年末、Bの務める屋敷ではディナーが終わったあとに宴──酒盛りが始まる。寒いとはいえ、庭に広いシートを敷いて、主人も上司も部下もなにも関係なく好き好きに座って飲むのだ。
酒も、発泡酒から高級なワインまでいろいろなものが用意されている。酒の肴もそれなりに用意して、万全たる構えで新年を迎える準備だ。
本来ならデーデマン邸の人間のみで行われるものだが、勝手知ったるやそこにはもちろん向かいの屋敷の住人も姿を現していた。
「ほう。今年は酒樽ですか」
「去年、ワインのダースだと不満そうだったからね」
とはいえ、タダで参加はさせてくれないようで、セバスチャンとユーゼフの間では酒を持参することという密約が交わされていた。それだけでなく、肴の盛られた大皿もユーゼフと一緒に来たアルベルトとロベルトの手にはある。ユーゼフ邸の料理も美味しいんだよなあ、なんてことを思いながらBはそちらへと熱い視線を送っていた。
すでにその目は軽く据わり、やや紅潮している顔からそれなりに酒精が回っていることが見て取れる。その手に握られているジョッキは何杯目だろうか。
「B、ちょっとペース早いんじゃない?」
「いつも通りだって」
「まあ、おおよそその理由は予想ついてるんだけど」
そう言ってツネッテはデーデマンと談笑しているユーゼフを見やる。ユーゼフが来ないわけがないので、来る前に酔ってしまおうという魂胆なのだろう。デイビッドが近くにいるとはいえ、長時間近距離に姿があると耐えられない。そのため、酔ってしまえば感覚や判断は鈍り、ユーゼフの姿を見ても動じないらしい。
面倒な関係よね、と思いながらユーゼフがこちらに向かってくる間もツネッテはその姿を観察し続けた。
「ツネッテ?」
「難儀だなあ、と思っていたところでした。どうぞこちらへ、すでにできあがってますから」
「そうかい?」
ユーゼフは苦笑しながら、ツネッテが開けた方──Bとツネッテの間に座る。Bへと視線をやり、自分を視界へといれずに無心に酒を流し、肴を口にする姿におかしそうに笑った。
「これは……まだ大丈夫かな?」
「手が止まったり気絶してないので、まだ大丈夫でしょう。とはいえ、B、そろそろ水にしておいたら?」
「えー! まだもっと飲もうよー!」
「A……」
一緒に飲んでいるAもすでに酔っ払いと化しているらしく、Bの開いたジョッキへと乱雑に酒を注ぎ足す。ツネッテは思い切りため息をついて、ユーゼフは変わらずおかしそうに笑った。
酔いの回っているAとBに、それを諫めるツネッテ。何かの話で盛り上がっているのか、笑い声があがる現デーデマン当主とデイビッド、エルにヤン、下手にセバスチャンへと絡みに行ってやり返されている前デーデマン当主。騒がしさを微笑ましく見ながらも静かに飲んでいるヨハンやマイヤー、それにちゃっかり混ざっているクラリス。それぞれで今日という日を楽しんでいる姿に、ユーゼフは目を細めた。
宴の様子と己の生きてきた様が重なる。いろいろな時でそれなりに酷いこともあったが、結果的にこうして楽しい日々を過ごしていることへとふと想いを馳せてしまっていた。
「なんだかんだ、いい人生だったな」
「はあ?」
「おっと……」
独り言のつもりで漏れた言葉に、思わぬところから反応があった。Bが、相変わらず据わった目でユーゼフを見上げている。
「なあに過去にしてんですか。あんた、まだまだこれからでしょう」
「と、いうと?」
「まだ一滴も酒を飲んでないでしょう?!」
「ああ、そっちかぁ」
なみなみと満たしたジョッキをユーゼフの前に置き、飲まないと損ですよ、なんてことを言う。苦笑しながらそれに同意を返しながら、酒を煽る。その苦味としっかりと冷やされたビールに思わずため息が漏れ出た。
気づけば、目の前の皿には肴として用意された料理がこんもりと積まれている。
「俺のオススメです」
そう言って自慢気な顔をするBに、ユーゼフはやはりおかしそうに笑った。
「ありがとう、Bくん」
「俺がこうして世話するのも、今日だけですからね」
「うん、そうだね」
普段のユーゼフに対する文句がつらつらと出てくる様に、それでもユーゼフは楽しげな笑みを崩さない。
「あ、これ美味しいね、ほらBくんもおかわり……」
普段の食事ではしないが、ひとかじりしたヴルストをフォークに刺したまま軽く向ければ、Bはそれにかじりついた。酔いもあって無意識にそれをしたのだろう。
「うん。俺のオススメに間違いはないでしょう?」
「あ、ああ、うん」
思わぬBの行動にユーゼフは動揺していた。Bがかじりついたあとのヴルストをしばらく眺める。
「人生って、まだまだなにがあるかわからないものですよねぇ」
Bとは逆側から聞こえたその声に、びくりと肩を揺らした。そちらを見れば、ツネッテが意味深に微笑んでいる。
「き、聞こえてたんだね?」
「地獄耳なものですから。ほらほら、あーんができるのも今のうちですよ」
ツネッテも酔いが回ってきているのだろう。親しいとはいえ、目上の人間の扱いに容赦がない。いまだヴルストが刺さっているフォークを持つユーゼフの手首を持つと、Bへと傾けた。
「ほらほらB」
「ん?」
状況が明らかにおかしいのだが、それに気を留めた様子もなく差し出されたヴルストにBは同じようにかじりつく。
「餌付けしてる気分だなあ」
そう言ってユーゼフは苦笑を浮かべた。
まだまだ宴は終わりそうもない。
end.
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