飯ー!!」

「はしゃぎすぎて落っこちんなよー」

釣りざおが晴天の元に揺れる。よく澄んだ川の水は新緑いっぱいの山々を映し、静かにせせらいでいた。そんな水を少しだけ足で跳ねながら凄むのは名の知れた山賊ではなく。

「こんな山の中で海賊がキャンプか」

「仕方ないでしょ」

満更でもない表情の剣士の言葉に航海士は膨れっ面。そう、ここにいるのは賊は賊でも海賊の麦わらの一味。

彼らが来たのは全くの偶然だった。新世界の海でも海釣りを楽しんでいたら、たまたま糸に引っ掛かったのが海王類。一匹ならおかずにできそうなものだったが運が良いのか悪いのか、釣りをしていた一味全員違う種類の海王類を釣り上げてしまった。計9匹。これではこちらがおかずになってしまいそうだと、獲物を逃がすのかと不満そうな船長を料理人が針はずしのテクニックを披露して気を紛らわし、その隙に空来・バーストで逃げてきた先がこの川だった。

「お陰で上手くつれりゃ久々の川魚だ。とれたら煮るなり焼くなり」

「フライなり!」

「今日はフライ・フィッシングだしなァ」

狙撃手がにっと笑い、船大工がそれに同調する。料理人はその様子を見てため息をつき、彼らが開発した毛針を取り出す。まるで虫の形をしたようなそれはふわりと軽く、顔を近づければゆらゆらと揺れていた。

「簡単に言ってくれるが、おれ含め全員フライ初心者だろ?」

「う、うん」

「おもしろそうだとウソップさんがどこかから仕入れてきた情報と」

「ロビンが前に買ってた雑誌が頼り」

「これね」

海王類をつり上げた騒動で疲れてしまったらしい考古学者は川のほとりに生えている山いちごを、航海士を誘って暇潰しに摘んでいた。彼女は能力で手を生やして雑誌を見せつついちごを摘んでいるから器用なものだ。狙撃手は感心し雑誌に顔を近づける。

「まー、そんなのみなくてもやってみればわかるさ!えいっ」

「のわっ、バカ、あぶねぇだろ!こっちに投げるな!」

「わー!!わたし釣られたー!!」

船長の適当に放った糸は料理人にさっとかわされ、音楽家をヒットした。ありゃと首をかしげる船長。まるでお化け屋敷のように宙にぶら下がもがく哀れな骸骨を料理人があきれつつ助けてやる。

「おれたちはちゃんと」

「本読んでやろうなー」

「なー」

「ロビン、貸せ」

「いいわよ」

そんな様子を尻目に、残りの彼らは考古学者から雑誌をありがたく頂戴するのだった。

ーーー

「なんだか、カウボーイみてぇだなァ」

「カウボーイ?」

「お前みたいな獣を捕まえるやつらだぞ、チョッパー。固い投げ縄、電撃落とし穴、巨大割り箸……

「ぎゃー!!!」

「おい、チョッパー、おれをつろうとすんな!!」

びゅんびゅんと糸が空でまわる。男共7人仲良く同時に揃って重めの釣糸を振り回していた。といっても、糸を回すというよりは前後に降るような動きに近い。これで勢いをつけて軽い重りを遠くに飛ばそうと言う算段だ。だが、雑誌を読んだだけでできるなら誰しも玄人だ。

「あーっ、フライが木をフィッシングしちまった!!」

響く狙撃手の悲鳴。

「あり?今度はチョッパー釣っちまった」

「ぎゃーっ、食べられるー!!」

おとぼけ船長と船医の悲鳴。

「おれの方が一センチ遠くにとんだ」

「おれの方が二センチ」

「やっぱり四センチだった」

「おれは八センチ」

「じゃあおれは……

「相変わらずよくやるなぁ、お前ら」

みみっちい料理人と剣士の争いに、船大工はため息をつきながら糸を投げる。

「よしきましたー!!」

「なにぃ!!?」

そんな間にひっそりと長年の経験と勘を駆使して上手く竿を投げた音楽家に当たりがヒットした。きりきりとリールを巻き上げれば、見事なヤマメが空にフライする。

「どやぁ、です」

「お前に顔ねぇけどなー」

「負けねぇぞ、ブルックー!!!」

びちびち跳ねる魚を骨ばった指でつまみ、自慢げな最年長。そうすると負けじと竿を同時に投げ始めた年下組。最初はやはり空き缶やら長靴やらマリモやらもフライしたが、

「つれたー!!」

「おれもぉ!」

「ニジマスフラーイ!!」

「おれのイワナの方が一センチでかい」

「おれのニジマスのが二センチ……

やがて生きのいい大きなイワナやニジマスを次々とフライして、山のように積み上げたのだった。

ーーー

「一杯つれたなー」

「今日はごちそうだぞ」

「やったぁ!」

獲物をとった彼らは意気揚々とキャンプ地に戻ってきた。すると籠いっぱいの山イチゴと少しばかりの香草や山菜、そしてそれを少しだけ自慢げに見せるレディたちが出迎えてくれた。

