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著者: 雷歌/らいと
2023-05-06 22:09:56
2691文字
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戦セバシリーズ
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【戦セバシリーズ / セバⒷ】モーサリアンワンドロライ#5月6日
お題「果てからのメッセージ」でセバⒷです
Hallo Hallo 過去の俺、元気にしていますか。
一世一代の出来事が起こった日といっても過言ではない日の翌日、俺は同僚からよく「手が止まってるわよ」と突っ込まれています。同じ職場のコックからも「どうかしたのかー?」と心配されます。
上司の執事と目が合うと、ニヤリと笑みを浮かべてくるのでそれから目を逸らしています。雇い主である屋敷の主はどうやら知っているようで呆れ顔で「Ⓑくん、休憩入れたら?」なんて、滅多にお目にかかれないやさしさを見せてきます。
「冗談でもなんでもなく、Ⓑは一日お休みもらった方がいいんじゃない? 調子悪そうだし」
「悪いわけじゃないんだがな
……
」
多少のヘマをしつつもなんとか午前の仕事を終えての休憩時間。Ⓐが心配してそんな声をかけてくれる。ツネッテも軽くうなずいて同意しているようだ。
「何があったかは知らないけど、心ここにあらずって感じよ。今日はお客様お迎えしてなくて良かったわね」
それはそう、と苦笑しながら頷く。何かを割ったりとか壊したりとかはしてないが、掃除中のバケツをひっくり返したり、洗濯が終わってるのにもう一度洗濯かけなおしたりと、余計なことをしでかすことが多い。
「何があったかってのは、俺らには相談しにくいこと?」
「うーん、そうだな
……
」
言うと、面倒なことになることは分かっている。Ⓐは卒倒してしまうかもしれないし、ツネッテは悪い癖が出て暴走する可能性もある。それとも、意外と冷静に受け止めてくれるだろうか。想像はできないが。
「俺自身がちゃんと受け止め切れてからでいいか」
「Ⓑがそう言うなら」
「抱えきれないと思ったら言いなさいよ」
良き同僚に恵まれていると思う。暴走しがちな点はあるが、この屋敷で勤め上げているのだから優秀ではあるのだ。それがたとえ、使用人として純粋な意味での優秀でないかもしれないが。
お茶を飲みながら、昨日の出来事を反芻する。だいたいヘマをするのはこの反芻する行為のせいだが、今なら大丈夫だろう。
俺自身もどうしてそうなったのかわかっていない。
配達では間に合わない買い出しに二人で出かけた際だ。珍しく──このフラン〇フルト中探してもそういう人物はいないだろう──隣にいる人物の見目に騙されて、猛アタックを仕掛ける女性がいた。
旅行中だったのかもしれない。話してる言葉が少し訛っていたので、この国の人ではないのだろうなとは思っていた。
ぐいぐいくる女性に対して冷静に言葉を返すものだから、その温度差が少しおかしくて笑ってしまう前に顔をそむける。それでも横目でちらりと見て、ボディタッチが増えてきたことに少し顔が引きつりそうになった。
嫌な気分になる権利など俺にはないのだが、心の内だけなら自由だろう。
やがて何かを理解してくれたのか、それならしょうがないわね、とかいう言葉が聞こえてから女性は元気よく手を振りながらその場を去っていった。
「なんつーか、パワフルな人でしたね」
「あれぐらいパワーがあるなら、うちに欲しいところだな」
「奥様と意気投合しそうですね」
そうだなと返答がきたかと思うと、猛アタックをかけられた美丈夫はどこかに視線をやって、しばらく待ってろ、と言葉を置いて、先ほどの視線の先へと速足で移動する。店員と一言二言交わしてから、何らかの花を一輪受け取っていた。白から青へと変化していっている花弁が、何枚か重なって咲いているものだ。残念ながら、俺はそれの名前を知らない。
茎の方にはすぐには枯れないようにと、おそらく湿らせたティッシュとその上からアルミホイルをまきつけてあるのだろう。それにしては、ずいぶんと短く茎が切られている。一輪挿しに入れるにしても短いような。
店員にコインを渡してからさっと戻ってくると、俺のジャケットの胸ポケットへとその花を挿された。
「え?」
「ん?」
「いや、なんで、俺に?」
「さきほど、女性と話してるときに、何か怒っているようだったから?」
「え、怒ってなんて
……
」
ああもしかして、笑いそうになって顔をそむけたのを勘違いされたのかもしれない。
誤解ですよ、と言ってからこれこれこうだったのだと話せば、ああそうだったのか、と頷かれた。それから胸に挿された花を見て、それを手に取った。
「それにしたって、こんな機嫌を取るようなことしなくても。俺が女性だったら勘違いしてしまいますよ」
返すつもりで彼に花を差し出せば、その手を軽く押し返されて。
「ああ、構わない」
なんてさらりと言われてしまった。
俺は、どこかの物語の主人公のように鈍感でもなければ難聴でもない。確かにこの耳で聞き、その言葉の意のままを解釈すると、だいぶ俺の都合の良いことになるのだが。
目の前の人物は悪戯っ子のように微笑んで、俺の手から花を抜き取ると再度胸ポケットへと挿し直した。
「この花はトルコギキョウだ。知らない人は何も知らず贈ることもあるが、幸いなことに俺は知ってるからな。花言葉を、そのまま捉えてくれていい」
「いや、俺も知りませんけど。いろいろと、かなり俺の良い方向で解釈するけど、いいんですね?」
「構わない。それに、その言葉のまま受け取ると、俺にとっても良い方向のようだな?」
思わず唸るような声が出てしまった。不敵な笑みを浮かべている相手を見て、言葉を間違ったのではないか、という気になる。
「あの、花言葉をはやく調べたいので、さっさと買い出し終わらせていいですか」
「俺としては、いくらでも買い出しに時間を使ってもいいのだが」
「屋敷を取り仕切る人物の言葉とは思えませんね」
そんなやり取りをしつつ屋敷に戻ってからその花言葉を調べた。
複数あったが、白と青の言葉でいいのだろう。彼に、これでいいんですか、と確認してしまったのだから。言葉が返ってくるのではなく、別のものが返ってきたが。
そして、翌日。昨日のは夢だったのではないか、と何度も思ってしまうのだ。そうやって呆けているとヘマをする。ヘマをして自己嫌悪に陥っていると執事の悪い笑みがこちらに向けられていて、あんたの所為なんですがと心の内で言い返す。そんな繰り返しである。
「びーいー? ほら、再開するわよ」
「あ、悪い。そうだな」
同僚に迷惑をかけつづけないためにも、俺は早めにこの現実を受け止めなければならない。
Hallo Hallo 過去の俺、元気にしていますか。
片思いの果ては、どうやら両想いだったようです。
end.
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