マロビ
2023-11-29 22:01:48
10102文字
Public リョ三
 

【独尊6展示❶】となりの部屋の高校生(大2リョ×高2グレ三)

【リョ三/シリアス/年齢操作】
一人暮らし大2リョ×隣人高2グレ三
アパートの隣の部屋に居候している寿クンと仲良くなるリョータ。弟のようにみていたのに次第に惹かれていく。でもそれに気づきたくないリョータだがある日…。
両片思いでビターEND。

となりの部屋の高校生


 夜、大学から帰ってきた宮城はボロアパートの下から二階の窓を見上げて、隣の家の窓に灯りがついていることに気づいた。
「めずらし」
 このアパートに引っ越してきてから半月ほど経っている。夜中に隣人の在宅に気づくことはあっても、生活が不規則なのか昼間にでくわすことがなかった。
 一応、引越しの挨拶に粗品として洗剤を準備していた。下の階の住人にはすでに挨拶して渡している。隣の住人には渡せないまま、部屋に置いていた。
 今ならまだ夜の早い時間だから訪ねるのに非常識でもないだろう。
 宮城はカンカンと足音の鳴る外付けの階段を上がって部屋に戻った。上がってすぐの角部屋が宮城の部屋だった。
 宮城は大学2年生。最近まで住んでいたアパートの雨漏りが酷く建て替えるとかで追い出され、大学近くのボロアパートへ引っ越してきた。
 バスケのスポーツ推薦で入学しているため、バスケに集中するために実家から出ている。一時、実家から通うことも考えたが、やはり大学の近くで、と思い直して季節外れに賃貸を探した。
 結果、なかなか良い物件が見つからず、安い代わりに治安が悪い地区のボロアパートに転居することになった。
 それでも狭い風呂とトイレがついているからボロさには目をつぶった。
 そんなアパートの下の階の住人は耳の遠い老人。早朝練習で朝が早い宮城は朝によく鉢合わせて挨拶している。
 そしてなかなかタイミングの合わない隣の住人。夜中に帰ってくる気配はあっても、昼間は玄関ベルを鳴らしても反応がない。
 キャバ嬢かホストかなと思っていた。だから玄関ベルを鳴らして出てきたのが黒髪を肩まで伸ばした整った顔の男で『ホストのほうか』と納得した。
「夜分にすみません。201号室に引っ越してきた宮城です。入居の時、うるさくしていたらすみません。これからよろしくお願いします。あとこれ、洗剤なのでよければ使ってください」
 粗品を渡そうとすると、目の前の男は受け取ろうとせずに少し首を傾げた。
「隣にちゃんとしたヤツがはいんの初めてかも」
「え?」
「ラリったヤツとか色んな男連れ込んで四六時中アンアン煩え声あげる女とかばっかりだから。このへんマジで治安悪いから、路地裏とか気ィつけなよ」
 そう言ってニッと笑うと、洗剤を受け取って扉を閉めた。
 そこまで治安悪いのか、と呆然としていたらまた扉が開いた。
「あ、オレ三井寿。家主は鉄男ってヤツ。だけどデカくて怖え顔のヤツだから、声かけねーで良いよ。あとこの部屋は変なヤツがたむろしてることもあるから、カツアゲされないように気ィつけてね」
 また扉がしまった。しばらく待ったが再び開くことはなく、そのまま隣の自分の部屋へ戻った。
 親切なのか脅してんのかわからない。ちょっとからかうような笑顔だったから、冗談の可能性もある。とりあえず、なるべく朝早く出て夜遅く帰ろうと思った。

