著者: 雷歌/らいと
2020-12-20 02:48:23
2491文字
Public ツイステ
 

【#twstプラスB / イデ監】不安と期待を覆い隠すは、すでに薄氷である

「ノイズ」の続き。

「監督生さーん!」
 そう、オルトくんの呼び声がした。少しだけびっくりしつつ、オンボロ寮のドアをあける。その前にはオルトくんでんはなく、地面に膝をついて肩で荒く息をしているイデア先輩がいた。
 オルトくんは少し離れた位置で、こちらをにこにこと見守っている。
「え、どうしたんですか」
「ちょ、ちょ、と……っ待って……
 ぜえはあと息をする様子は、どこからかここまで走ってきたようで。とりあえず、息が整うのを待つことにする。
 寮の談話室にでも入ります、と問えば首を横に振ったので玄関前でだ。
「大丈夫ですか?」
「うん、もう平気」
 最後に一つ大きく息を吐くと、イデア先輩はようやく立ち上がった。ふと、目線があってしまって思わずそらす。申し訳ないとは思うけれど、そこに悪意はない。自然とそうしてしまうようになって、自分自身でも驚いているぐらいだ。
「あ、あの、監督生氏」
「はい……
「その、エース氏とデュース氏から事情を聞いて」
「事情ですか?」
「き、記憶がないって」
……ああ」
 記憶がない、ということさえも薄らいでいる。あまりにも自然にそのことが抜けていて、元いた世界の人間関係なんて、聞かれない限り思い浮かべることはなかった。それが怖ろしい。
 そういえば写真を撮るのも、そういうことであった。元の世界に戻った際に、同じように人間関係の記憶がなくなるのなら、しっかりと写真という形があれば思い出せるかもしれない、と。目的を忘れて、ただ写真を撮らないとなという手段ばかりが頭に残っている状態だ。
「そ、それでね? 戻る時にスマホを持ってない可能性もあるでしょ?」
「そう、ですね……
「あの、そ、それで、監督生氏は、ペンダントか腕輪か指輪か、どれがいい? 他のでもいいけど」
……ん?」
 話の流れが繋がってないようで、思わず首を傾げる。ちらりとイデア先輩を見やれば、いつの間にか、いつものように間にタブレットが差し込まれていた。それに、少しだけ安堵を覚える。
「ええと、どういう……?」
「最初はチップを皮膚下に埋め込むことを考えたんだけど監督生氏の元の世界がそういうのが許容されてる世界かわからないから、じゃあ肌身離さず持っておけるのがいいって思って。あ、もちろん水にぬれてもいいように完全な防水加工を施すつもり。オルトのギアにも転用できるからそういうのもやってみたかったと思ってたんだよね」
 つらつらと出てくる言葉に、やはり理解が追いついていかない。しばらくしてふと気付いたのかイデア先輩は、つまり、と一呼吸おいて説明してくれる。
「小型の記録媒体を常に持っておこう、ていう話。その記録媒体に、拙者の撮った写真を常に送っておけばいいでしょ。ああ、万が一使えないことも考えて、投影装置もつけておくのもいいね。ひひっ天才の発想じゃん」
「きろく、ばいたい」
「データを保存できるやつね」
「常に持っておく?」
「そう、だから、アクセサリーみたいなの? こっちでも監督生氏の世界でも不自然じゃないようなデザインにするから」
……イデア先輩が、作ってくれるんですか?」
「むしろ拙者以外に作れないでしょうな~。世界でもまだ作られてない最小の記録媒体。それを搭載して投影機能もつけたアクセサリーと見まごう小型の装置。アニメではあっても現実世界ではない。アニメに現実を近づけるというのは最高に胸が高鳴りますな」
 テンションがあがってるなあ、と思いながら最初の話に繋がっていることに気付いた。
 ペンダントか腕輪か指輪か、つまりはそういうことなのだ。どういうアクセサリーにするか、という話である。
 少しだけ考えて、俺は答えを口にする。
「ええと、じゃあ、ペンダントで」
「ペンダントね、おけ」
 それならばこうしてやろうと、作るものに対する考えを巡らせ始めたのか目の前で物々言い出すイデア先輩。ふよふよと浮いているタブレットから少しだけ顔をずらして、その顔を見る。
 うん、ダメだ。なぜか恥ずかしさが勝ってしまう。
「用事は、終わりですか?」
「ああ、うん、あと……
「あと?」
「あー……その、き、嫌いになったわけじゃ、ないよね? 拙者のこと……
 避けてるのが明らかにわかったのだろう。エースやデュースにも会ったのなら、俺がどういう状態になっているかも聞いているはずだ。そう思われてしまうのもしょうがない。
「それは、まったくないです」
 誤解を避けるためにも、イデア先輩の疑問はきちんと否定しておく。
 嫌いになんてなっていない。むしろ、ちゃんと自覚してしまって、どうにも自分自身を制御できずにいるのだ。
 姿を真正面に捉えると想いがあふれかえってしまって、誰しもがそうだとわかってしまう状態になってしまう。それを見られるのが恥ずかしい。もちろん今まで隠してこなかったが、自分でそうするのと、勝手にそうなってしまうのは違う。
 勝手にそうなってしまったら、自分が自分でないようで、怖い。
 俺の返答で安堵したかのような息を吐いたイデア先輩に期待してしまう。同じ想いを持っているのではないか、なんて。先日のハロウィンからどうしてもそう考えてしまって、自嘲気味に笑みを浮かべた。
 期待したところで、結ぶつもりもないから空しいだけだ。
「それじゃあ、ペンダント作ったら渡しにくるから」
「はい、楽しみに待ってますね」
 結局、いつものように目は合わせられなかった。いつもならイデア先輩がそらすのだが、今日は俺から。
 不思議とずっと後ろで静かに見ていたグリムに、心配そうに問われる。
「大丈夫か、ユウ」
「えー、なに? なんの心配? 俺はずっと大丈夫っしょ?」
 どんなに危ない目にあっても俺はずっと大丈夫だった。だから、どんなことがあっても俺は大丈夫。きっとこの状態も、しばらくすれば慣れるはずだ。そうしたらいつものようにイデア先輩に接することができる。そうすれば元通りになるはずだ。
 だから、大丈夫。



to be continued...