「ありがとぉー!!愛しのレディたちィィー!!めろりーーん!!!」

「いいのよ、楽しかったから 」

「これで美味しいお料理とデザートお願いね」

「喜んでェー!!」

麗しいレディたちにそう言われれば、料理人は張り切らざるを得ない。他の一味がテントを苦心して張ったり、竹を切って器にしたり、たきぎの準備をしたり、塩の結晶を回収している間、敢えて野外で食事の準備に終始する。キッチンでもできるのだが、せっかくなら最後まで山のアウトドアを楽しみたいと思ったからだ。だからダッチオーブンやらスキレットやらをあちこちから取り出して準備を行う。

「取れ立ての川魚は手早く捌き……どうするかな」

頭の中でレシピを組み立てつつも、次々と包丁で捌き、串に差したり三枚おろしにし、そのいくつかを二本の包丁で細かく叩き終える。いくつかは小麦粉をムラなくつけて。

「サンジ!フライもー」

「わかってるよ、だじゃれフライだろ」

ロープを張りながら飛んできた声に苦笑して、衣をつける。薪の揚げ物は火力調整が大変だから後回しと、米を清らかな水で研ぐ。それを終えると片手鍋でいちごを煮詰め、両手鍋に切った野菜を入れて、と調理を進めていく。そうこうしてる間に揚げ物の準備をして。その香りを嗅ぎ付けた他の一味が鼻をひくひくとひくつかせ始める。

「いーにおいしてきたなぁ……

「おいルフィロープ離すなよ」

「テントが崩れるー!!」

「わぁっとあぶねぇ」

彼らの油断を引いてしまうくらいのディナーのいい香りによだれと生唾を飲みながら、彼らはテントの仕度を終え、駆け足で空の下のキッチンに向かう頃には。

「できたぞー」

「うぉぉぉ!!」

出来上がっていた料理に彼らは興奮した声をあげた。串焼きはこんがりと塩加減よく焼けている。スキレットで作ったムニエルはバターの香りがふんわりとして、女性陣が山からとってきた香草がアクセントだ。竹の皿に盛られたさくさくのフライは油の香りが食欲をかきたてる。鍋でくつくつと煮えているのはニジマスのつみれ汁だ。中骨がこりこりとした食感を生み出すのだという。

「この竹は?」

「あけてみて、いいものがはいってるから!!」

航海士がめいめいにある竹の器に首をかしげ、料理人に促されるままに開ける。他の一味も開けると、途端に生唾を飲む音が響いた。

「ヤマメの炊き込みご飯」

「うまそー……

うっとりとした声。ヤマメの出しをたっぷり吸った米はアクセントの山菜が混ざりながらもふっくらと炊き上がり、かりかりのおこげがほんのりと出来上がっていた。

「そして、レディたちがとってくれたイチゴで作ったデザート」

料理人は気合いを入れたように背中から取り出したもの。彼らはまばたきした。

「バームクーヘン?」

まさかのデザートだった。ジャムとクラッカーとかそんな感じだと思っていたら、薄い甘い香りのする層が均等に美しく重なったほんのり桃色のバームクーヘンが完成している。

「そう、たきぎでできるんだよぉ!!イチゴの甘さがちょうどよくて、レディたちの疲れたからだにしっとりと染みてそれはそれは……

「サンジ!!はやく食べてぇ!!」

……お前は少しは待てを覚えろよ」

愛の解説は即座に船長に遮られ、料理人はぶすりとしたが、

「でも、まぁ、仕方ねぇか」

途端に、船長の顔と出来上がった料理を見渡してにっと笑う。

「自分等でほとんどとったもんだもんな」

「しししっ、だからはやくたべてぇんだ!」

船長はその言葉に満足げに頷き、再度促した。

……よぉし」

料理人は手を合わせた。他の一味も嬉しそうに手を合わせる。船長はいっとう嬉しそうに叫んだ。

「いただきますっ!!!」

釣りでめいっぱい体を動かしたり山イチゴ摘みに集中した一味は腹ペコだった。幸せそうにあちこちに手を伸ばし美味しい料理を次から次へと平らげていく。自分達で獲った、山の幸や川の幸をうまいうまいと繰り返しうめきながら平らげていく。

「今度は別の釣り方で試してみて」

「またうまいもんいっぱいとろうな!」

「うん!」

平らげながらもう次の相談か。年少組のそんな会話を聞いて、残りの一味はくすりと笑い、ひっそりと考古学者の釣り雑誌をまた開くのだった。

ーー次はイカ釣りとかいーなっ。

ーーそりゃ、今度は9匹の大王イカが釣れそうだな。

<END>