 そんな寿との再会は偶然だった。
 夜に帰ってきてベランダに干しっぱなしの洗濯物を取り込む時、手元が誤って外した洗濯バサミが横に飛んだ。
 「あ」と声を上げた時には転がった洗濯バサミが隣との仕切りの下にある隙間に入っていた。
 まぁ……洗濯バサミくらい、と思ったところで、仕切りの横から手がヌッと現れた。その手には洗濯バサミ。
「おにーさん、落とし物」
 仕切りの横から外に顔を出すと隣の住人、三井寿が見えた。
「すんません、ありがとーございます」
 隣のベランダに人がいたのか、とちょっと恥ずかしくなった。ぎこちなくお礼を言えば、プッと笑われた。
「オレよりおにーさんの方が年上だぜ。そんな緊張すんなよ」
「いくつ?」
「オレ高2だから。アンタは大学生だろ? 下のじーちゃんと喋ってんの聞こえた」
 下の老人は耳が遠い。つい大きな声で話してしまうから二階まで中身が筒抜けだったらしい。
 たいした話はしていないけど気恥ずかしい。
 高2と言われれば、確かにホストにしては話し方に幼さがある気がする。それでも背は宮城より高いし、高2ともなると顔つきが大人びている。ホストと勘違いしてもしかたがない。
……えーと、寿クンはベランダで何してんの?」
「部屋ん中がうるせえしタバコ臭えからベランダでスマホ見てた」
 今夜の隣は来客があるらしい。三井に言われるまでもなく、薄い壁越しに話し声や笑い声でガヤガヤしてるのが聞こえていた。
「そーだ。おにーさんに、良いもんあげる」
 引っ込んだ頭がまた現れて、手のひらの物を差し出してきた。
 少し白っぽいイチゴだ。
「ベランダ菜園してんだけど、肥料が悪いのか酸っぺえの。後で食べてみな」
 ホストみたいな高校生がベランダでイチゴを栽培してんのか。
 今度はこっちがプッと笑ってしまった。
「あ"⁉︎ オレが植えたんじゃねーぜ⁉︎ 鉄男の前の女が置いてったんだよ」
「でもそれを手入れしてんのは寿クンだろ」
……勝手に株が増えんだよ。うっせーな」
 貰ったイチゴは本当に酸っぱかった。
 口が悪いし、怖い顔の『鉄男』と治安の悪いアパートに住んでいる高校生。
 変なヤツだな、とは思ったが意外と親切だし、妙に人懐っこい。
 寿とは3歳差だ。その年の差は、死んだ兄のソータと自分の年の差と同じ。
 なんとなく、弟ってこんな感じなのかなと思った。

 鉄男は遠目に後ろ姿を一度見かけた程度なのに、寿とは何かと行動する時間帯が被っているのか顔を合わせることが増えた。
 ベランダで洗濯物を取り込む時に仕切り越しに話しかけられたり、夜に帰宅するとアパートの階段に座っている寿に出くわしたり。
「寿クンって親いねーの? お兄さんと二人暮らしだろ?」
 アパートの階段にスマホ片手に座っている寿に、コンビニで買った肉まんを半分に割って差し出した。
 寿は階段に座ったままポカンとこっちを見た。
「あに?」
「鉄男さんと二人暮らしなんだろ?」
 寿がウハハハと笑ってから肉まんを受け取った。
「ちげーよッ! 鉄男はダチ。イソウローしてんの。親は二人とも元気に生きてるよ」
 家に帰りづらい事情があるのかな、と思いながらそこまで踏み込んでは聞けなかった。
 寿が肉まんを食べようとして長い髪の毛ごと口に入れて不快そうに眉を寄せる。
「うえ」
 艶のある髪を指で耳にかける仕草が色っぽい。そう考えた自分にハッとして慌てた。
 体格は自分とそう変わらないし、顔は整っていても男らしい顔だ。なんでこれが色っぽいんだ。
「リョータ、食わねえならソレくれよ」
 呆然としている間にペロリと半分の肉まんを食べ終わった寿が物欲しそうに見上げてくる。
 餌付けみたいだな、と思いながら結局残りの肉まんもくれてやった。

