私は、ジェルマの料理長として生まれてきた。名前はない。ただ、王族に奉仕し、彼らが食べたいものだけを出す。好き嫌いをしたものや残り物が毎回たくさん返ってくるが、それを咎めたことはない。王族には、逆らえないから。でも、なんだろう。捨てられたものをみるとなぜか胸が痛むのだ。なぜなのだろう。
ある日、サンジ様がキッチンにこられた。こっそりと飼われているネズミに餌を作ってやるらしい。内緒だぞ。と言われたから頷いた。王族には、逆らえないから。でも、なんなのだろう。同じ逆らえないなのに、こちらの方が気分がいい。
サンジ様が、レイジュ様に怪我を治されているのを見た。私までいじめられるもの、そんなの嫌よと言いながらサンジ様の治療をされていた。私は、いつものようにおやつを差し入れにきただけなのだ。でも、その姿はかなり心が痛んだ。サンジ様は確かに王族だが、その上にいるわが総帥はジャッジ様だ。ジャッジ様がされることに何か文句があるのだろうか。私は。
サンジ様は死んだらしい。同胞の多くは涙を流している。だが、私は知ってしまった。鉄の仮面をかぶせられ、地下に幽閉されているサンジ様を。弱く生まれてきてごめんなさい、とひたすら謝るサンジ様を。その言葉は、私の胸に突き刺さって、離れなかった。
私はいつの間にか牢に近づいていた。名前も知らないが気の合う同胞がたまたま番になっていた。ジャッジ様がここに閉じ込めておけとだけ頼まれたと言って私を牢に近づくことを許してくれた。そして、これからする行為も、ジャッジ様に聞かれるまでは黙っておくと言った。なんていい同胞だ。名前がなくとも、心は繋がれるのだ。
サンジ様は、おなかがすいたと言った。ここを出たいとも言った。王族に頼まれたのなら、答えるしかない。私は、ジェルマの料理長。王族が食事をとらせることを、役目としているのだから。だから、いつものような食事を作った。サンジ様は美味しいといって食べた。食べる間だけ、その重い仮面は外していた。
私は、週に一度、その同胞が見張りの時だけここにきて食事を与え、サンジ様の気晴らし役になっていた。何か楽しいことを話してくれと言われたから、キッチンで見つけた本にあったオールブルーの話をした。幻の海。料理は作り放題。予想以上にサンジ様はその話に夢中になった。
サンジ様は、ここを出てオールブルーを探しにいきたいと言った。外に商船が来ていた。そこに紛れ込ませれば、脱出できるのではないか。
私はジェルマの料理長。サンジ様が望むなら、彼を外に出さなければならない。いやまて。ジェルマの料理長、だからだろうか?よくわからなくなった。彼を外に出したあと、考えることにしよう。
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