著者: 雷歌/らいと
2023-03-04 22:02:13
2218文字
Public 戦セバシリーズ
 

【戦セバシリーズ / ユーⒷ】モーサリアンワンドロライ#3月4日

ロベルト視点。ユーⒷというか、ほんのりとしたユー→Ⓑです。

 お祝い事なのか、それともただの宴会なのか。ロベルトは、お呼ばれした向かいの屋敷でのどんちゃん騒ぎを、じっと見つめていた。隣にいるアルベルトも、同じように見つめている。
 視線の先には主人であるユーゼフがもちろんいるし、今日はそういう気分だったか、隣と向かいにはマイヤー・モリナガとヨハンという陣取りだ。会話の内容は、和やかであるし時には達観した意見もでてくる。ユーゼフのことを知らない人間が見れば、不思議な光景であろう。
 さて、とロベルトは視線をユーゼフからずいぶんと離れたところへと動かした。
 そこにはよくユーゼフが(可愛らしい表現をすると)ちょっかいを出しているこの屋敷の使用人Ⓑがいる。二人の中間あたりには中和剤としてのデイビッドがいるので、平静でこの宴席を楽しんでいるようだ。
「ちょっと~そこのお二人も飲みましょうよ~!」
 宴席に交わることもなく、ひっそりと気配を消していたつもりだったロベルトとアルベルトにⒶが声をかける。その事実に少し驚きつつ、二人は目を合わせて頷いた。
「少し、気が抜けていましたかね」
「そうかもしれませんね」
 そんなことを小声でやり取りしつつ、Ⓐのいる席へと近寄った。
 ユーゼフが楽しそうな姿を見ていると、いつしか安堵感というものを得るようになった。仕事をしている際にはそれによって抜かりが生じることはない。だが、向かいの屋敷──デーデマン邸にいると、多少はそうなっているのかもしれない。だからといって、何かに後ろを取られることもないのだが。
「おや」
 呼ばれたから近づいたが、座れる場所はそうない。ぽっかりとⒷの隣には空席があるので、Ⓑさん奥へ寄ってもらえますか、と声をかけた。
 ぎくりと顔を強張らせるⒷを見て、なるほどと思う。すでに酒が入っている状態なのに、ずっと意識しているのだ、と。
 いえむしろ空いてる席へどうぞ、というつもりだったのだろう。だが、向かいにいるⒶとその隣にいるツネッテが詰めてからアルベルトへ席を譲ったため、その言葉が出てくることはなかった。
「Ⓑさん?」
「ええと、はい」
 愛想笑いを浮かべて、Ⓑはゆっくりと横にずれた。自身の使用していたグラスや皿も移動させながら、その視線がちらりと持ち上がったのが見えた。すぐに逸らされたため、誰かが気付くことはなかっただろう。
(まあ、私たちは気付いたんですけど)
 ずれてくれたⒷの席に座りつつ、それでは私たちもお酒をいただきましょうか、と声をかける。
「ビールでいいですか。他の酒類はうわばみ共に取られているので」
 構いません、と二人して頷いた。
「おつまみもぜひ食べてくださいよー! デイビッドさんの作ったやつ、ほんっと美味しいですから!」
 Ⓑはまだほんのり程度だがⒶはどれほど飲んだのか。すでに顔が真っ赤で、できあがっている様子である。
「あんたはそろそろ水入れた方がいいんじゃないの」
 テンションのあがりっぷりにツネッテは呆れた様子だ。苦言を呈しながらも、つまみが取れるようにとロベルトとアルベルトに皿を差し出してくれる。Ⓐはというと、なにおうまだまだ飲むんだい! と返してグラスに残っていたビールを一気に煽った。
「お二人はⒶに構わなくて大丈夫ですからね。好きに飲み食いしてください」
「ありがとうございます」
 Ⓑが用意してくれたビールが入ったグラスを手に取る。どれだけ摂取しようが二人にとってはただの液体に過ぎないので、Ⓐのペースに付き合って飲んでも酔うことはないだろう。そんなことを頭に過らせつつ、グラスを持ち上げると。
「あっ、てことは、お二人はさっきの乾杯に混じってないですよね?!」
「ちょっとⒶ」
「構いません。確かに、先ほどまで主人を見守っていましたからね」
「ですよね! ちょっと、旦那様ー!」
 えーなにー? と少しダルそうな様子で現当主のデーデマンがⒶに返事をする。
 常々思うことだが、よその屋敷に比べてここの主従はずいぶんと距離が近い。食事は別々のようだが、宴席は共にするし、多少失礼なことを口にしても首が切られることはない。あらゆることに達観せざるおえないデーデマンの経験と性質のためだろう。
「もう一回! もう一回、乾杯の声かけてくださいよー!」
「えぇ、またあ?」
「いいじゃないですか、景気づけに!」
 自身や周囲が盛り上がるとなぜか乾杯をする、ということが何度かあったためだろう。もう掛け声のバリエーションないんだけど、とぶつぶつと呟いている。やがて、ええいもういいか、と自棄になった様子でグラスを持ち上げた。
「じゃあ、僕らの光ある未来に、乾杯プロースト!」
 我々の場合は闇ある未来じゃないですか、なんて皮肉めいた言葉がセバスチャンから出たが、いいんだよ別に! とデーデマンがつっぱねる。
 とにかく、皆がグラスを持ち上げて乾杯! と声をあげる。近くにいる人らとグラスを鳴らし合わせて、おかしそうな笑みを漏らした。
 ロベルトもアルベルトも、Ⓐの強引な押しにグラスを鳴らし合わせたが、Ⓑとは傾けあう程度にしておいた。鋭い視線に気付き、屋敷に戻ってからいろいろ言われそうだなと察せられたからだ。
(いつか、乾杯できる距離まで普通に近づけるといいですね)
 しょうがない主人に心の中でそう声をかけながら、ぬるくなっているビールに口をつけた。



end.