もしよろしければどうですか、とクーリエに誘われたので、それならばと誘いに乗ることにした。二人でロドス艦船内にある訓練所へと向かう。
そこでは、どうやらシルバーアッシュがマッターホルンと手合わせをしているらしい。
ロドスへと来ていたシルバーアッシュだが、用事の先である私が忙しくすぐに応対できなかったため、時間が空くまでそうしようと考えたとのことだ。私に時間が出来れば、クーリエへ言伝を頼めばいいと言われたのだが、冒頭のようにクーリエに誘われた次第だ。
オペレーターたちの邪魔になるといけないから、普段では訓練所はガラス越しに見れる箇所からしか見ないが、今日は中まで入ってみることにした。
盾をしっかり構えるマッターホルンに、尽きない斬撃を繰り出しているシルバーアッシュ。一瞬見ただけだと互角にも思えるが、反撃を繰り出せていない時点でマッターホルンが押されているのは見てとれる。主に手は出せないという思いがあるのかもしれないが、訓練ならばそういうのはなしにするのがシルバーアッシュだろう。
ふと、シルバーアッシュの手が止まった。視線が私にぴたりと合っている。どうやら気付かれたようだ。
マッターホルンは首をかしげながらシルバーアッシュの視線を追い、そして私へ小さく会釈してくれた。シルバーアッシュと二言三言交わしてからこちらへと向かってくる。
「お待たせしましたドクター」
「いや、訓練の様子も見てみたかったから良かったよ」
「我々は先に出ますが、ドクターは旦那様と共にどうぞ」
「そうかい? なら、言葉に甘えようかな」
クーリエとマッターホルンが扉から出ていくのを見送り、私は身支度をしているシルバーアッシュへと歩み寄った。
「お疲れ様。やはり君は、迫力があるね」
「迫力?」
「戦場ではもっと遠くからしか見えないからね。いつもより近くで見れて良かったよ」
武器を振るう無駄のない洗練された動作。その先から放たれた冷気を感じさせるかのような斬撃。さすがに戦場で敵へと向けているものの方が鋭さがあるが、それでも息をのんで見つめてしまうほど、惹きつけられるものがあった。
「盟友」
「ん? わ」
するりと腰へ手を回され抱き寄せられた。ふわりと鼻先をくすぐるフレグランスと軽く混じる汗の匂いに、胸が詰まる。
「惚れなおしたか?」
「やだなあ、もともと惚れているのに」
これ以上だなんて欲張りだね、と言って笑みを浮かべる。
「ああ、そうだな。お前のことに関しては、いくらでも欲しくなる」
頬を、先ほどまで模造武器を握っていた手で撫でられる。しなやかな指だが、戦場慣れしたその手は少しだけ皮膚が硬い。そのまま顎に指をかけられれば、キスの合図だ。
軽く顔を持ち上げれば、熱をはらんだ瞳で見つめられる。むずがゆい感覚と高鳴る動悸で、うまく息が出来ない。
と、訓練所のドアが開く音がした。
びくりと肩を揺らせば、訓練所に備え付けられているトンネル状の建造物の中へと引き込まれる。ドアの方からはちょうど死角となっており見えない位置だ。
入ってきた人物の会話を聞くに、訓練所内に忘れ物を取りに来たらしい。少しすればいなくなるだろう。
「び、びっくりした」
小声でそう漏らして大きく息を吐く。頭上にあるシルバーアッシュの顔を見上げれば、いまだこちらを見ていた。
「エンシオディス?」
「お預けは、できない性分なんだ」
ぽつりとそう言い、端正な顔が降りてくる。ゆっくりと目をつむり、私はそれを受け入れた。他に人がいることは分かっているが、拒まないし咎めることもしない。
お互い忙しい身ではあるしこういうチャンスが少しでもあれば逃したくないのが正直なところだ。
唇を舌先でつつかれ、それを受け入れるかのようにゆるく開く。そこから遠慮なしに入り込む舌にされるがまま、すべてを委ねる。
時折漏れる水音に、聞こえていないか少しだけ気になった。
けれど、それも絶妙なスパイスとなったのか、いつもより長い口内の蹂躙に熱を持ち始める。
ようやく離れた時には、シルバーアッシュにしがみついていないと立てない程になっていた。
「やり、すぎ……」
「久しぶりだからな、まだ足りない」
「んっ」
熱くなっているのがばれていたのだろう。足の間に入り込む、より長い脚が私の股間を擦り上げる。思わずあげた声に、慌てて口を引き締めてうらめしそうにシルバーアッシュを睨みつけた。
「安心しろ。さきほど入ってきたオペレーターはもういない」
「だからといって、訓練所でこれ以上は」
「他の場所ならいいんだな?」
「そ、れは……」
ダメだ、と即答できてない時点で答えは決まっているようなものだ。シルバーアッシュは、口端を持ち上げて薄く笑む。
「今日の予定は? 我が盟友よ」
「わかっているだろうに」
シルバーアッシュが来るとなれば、彼に関する予定以外はすべて入っていない。アーミヤもそれをわかっているのか、一日だけは何も言わずにおいてくれるのだ。
「ところで、私はすでに足腰に力が入らないのだけど?」
「ああ、丁重にお連れしよう」
その言葉が発せられると同時に、視界がぐるりと回る。天井を見上げる形になり、背と膝裏からシルバーアッシュの腕の感触があった。
「横抱きは、さすがに……」
「しばらく目を閉じておくといい」
こちらの意見を聞く気はないらしい。額に口づけを落とされ、ずり落ちていたフードに気が付いた。それを引き寄せて、目も隠れるようにしておく。そうすれば少しは人目が気にならなくなるだろう。
揺れ動く腕の中で、そっと目をつむる。心地よい揺れに寝そうかもとも思ったが、鼻先をくすぐるシルバーアッシュの匂いに動悸が早まってしまった。
それに、困ったことに期待に胸が膨らんでしまって体の熱が少しずつあがっていく。小さく息を吐きだすが、それでも逃すことのできない熱。
わずかに身じろぎして、なるべくシルバーアッシュの顔へと口元を近づける。
「エンシオディス、はやく……」
熱い吐息とともにそう呟けば、シルバーアッシュの歩みが速くなった気がした。
end.
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