sevendays23
2017-03-28 16:19:04
1431文字
Public
 

飯時注意報

某店に食べに行った。コックしてる兄さんが見たくてたまらない。

「麦わらの一味、手をあげろ!!」

どたどた騒がしい足音が甲板から響く。キッチンの扉を勢いよく開けて、海軍服に身を包んだ男たちが約数十人ほど一斉になだれ込んできた。ガチャリと銃のなる音、きんと刀が構えられる音。海軍が総力をあげて捕えるべき海賊。血眼になり、軍力を尽くすのも無理はない。だが、

「静かにしろ」

威圧ともとれる声が響き海軍たちは震えあがる。ゆっくりと海軍たちの方に歩み寄ってきたのはこの船のコック黒足のサンジだ。フライ返しを掴みあげ、桃色のエプロンを揺らしながら鋭く男たちをにらみ、耳を澄ませている。やる気か、男たちは怯えるもそう凄んで彼に近づいたが。

……もういい」

彼はくるりと踵を返して覇気を解いた。海軍たちはきょとんと目をむく。彼が向かった方から、じゅわりといい音がした。刹那、舞い上がる、こんがり焼けた肉の塊が二つ。人参の甘煮に、いんげん。バターコーンに、ホクホクポテト。そんな付け合わせが待つ黒い鉄板に着地したそれは、肉汁を湛えているのかまたじゅっと音を立てて揺れた。とろりとソースがかけられ、さらに食欲を煽るにおいを放つ。ごくっと海兵たちは生唾を呑んだ。すっかり、その動きに夢中になって、全てを忘れていた。目的やら、捕えるべきものやらなど。料理人もふうっと息をついて笑う。

「焼けたぞ、船長」

「うぉぉぉぉ!!!!」

海兵たちは声を裏返した。海兵たちがばったばったと跳ね飛ばされていく。ゴムの腕がキッチンの扉に張り付く海兵たちをちぎっては投げちぎっては投げ。海に容赦なく叩き落していく。料理人はその間に土鍋をあけ、ほんわりと湯気の立つもちもちライスを皿に盛っていく。そしてさらりと、コンソメ香るスープが添えられた途端、どかりと待ちきれないとばかりに席につく音がした。

「なんかいたか?」

「いなかったからチーズ入りハンバーグ!!!」

「へいへい、おかわりあるからあせらず食え」

「やった!!」

船長にさっと銀色のナイフを渡し、自身も鉄板と向き合う。途端にぐぬぬ、という喚き声が同時に放ったいただきますと重なった。椅子の辺りで転がり刀を構えた中佐に気づかず、一口で平らげようとする船長を横目で見ながら、料理人はよく磨かれたナイフをすっと手に取った。

「覚悟ーー!!」

「チーズの儀式ーー!!!」

「え」

中佐は思わず刀を振り上げたまま固まった。料理人がハンバーグにすっと通したナイフ。すうっと音を立てて切りだした柔らかい側面から溢れ出すのは、肉汁をたっぷりと絡ませた白いチーズの海。デミグラスと絡んだときのその香りは暴力的なまでに胃袋を刺激し、ごくんと中佐は生唾を呑んだ。すっと小さく切られた肉汁をはらんだハンバーグが、とろーりチーズと旨みたっぷりデミグラスと一緒に、料理人の口に運ばれていく。

「ぎゃあ!!」

「おれもチーズの儀式やるーー!!!」

興奮と喜びに振り上げた拳が、また全てを忘れていた中佐に容赦なく突き刺さり、吹き飛ばした。料理人は顔をあげて、呆れたようにナプキンで口元をぬぐいながら呻いた。

「飯時に襲ってくんなよ」

「なんふぁいっふぁか」

「こっちの話だ」

そういって、ぴくぴくとまだ動いている中佐を、飲み物をとりにいく振りをして扉の外に蹴飛ばした。
このあとこの近辺の海軍支部では、食事をしているときは麦わらの一味を襲わないようにという注意書きが触れ回ったという。