 激しく玄関ベルが鳴った。鍵を開けると隣の寿で、押し入るように玄関を上がってきた。
「今日泊めて」
「は⁉︎」
 家が隣なのに泊めてとはどういうことだ?
 寿はガチャンと閉めた扉にキッチリと鍵をかけてチェーンまでかけた。
「良いだろ、一泊くらい。可哀想な高校生助けろよ」
「なんかあったのか? 鉄男と?」
「鉄男はいねーよ。鉄男とつるんでるヤツが勝手にキモいやつ連れてくるから逃げてきた。オレも勝手に住み着いてるだけだし文句言えねーけど、麻雀やるから場所貸せとかで勝手に来るんだよ。うあ〜、でもあいつウゼェから鉄男にチクってやる」
 顔を歪めてそう吐き捨てる。いつも口が悪いがいつも以上に荒々しい剣幕に気押された。
 唖然としている隙に靴を脱いで勝手にズカズカ上がり込んだ寿が部屋を見て「うわっ」と声を上げた。
「何コレ、バスケだらけじゃん!」
 あまり意識してなかったけど、確かにバスケグッズだらけだ。
 初めての一人暮らしで、壁にNBAのポスターを貼ったりバッシュを飾ったり、バスケ雑誌を表紙見せて並べてみたりとインテリアを楽しんだ結果、バスケグッズの圧が強くなった。
「オレ、バスケやってるから」
「え、趣味? は〜冴えねーな」
 少しカチンときた。バスケに興味ないにしてもけなされると腹が立つ。
「冴えねー部屋に泊まりたくなきゃ出てくかあ?」
「うそうそ。かっこいー。って賞状とかトロフィーもある。けっこうガチでやってんだ」
 そう言いながらトロフィーを持ち上げた横顔が妙に冷たい表情に見えて、声をかけるのに一瞬戸惑った。
……大学もスポーツ推薦だからな。飲み物は麦茶で良いか?」
「コーヒー入れてよ」
「寝れなくなるだろ」
……ガキじゃねんだから、まだ寝たくねーし」
 部屋の中をウロウロ見て回る寿に台所で温めたホットミルクをだしてやった。
 それをみて寿が眉間を寄せて下唇を突き出す。
「オイ、さっさと寝ろってことか?」
 拗ねる寿に、ニッと笑った。
「オレはガキだから早寝早起きなんだよ。大人な寿クンもさっさと寝ろよ」
「ええ〜つまんねー!」
 反応がガキでつい笑ってしまった。
 文句を垂れる寿を無視してローテーブルの上に開いたままのノートパソコンの前に座る。さっきまで書いていたレポート作成を再開した。
 寿は諦めたようで、隣にピッタリとひっついて座り、肩にもたれながら画面を覗き込んでくる。
 この距離感……彼女のやつじゃないか?
 ちょっとモヤモヤしながらバックスペースキーでよけいな文字を消す。
 ホットミルクをチビチビ飲みながら「ぜんぜんわかんねー。資料コレ?」とパソコンの横に置いているプリントをパラパラめくり邪魔してくる。
 そんな無駄な足掻きをしばらくすると諦めた。
「暇すぎー、スマホ部屋に忘れてきたし。なあリョータのスマホ貸して」
「変なとこ見んなよ」
「わーってるって」
 ネットかゲームでもするのかと思ってスマホの鍵を外して渡したら、速攻で写真アプリを開かれた。
「オイッ」
「バスケと飲み会の写真ばっかじゃん。エロい女のハメ撮りねーの?」
「コラ探すなッ」
 幸いにもそういう写真は無いし、彼女もいないし、変なアプリも入れていない。
 見られて困るもんもねーか、と寿を放置してレポートに戻った。
 最近、寿に完全に舐められているのか、言っても聞かない。なんとなく、甘えてるのかと思うと可愛く思ってしまって強く言えないせいだろう。
 資料を見直してレポートに書く内容を箇条書きにメモしていると、ブツブツ言っていた隣がやけに静かになった。
「これ、リョータが好きな女?」
 え、と振り向けば、寿が見ているのは飲み会での彩子とのツーショット。
「あ、ちょっ!」
「この写真すげえデレデレしてんの。慌てるってことは図星かー」
 取り返そうと伸ばしかけた手を引っ込める。
 コイツに慌てる姿を見せたら、よけいに面白がってからかってきそうだ。落ちつけ。
「好きな女っていうか、それ、高校の時のバスケ部マネージャーな。好きな女っていうか、みんなの女神様的な存在だから」
 ノーリアクションを心がけて淡々と言った。でも、隣の寿には通用しない。
「オタサーの姫みたいなもんか」
「いや、それはちげえから! アヤちゃんは男にチヤホヤされるっていうより男をビシバシハリセンで叩いてケツを押してくタイプで!」
「女王様か」
「そぉなんだけど……それともちげえって言うか! 強くて芯のある姉御肌って感じなんだって!」
 熱弁すればするほど、寿は隣で膝を抱えながらクククと笑い出した。完全にからかわれていたことに気づいた。
「オイ! 邪魔するんだったら追い出すぞ」
「リョータはそんなイジワルしねーし」
 信頼されてんだか舐められてんだかわからない。
 もうアヤちゃんのことに触れられても無視! と思った矢先にまた寿が遊び始める。
「デレデレしてる顔がダセェから写真消してやろ」
「オイッ!」
 取り返そうと手を伸ばすと、寿はゲラゲラ笑いながらスマホを持った手を伸ばして遠ざけた。
 体格的にそんなに変わらないから、簡単にはその手を捕まえられない。
 逃げようとする寿の腰をつかんだ時、体勢を崩して2人してもつれて倒れた。
 身長はあまり変わらないとはいえ、体の厚みは宮城の方が大きい。押し潰してしまうとハッと気づいて寿に乗り上げていた体を起こせば、その距離の近さに既視感があった。
 艶のある黒髪が畳の上に散らばり、少し息を乱して上気した頬、少し開かれた柔らかそうな唇に目が釘付けになった。
 既視感は女を押し倒した時の体勢と同じだからか。気づいたとたん、畳についた両手にじっとり汗をかいた。
 畳の上に仰向けになってこっちを見上げていた寿が、スッと目を逸らした。
「さっきさ、隣から逃げてきたって言ったじゃん」
「あぁ……
 この危うい体制のまま、何を言い出すのかと思った。
「アレ、抱きついてチンコ揉んでくる変態がいたからなんだよな。他のやつが見てないタイミングで手ぇ出してくんの。すげえキモい」
……
 胸がザラッとした。その変態を殺してやりたい衝動と、寿を女と重ねている自分を見透かされている気がして。
 でも寿はそんなこっちの気持ちに気づいていないのか、秘密を告白するような小さな声で続けた。
「股間蹴って逃げてきたけど、そいつの手が体を撫でる感触がまだ残ってて気持ちわりぃ……。なあ、リョータはアヤちゃんが好きなんだろ? だから、オレにセーヨクなんて無いよな? なら……リョータが抱きしめてくれたら気持ちわりぃの無くなるかもしんない」
 一瞬迷った。でも迷った気持ちを見ないふりした。
 寿の腕を引っ張って起こすと、膝の上に乗せてその体を抱きしめた。
「もっとギュッてして」
 甘えるようなお願いに腹の奥がチリチリ焼かれた。
 自分と同じくらいのデカくて硬い体。女を抱きしめるのとは勝手が違う。
 それでもギュッと抱きしめていると寿の体から力が抜けて、腕の中にしっくり収まるのを感じた。
 肩に寿の頭が乗って耳に吐息がかかった。寿に触れるところ全部が熱くなった。
 寿には「セーヨクなんて無いだろ」って言われたのに。腕の中の温もりに胸が苦しくて指先が痺れる。
 背中に手を回してその体を抱きしめながら、指先のピリピリした痺れを消そうと、寿が見えない場所で手を強く握りしめた。

