sevendays23
2017-03-14 22:18:42
2550文字
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お礼のホワイトデー



「サンジ君はお返しいいからね」

「えっ」

一週間後はホワイトデー。おいしい心の籠ったチョコレートをくれた女性陣に男性陣がお礼する日。彼はお返しに悩める野郎どもに一通りお菓子作りや贈り物の手ほどきした後、女性陣にお返しスイーツは何がいいかと尋ねたばかりの時のこの返答。思わず瞬きしてしまう。

「だって、またあいつらにお菓子のアドバイスしたんでしょ?だったらその日のおやつはサンジ君仕込みのおやつがどのみち食べられるじゃない」

「バレンタインも美味しいチョコレートをもらったのに、これ以上お菓子をもらったらもらいすぎになってしまうわ」

「え、いや、あの」

予想外の方向にころころ転がる話。料理人は航海士と考古学者に視線を行ったり来たりさせている。

「あんたも私たちと一緒にお菓子食べましょ。あいつら絶対あんたにもお返し作るから、断言するわ」

「せっかくの機会だしたまにはゆっくりしたら、サンジ」

「う」

航海士と考古学者にニコニコしながらそう言われて料理人は戸惑ってしまった。確かにレディたちとお茶ができるというのは最上の幸せだが、そんな優しくしてくれる彼女たちのためにお菓子を準備したかったという思いも捨てきれない。野郎どもにさせるままもちょっと照れ、いやいや癪だ。困った、どうしようか。

「じゃあ一週間後を楽しみにしてるわね」

「15時からティータイムね」

そうこうしている間にレディたちは行ってしまった。料理人はああ、と呻きながらまだ悩んでいる。レディたちとティータイム、でも彼女たちに何かしたい。だが、彼女たちはにああいわれた手前お菓子を無理に用意するのは。

「待てよ」

料理人はぴたと呟いて動きを止めた。瞳を見開き、頭の中で反芻させるとある言葉。それは先ほど頭の中で呻いたカタカナ6文字のとある言葉。特に大事なのは、最初の3文字。

「だったら」

彼はさっそく鍋やらをひっつかむと行動に移し始めた。

――

ホワイトデー当日。お昼を食べ終わった後、今日は料理人と女性陣はキッチンに出入り禁止とのお達しがあった。隠す気があるのかないのかと苦笑しながら、料理人は地下の食糧庫で食料チェックをすると彼女らに告げた。

「勤勉ね」

「ね。まぁおやつの時間はのんびりできるわよ」

考古学者と航海士は顔を見合わせて彼を送り出し、談笑にふける。そうして数時間が経った頃、できたぞと嬉しそうに船長に呼ばれてキッチンに入れば。

「あら」

「すてき」

かりかり揚げたてドーナッツにとろーりとバターがかかったふかふかパンケーキ。チョコチップが効いたほんのり甘いマフィンにさくさくのいろんな形のあるクッキー。テーブルにずらりと並んだ、甘い香りがいっぱいのホワイトデーのお返しの数々に彼女らの表情はたちまちほころんだ。

「おいしそう」

「ね」

「うんめぇぞ!みんなで作ったんだ!」

「おかえしだぞ!」

船長はししっと女性陣に笑いかけ、船医がピョンピョン飛びながら主張する。他の野郎どももしてやったりのいい顔だ。

「ありがと。十分な三倍返しね」

「きっと食べきれないから、みんなで食べましょう」

「やったー!!」

「おやつパーティだー!!」

やっぱり食べたかったらしい野郎どもが歓声を上げる。くすっと女性陣が再度笑い合い、席に着く。すると、

「おー、うまくできたな」

料理人が食糧庫から現れた。何やら茶色い紙袋を抱えている。

「おーともよ、サンジの分もあるからな!」

「おかえしだ!!」

「ちゃんとみんなで頑張ったからな!」

「はは、ありがとよ」

そう言って笑えば、船長や船医や狙撃手は改めて顔を嬉しそうに輝かせた。船大工は鼻の下をこすり、音楽家はヨホホと機嫌よく笑い、剣士はまんざらでもなさそうな顔をしている。すると、しゅーっとやかんが鳴る音がした。料理人はそんな彼らを見てまた上機嫌。くるりと空っぽのキッチンの方を振り返る。

「サンジ、たべねーのか?」

「茶くらい淹れさせろ。やかん沸かしててくれたんだろ」

「おうともよ」

船大工が沸かしてくれたお湯を使ってカップをあたためはじめた料理人。どうやら紅茶を入れてくれるらしい。茶葉をポットに入れ、湯を入れて蒸らし始めている。すると、

「で、おめぇは瓶詰め成功したのか。あんなちいさいのどう使うか知らねぇが」

「え?」

聞き返したのは航海士だった。料理人は紅茶のポットを無言で見つめながら、どこか口元を緩めている。

「小瓶ほしがってたんだぜェ、こいつ。だから、おれが9個ほど作ってやって。それに詰め物するから作業室使わせろって言ってたろ」

船大工のそんな言葉に、彼女たちは顔を見合わせる。

「ええ?私たちには食料チェックっていったのに?」

「まさか」

「おまたせしました」

高い打点から、紅茶が注がれる音が止んだ。彼女たちははっと振り向いた。

「紅茶と、おさとうのセットです」

やられた、と彼女たちは苦笑する。野郎どもの顔がきらきらと輝く。剣士も興味深そうにへぇと呻いた。湯気がほかほかと立ち、優しい香りがする紅茶のカップの側には、色とりどりの金平糖が詰まった小瓶が添えられていた。

「サンジ君、いいっていったのに」

「これはおさとうだよ。紅茶用の」

「素敵な屁理屈ね」

「恐縮です」

そううやうやしく紅茶を出されると、彼女たちは怒る気もうせてしまうし、嬉しいものは嬉しい。だが、彼女たちはすぐにはお礼は言わなかった。なぜなら、この後に起こることがわかっていたからだ。

「よし、準備完了」

料理人はゆったりと席に着いた。だったら。全員がテーブルに着くと、全員がにっこりと笑った。そう、起こることはただ一つ。

「あらためて」

「チョコレート」

「お返し」

「お茶目な紅茶」

「ありがとうございます!」

みんながみんなに、お礼を言うことだ。そして言い終わった後も、やることはただひとつ。彼らは同時にパンと手を合わせて、嬉しそうに叫ぶことだけだ。

「いただきまーす!」

賑やかなホワイトデーのお返しパーティの幕開けを。

<END>