今日のドリンクはたっぷりクリームとベリーが入った自家製ソーダフロート。といっても、それはレディたち専用。後の野郎共には普通にレモンを添えた自家製ソーダだ。あとは、余ったフルーツを切って添えて。よし、ととりあえずレディの分をおぼんにのせ、料理人は太陽の下に繰り出した。ぽかぽかといい天気だ。あたたかな日差しがサニー号に差し込んで心地いい――
「のわっ」
「だずげでぇぇぇ!!!」
だが、それを味わっている間もなく、小さな塊が彼の方に張り付いた。がたがた震える毛の塊。料理人はそれが船医だとすぐに気づいて、ため息を漏らす。
「どうした」
「お化けがでたんだ!!ごわいよぉ、ザンジィ」
「ごわいよぉ、サンジさん」
「それは詳しく見てみないとな、サンジ」
「何ひっそり混じってやがる、ホネ。それとお前はいちいちガルチューやめろって・・・・・・」
口を悪くしながらもしがみつく音楽家はそのままにしてやって、ペドロの勢いのいいガルチューをさっとしゃがんでかわした。
「見たのはチョッパーとブルックだけ?」
「うん。青い炎みたいだーって急に叫びだしたよ!」
「私とルフィとキャロットは見てないの――」
「あ」
キャロットの言葉を聞いて頷き、航海士に料理人が視線を向けた途端、予想外の行動をしている人物と視線が合った。彼の腕をゴムの腕でかいくぐり、添え物のフルーツをわしづかみし口に突っ込むことに飽き足らず、レディ専用のスペシャルドリンクに手を出そうとする船長を。料理人は、いったん離れろと船医と音楽家の二人を諭した。
「ペドロ、ちょっとこれ持っとけ」
「わかった、サンジ」
残ったおぼんは従順なペドロにすっと手渡され、フルーツを口に突っ込んだままの船長は料理人と目が合う。顔は笑っている。だが、目は笑っていない。船長の顔に汗がにじみだした。
「言い訳を聞こうか、船長」
「おれはちゃんといただきます言ったぞ!!」
がんっ、と船長に勢いのいい蹴りが入った。
「ありがとな、ペドロ。ドリンクどうぞ。お二方」
「ありがと」
「わぁ、サンジありがとう!!」
「極上の幸せェ!!!!」
スペシャルドリンクをもらった彼女たち。煙をしゅーっとあげながらぴくぴくと動く船長を尻目にドリンクをおいしいと啜る。
「あああ!!!まだぁぁ !!」
「あ??」
慌てるように指を差した二人にのし掛かられ、目をハートにしていた料理人は上を見やった。
「ほんとだ……!!」
「ひのだまぁぁぁ!!
悲鳴をあげ始めたキャロットと航海士。空に浮かぶ青い炎のような塊。青空に紛れるようにちらちらと揺れている。
「これが幽霊……」
「待てよ」
「サンジ?」
ペドロは刀を構えたが、黒スーツの腕がそれを制した。料理人は落ち着きはらって、空をあおぐ。
「なんだ、幽霊じゃなくてただの氷蛍じゃねぇか」
「氷蛍?」
「へ?」
あっさりとした反応に、怯えていた4人はきょとんと顔をあげる。料理人はひょいっとその中に手を突っ込んだ。つめてぇ、と小さい声をあげる。
「ほら」
「ほ、ほんとだ……」
料理人は親指と人差し指で摘まんで見せる。彼らはまばたきした。大きな蛍が冷気と光を出し、料理人の指の中でばたばたしている。
「ルフィ、キッチンのソーダ持ってこい」
「ん?」
ガバッと顔をあげた船長に、料理人はにっと笑った。
「こいつにジュースを近づけると、うまいシャーベットになんだよ。スプーンもとってこい」
「シャーベット!!!ペドロもてつだえ!」
「わかった、すぐ行く」
「反応はやっ!!」
船長はぱっと立ち上がり駆け出していったと思うと、グラスをわしづかみにして持ってきた。ペドロもグラスをその肉球で鷲掴みにし、尻尾にはスプーンの束をつかんでいる。
「レディたちもどう?」
「え、えぇ」
「蛍がジュースをシャーベットにするなんて……海ってほんとうにワンダーランド!」
頷いた航海士とキャロットのグラスをうやうやしくとり、そっと捕まえた蛍を近づける。ぼうっとした青い光が放たれ、グラスに当たったかと思うと、ぴきぴきっとグラスが凍った。おおっ、と声が上がる。
「どうぞ」
「わぁぁ……!おやつ……!」
「宝石みたい」
キャロットと航海士はグラスをうっとりと見つめた。スプーンをグラスに沈めると凍りついたジュースはしゃりっと音を立てた。ゆっくりとスプーンで掬い上げると、その氷の塊は太陽の光でキラキラとかがやく。口にぱくりとほおり込むとぷるりと身震いする。
「んー、おいしいっ」
「ね!!」
「よかったぁー!!よかったらおかわりもつくるからねぇー!」
「サンジ!!おれもおかわり!!」
「はええなおい!」
レディたちの賛辞にメロリンしつつ、もうグラスを空にした船長に料理人はツッコんだ。
「おれたちの怖いのなんだったんだ……うまっ」
「ですね……うまっ」
「……そういうこともある、あまり気にするな。うまっ」
そんな中、幽霊だったものが美味しいシャーベットになって、何だか複雑さを感じている二人を、ひっそりとペドロが慰めるのだった。
<END>
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.