 朝練のために早朝から出かけようと玄関を出た時、カンカンと階段を二階に上がってくる音に気づいた。
 ピーンと勘が働いた通り、階段を上がってきたのは朝帰りの寿だった。
「あんだよ、ホントに朝早えんだな。おはよ」
 こっちに気づいて笑う顔を見て呆然とした。
 顔は大きなガーゼで覆われているし、切れて腫れた唇が痛々しい。
「そ、その顔……ッ」
「え」
「まさか、鉄男からDV受けてるとかじゃねーよな⁉︎」
「は?」
「言えよ! 困ってることがあったら助けるから! 寿クンの顔ボコボコにするやつ、オレがボコボコにすっから‼︎」
………………プッ」
 え、と思ったらウハハハと笑い出して拍子抜けした。
「お前、勘違いしてんじゃねーよ! これは他校との抗争に巻き込まれたの! 殴られてるけどオレも殴り返してるからアイコだって。だから気持ちはありがてえけどリョータの出番はねーな!」
……え? 寿クンってまさか不良?」
「見りゃわかんだろ」
 ヤバい。
 可愛いとしか思ってなかったから、全然気づいてなかった。
 しかし改めて見ても、どちらかというとホストにしか見えない。唯一、たまに着ている改造した学ランは少し不良っぽいかもしれない。
……困ってねーなら良いけど」
 勘違いを笑われて少し気恥ずかしく、玄関ドアの鍵をかけると寿の横を通り抜けようとした。
 狭い通路で少しぶつかった腕を寿につかまれた。
 振り返ると、寿が無表情でこっちを見ていた。
「困ってること、ある」
「え」
「だから、今夜部屋にいれて」
………………わかった」
 了承すると、寿が少し笑って手を離した。そのまま隣の部屋へ入っていくのを見送ってから、自分も階段を降りた。
 足元がフワフワする。
 怪我をしている寿を見てカッと熱くなった頭の熱はもう冷めていたけど、無表情の寿の顔と「今夜部屋にくる」という約束が何度も頭に浮かんだ。無表情だからこそ、真剣な話の気がした。
 困っていることってなんだろう。わかるはずもないのに考えてしまう。
 あの寿を抱きしめた夜から変化したことは何もない。
 たまにベランダでおしゃべりして、階段や廊下で会うと挨拶する。あの日以降、寿との体の接触はない。
 でも寿を見るたびに指先がチリチリする。すれ違うたびに寿の体の熱を思い出す。
 これ以上、意識してはダメだと思う。でも意識しないようにすればするほど、寿のことが気になってしかたがなかった。
 一階の老人は今日も早起きで元気に体操していた。日常のひとコマ。それを見てようやくホッと体の力が抜けた。
 バスケしよう。この無駄な熱を発散しよう。

