時計が零時を過ぎたとたん、スマホが激しく震えだした。慌ててスマホを持ち上げたので、ベッドですやすや寝ているグリムは起きずに済んだようだ。
画面は、イデア先輩からの電話が入っていることを示している。
「ユウ氏?! なんでお祝いしてくれなかったの?!」
通話ボタンを押せば、第一声がそれである。申し訳ないなあ、と思いながら少しだけ笑ってしまった。
「あー、はい、お誕生日おめでとうございました」
ちなみに日付は変わってすでに十九日。イデア先輩の誕生日は昨日である。
「ふ、普通はさ、こ、こ、こ、こいびとだったら二人だけで過ごしたりとか」
「イデア先輩……ロマンチストですね!」
「違うそうじゃない」
「いや、俺としては、イデア先輩のしてるゲームの誕生日ボイスを回収する邪魔をしたくなくて」
「ゲーマーに理解があって助かるぅ! じゃ、なくて!」
さっきからイデア先輩の突っ込みが絶えない。それが面白くてついついふざけてしまうのだが、そろそろいい加減にした方がいいだろう。
「イグニハイド寮の人にお願いされたんですよ。今日は、申し訳ないけどイデア先輩を貸して欲しいって」
「ええ?」
「寮でも盛大にお祝いがあったでしょう?」
「あった、けど」
「そこに俺が行ったら、二人の世界が絶対展開されるから、って」
「あー……いや、でも」
「一応、俺からもメッセージカードは送りましたよ?」
「あ……った、けど!」
納得いっていない様子で、けどでもを繰り返すイデア先輩。意外としっかり祝われたかったんだなあと微笑ましく思ってしまった。
「先輩。確かに、誕生日は特別な日ですよ。けど俺にとっては、この世界にいる毎日が特別な日です。そうさせたのはイデア先輩ですよね」
いつ元の世界に戻るかもわからない状態だ。目が覚めて、まだこちらの世界にいることに安堵のため息を吐くようになってしまったのは、すべてイデア先輩のせいである。
「だから、先輩にも毎日が特別であって欲しいんです」
誕生日が近づくにつれ浮足立ち始めたのを見て、少しだけ悪戯心が沸いたのもある。日々の価値観がどうやら違うみたいだなと気付いて、それならばとこういうことをしてしまった。
小さい子どものように拗ねてやったことだ。申し訳なさも確かにあったので、イデア先輩をがっかりさせてしまってごめんなさい、と素直に謝罪を口にした。
「わ、わかってるなら、別に……」
「けど、変だなって気付いたのなら、そこで呼んでくれれば良かったのに。わざわざ日付変わってからって」
「い、忙しい可能性も考えてて」
「ねえ、先輩」
首に触れる体温でぬるくなっている細い金属の感触に、そこから繋がっている黒いペンダントトップ。イデア先輩特製の俺のためだけのペンダントだ。
それを指で触れながら、笑みを浮かべる。
「俺に、首輪を、したでしょう?」
この形を望んだのは俺だけど、最終的にこれを俺につけさせるかどうか決めたのは、貴方だ。俺は、これにどんな機能がついているのか、イデア先輩が隠していることも知っていたりする。その秘密の機能があるからこそ、これは首輪だ。
「……呼んだら、今からでも来るの?」
「イデア先輩が望むのなら」
そう答えれば、しばしの沈黙の後に大きなため息が漏れた。
「いいや今は。その代わり、起きてからユウ氏の時間ちょうだい」
「なんですかなんですか、プレゼントは俺ですはあととかいうのが望みですか、いいですよ!」
「ち、ちちちちちち違うから!」
「そんなに全力で拒否して、何を妄想したんですか?」
「からかうなし!」
望まれるのならそれもやぶさかではないのだが、イデア先輩の覚悟が決まるまで待つことにしよう。
「じゃあ先輩、何時にそちらに行けばいいです?」
「ちょっと部屋の片付けもしたいから──」
そうして明日の約束を取り付けて、通話はそこで終了した。
さすがに誕生日当日にお祝いをしっかりしなかったのは悪かったなあと罪悪感がまだあるにはあるので、何を言われても望まれてもいいようにある程度の覚悟はしておくことにする。
ベッドに横になり服の上からペンダントをなぞって、笑みを浮かべた。
果たしてこれは、俺だけに対する首輪なのか。気付いているのか、いないのか。
end.
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.