著者: 雷歌/らいと
2020-12-06 02:02:20
2847文字
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【#twstプラスB / イデ監】ノイズ


 ハロウィン以降、イデアを悩ませていたノイズはぱたりと止んだ。
「いや、いやいやいや」
 いつも以上に俯きながら、学園の廊下を歩いているイデア。その前をオルトが先行し、人にぶつからずには済んでいる。
 イデアの頭を占めるのは監督生のことで、先日のハロウィンウィーク最終日の出来事を思い出しては、頭を横に振っていた。
 酷いことは口にいしていないはず。いや、わからない。自分ではそう思っていても、相手にとってはそうでない場合もある。なにかが彼の逆鱗に触れてしまったのかもしれない。あり得る。
 そんなことを何度も考えながら、とぼとぼと歩いていた。
「兄さん? いつも以上にため息すごいね」
「ああ、いや、うん……
 いつも以上に授業に出るのが憂鬱に感じていた。一年生との合同授業がしばらくないのが幸いかもしれない。
 それにしても、会わないものだとふとイデアは思った。以前は結構頻繁に会っていた気がするのだが、それもこれも、監督生が会おうという努力をしていたからだろう。
 本来ならいつもの日常に戻ったのだから、イデアが喜ぶべき状態になったはずである。しかし、ずっと心に靄がかかっていた。
「なんのデバフだよこれ……
 たまらず頭をがしがしとかく。経験のない自身の状態に、イデアは混乱するとともに少しだけイラつきを感じていた。
 そもそも監督生氏がいつものように会いに来てくれればこんなことにはなっていないはず。だから悪いのは監督生氏だ。
 そんな理不尽な責任転嫁までもが頭の中を巡りだす。
「あっ、イデア先輩いた!」
「ひぃっ! なになになに?!」
 いきなり名前を呼ばれ、肩をびくつかせた。声の方からは、監督生といつも一緒にいる二人がすごい勢いで歩いてきている。
 走らずにいるのは、どこかでトレインあたりに廊下を走るなと怒られたからであろうか。
「え、エース氏とデュース氏?」
「ちょっと、お時間いいすかね?」
「え、え、これなに、かつあげ?」
「違います。ユウのことで話を聞きたくて」
 その名前に眉があがる。彼らの目から見ても、監督生に異変が生じているのだろう。
 本来ならば二人の勢いに逃げ出してしまいそうなイデアだが、監督生の名前にその足がとどまっていた。
「イデア先輩、あいつに何したんすか?」
「なにって、なにも……
 少しだけ頭に血が上った覚えはあるが、だからといって会わなくなるようなことは言っていないはず、と考えている。そうではないかもしれないと考えたりもしていたが、咄嗟に聞かれれば自分に非はないと答えるのがイデアである。
 二人の勢いからして、これ以上首を突っ込むのはやめた方がいいなと、持前の危機管理能力が働いていた。
 なんとか誤魔化してこの場を後にしようと思ったのだが、
「監督生さんに、なにかあったの?」
 オルトの優しさから出たその言葉に、声に出せない悲鳴をあげる。
「あれ以来、シュラウド先輩の名前が口から出てこないんだ。先輩の姿が見えてもすぐに隠れたりするし」
「どうしたのか聞いてもはぐらかすんで、もうイデア先輩に聞くしかないって思って」
「え、そこでなんで僕?」
「ハロウィンウィークの最終日、イデア先輩のあとを追いかけら帰ってきてから様子が変ってグリムが言ってたんで。そうなると、原因はもうイデア先輩にしかないでしょ」
「いやいや、拙者と会ったあとに誰かに会ったとかもあり得るでしょ。それだけで拙者に原因を求めるのは早計というものでは?」
「それで、なにしたんすか」
「ひ、人の話を聞いて」
 エースの目はまっすぐにイデアを見ている。デュースも同じの様子で、二人とも譲る様子はないようだ。それもそうだろう、明らかに変化があったのがイデアに対してだけなのだ。
 イデアは気後れしつつ、ぼそりぼそりと話す。
「な、なにも、なにもしてないって、ただ……
 身の潔白を証明するためにも、イデアはあの日の出来事を話した。監督生から言われたこと、それに少しだけ腹が立ったこと、だからこれ以降は写真は監督生からは撮らせずに自分が撮ること。
 覚えている限りのことを包み隠さず。
 しばらく聞いていたエースもデュースも聞き終わってから首をひねる。
「うーん、まあ。確かに大した事はない、よなあ」
 写真を撮らせてくれない程度で凹んだり怒ったりする姿は想像できないし、と続けてエースはデュースへと目くばせした。それに頷いて、デュースは自身の顎に触れながら何かを考える。
「しかし、思い出、か……
「気にしてんのかね、あいつ」
「そうかもな」
 二人だけでわかるようなやりとりに、イデアは思わず口を出していた。
「なに、なんの話?」
 エースは頭をかいて少し悩んだ後に話し出す。
「あんまこういうの本人以外が言うのもどうかと思うんですけど……あいつ、記憶ないんすよね」
「え?」
 初めて聞いたことに、そんなはずはないと首を横に振る。
「好きな食べ物とか、元の世界での話とか聞いたけど?」
「そういう、自分の住んでいた環境とかの記憶はあるんですけど、人間関係に関するものはすべて覚えてないそうなんです。友達とか、家族でさえも」
「それで、もし向こうに戻った時、こっちのことをすべて忘れてしまうんじゃないか、て言ってて。それで、写真をたくさん撮ろうとしてるんじゃないすかね」
「スマホを持って戻れるかわかりませんけど、持って戻れたらそれを見て思い出せるかもって」
 思い出とはそういうことだったのかと、イデアは妙に納得していた。
 あの時の言葉に他の人とは違う重みがあったのは、その裏に不安があったからなのだろう。だから、イデア自身も過剰に反応してしまったのかもしれない。
「ち、ちなみに、戻る算段はついてるの?」
「それはまだみたいっすね」
「いきなりこっちに来たらしいから、いきなり戻るってこともあり得るかもですが」
「ああ、そう……
「イデア先輩?」
 考え込みだしたイデアに、エースは首を傾ぐ。
 真剣な表情にエースもデュースも少し目を見開いた。おどおどした様子を目にすることが多いため、その表情が珍しいのだ。
「オルト、以前、オルト用に作った小型の記録媒体ってまだあったよね?」
「うん、予備も含めて残ってるよ」
「形式が一緒かわからないから、話を聞きながら調整するしかないけど、いけるかもな」
「あ、あの?」
「今、監督生氏どこにいるの?」
「ユウなら、もうオンボロ寮に帰ってますけど」
「わかった」
「あ、あの?」
「急ぐから」
 ぽかん、とする二人を残してイデアは走り出していた。その後ろからはきちんとオルトもついて行っている。
 珍しく走っているイデアにオルトも驚いた様子で、横に並ぶと不思議そうな表情で尋ねた。
「兄さん、どうしたの?」
「オルト……僕には心地の良いノイズだったみだいだ」



to be continued...