 玄関ベルが鳴る。扉を開けると廊下の蛍光灯の灯りの下にいつもの寿が立っていた。
「入っていいか?」
 前は尋ねもせずにズカズカ入ってきたのに。珍しく殊勝な態度に少し困惑した。
「もちろん。どーぞ」
 玄関で靴を脱ぎながら寿がひとりごとのように言う。
「もう入れてくんねーかと思った。前、ベンキョーの邪魔したし」
 殊勝な態度はそのせいか、と少しホッとした。あの日抱きしめたことで警戒をされているのかと不安になった。
 寿は単純にあの日の態度を反省しているらしい。
「今日はもう勉強は済ませてあるからヘーキ。なにか相談があるんだろ? またホットミルク入れてやろーか?」
「はあ? しかたねー、またガキの飲み物で手を打つか」
 生意気な口をたたくガキに、またホットミルクを入れてやった。
 ローテーブルの前に座った寿は、ホットミルクをチビリと飲むとまたテーブルに戻した。
 朝に見た時はまだ唇が腫れていたけど、もうだいぶ腫れは落ち着いている。それでも青あざや顔に貼られたガーゼの下を想像すると痛そうだ。
 ホットミルクの持ち手を撫でる。その指に傷がある。下手な喧嘩で傷ついたのか。
 寿が傷つくことに、胸がチリッと痛む。
……抗争って、何人くらいでやんの?」
 なかなか話し出さない寿をリラックスさせるつもりで、他愛無い質問をした。
 顔を上げた寿は、考えるように唸った。
「今回は二十人くらい? 相手十人、こっちも十人。昼間は公園、夜は人気のない工場とか倉庫が並んでるとこに入り込んで喧嘩すんだ」
「なんかドラマみてえ」
「倉庫はヤクザとバッティングすることもあってさ。そん時は敵味方関係なく一目散に逃げる。警察が来ても一目散に逃げる。抗争とかいってもそんなに気合い入ってねーお遊びみたいなもんだし」
「うは、ヤクザなんて見たことねえかも」
「そりゃ気づいてねーだけだろ。この辺にも下っ端がけっこう住んでるぜ? 鉄男もよくスカウトされてるしな」
 いまだに話したこともない後ろ姿しか知らない隣人の鉄男。ゴリゴリの筋肉と強面で想像ばかり膨らんでいる。タンクトップを着てバイクに乗ってタバコを吸ってそう。
「なんで喧嘩すんの。殴られたら痛えだろ」
 寿の青くなった唇の端。それを指の背で撫でた。その自分の手にギクッとした。
 無意識に触れていた。
 寿はこっちの動揺には気づかなかったのか、少し目を伏せてからこっちを見た。
「痛えから良いんだよ。殴って、殴られてるうちに色んなことがどーでも良くなって。喧嘩終わる頃にはなんかスカッとしてる」
 高2ってそんな時期だったかもしれない。幸い自分にはバスケがあったから、色んな感情をバスケに打ち込んで発散していた気がする。
「でも寿クンの怪我は見たくねえな」
「もーちょっと強けりゃなあ。ボクシングでもやれば喧嘩強くなるかな」
「それより、喧嘩やめてバスケしよーぜ。教えてやるからさ」
 そう言ったとたん、ギュッと寿の眉間が寄った。怒ったみたいな拒絶の顔に『そんなにバスケってダセエかな』とショックをうけた。
「リョータはバスケでスカッとしてんの?」
「そーだな」
「いーな、それ……
 顔を歪めている寿は、全然「良い」の表情じゃない。でも、なぜか本当に羨ましがってると気づいた。
「困ってること。最近、喧嘩してもスカッとしねえの」
「え?」
「すげえムラムラして、イライラして、ちんこ収まんねえ」
「え……
 困ってるって、そっちの話か! やけに言いにくそうにしてるから、何かと思った。
 そりゃ話しにくい内容だと思うけど、高2にもなればオナニーくらい知ってるだろうに。
「それは……たまってんだろ? 男だからそんなこともあるって。たまにシコれば良いんじゃねーか?」
………………
 黙り込んだ寿が、立てた膝に顔を埋めた。
「リョータの、オレに入れてくんねえ?」
 寿の言葉に思考が止まった。
 都合よく解釈しようとする頭が、男のアレと女のアレが合体する結論を導き出したけど、寿は男だしそんなはずないよな? と思考が堂々巡りする。
 でも、寿に押し倒されて確信した。やっぱり、そういう意味だ。
 腰の上に馬乗りになった寿は手で肩を押し、畳に押さえつけてきた。
 体格はそんなに変わらない。筋肉はむしろ自分の方が上。マウントを取られても抵抗すれば逃げられる。
 でも、顔を歪めて泣きそうな顔でこんなことをする寿の真意がわからなくて、傷つけたくなくて、身動きできなかった。
「オレ男だし、孕まねーんだから便器みてーなもんだろ。リョータはオレの中に入れてオナニーして出すだけ。便器は彼氏になれとか言わねーし、困らせねーから」
……なんでそんなこと言うの。寿クンって男が好き……ってかオレのこと好きなの?」
「好きじゃねー。オレは痛いのが好きだから、リョータにケツ犯されたら痛くてスカッとしそうだから、……シてよ」
 喧嘩で殴られるみたいな感覚で言ってるのか? セックスを?
 でも、どうしてもそれが自暴自棄な自傷行為にしか思えなかった。
「もっと健全な方法探そーぜ。さっきも言っただろ、スポーツとか――
「バスケはダメだッ!」
 その剣幕に息を呑んだ。
 悲しそうに歪んだ顔からポロポロ涙が落ちた。寿の泣き顔は初めて見た。
「そんなに……嫌いか?」
 涙を拭いながらコクコク頷く寿の腕からはもう力が抜けていた。体を起こすとその頭を抱き寄せた。
 艶のある黒髪を撫でる。寿が顔を押さえつける肩が熱く湿っていくのが分かる。
……喧嘩じゃスカッとしなくなったの、なんでかな」
 訊ねれば、湿った声が悪態をついた。
「リョータが……クソムカつくから。バスケやってるし、イライラする」
 なのに、そんな相手と繋がりたがる。なんとなく、嫌いだけじゃない感情がある気がした。
 震えそうになる喉をこらえて息を吐いた。
「オレは寿クンのこと好きだよ」
 ビクッと腕の中の寿の体が震えた。
「寿クンが好きだから、自傷行為の道具にはなれねえ」
 寿が好きだと認めてしまった。
 本当は抱きたい。体を繋げたい。そういう意味で好きだ。
 でも今、そんなことをすれば取り返しのつかない傷を残すこともわかっていた。
 これは寿の試し行動だ。信頼して良い相手なのか、彼の魅力で揺さぶって相手を測っている。
 己の魅力をわかっているから、無意識にそうしている気がした。
「寿クンが自分のこと大事にできなくても、オレが大事にしたい気持ちを認めてよ。寿クンを傷つけないで発散する方法、考えよ」
……リョータはオレと付き合いてえの? 付き合ったらエッチしてくれる?」
「そーいうんじゃねーって。好きで大事にしたいけど、オレに縛りつけたくねえし、欲望をぶつけたいわけでもねえから」
 それは嘘と紙一重。
 今、腕の中の見た目よりも小さく見える生き物に対する気持ちとしては本当。でも一枚紙を破ればそこには獣のような欲情がある。
 腕の中の寿は、そんな心情には気づかず体の力を抜いた。
 寿の体の重さを感じた。いや、実際よりもその存在を重く感じた。
「なんでそんなにバスケ嫌ってんの?」
……逃げたから。好きだったのに苦しくて逃げたから。あん時のこと思い出したくねーし大嫌い」
 それは、まだ好きだからじゃないのか? 心の傷が膿んだままだから、無視できなくて苦しくなる。
 喧嘩という自傷行為で心の傷を覆い隠そうとしているんじゃないか?
 ギュッと顔を歪ませて泣いた顔。そこに現れた激情からはそう読み取れた。

 いつか、寿クンとバスケしてーな。

 身を預けてくる体を抱きしめて、密かにそう思った。




END