著者: 雷歌/らいと
2020-11-17 01:13:50
3108文字
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【#twstプラスB / イデ監】ハッピーハロウィン!

終幕ハロウィン。

「すごい……すごい、一週間だったな……
 一週間とは言わず、その準備期間からもうある意味すごかったのだが。
 ジュースを手に、空を見上げる。ハロウィンパーティーは立食形式なため、座りたい人は植え込みのふちだったり少し離れた芝生だったりに座っている。という俺も、適当に料理を皿に盛り付けたものを傍において、芝生に座っていた。
 グリムはすでにかなり食べたのか、腹をパンパンに膨らませて仰向けに寝転がっている。とても満足そうな表情からして、ハロウィンウィークを楽しめたようだ。
 元居た世界でも、それなりに盛り上がるハロウィンではあるが、こんなに一週間たっぷり使って盛り上げるようなことは──テーマパークとかを除いて──あまりない。いままでの学園イベントと比べても、とても濃ゆい行事だっただろう。
 パーティーの方に目を向ければ、仮装をしているみんなはパーティー客に声をかけられたりして、いまだ忙しそうだ。
 スマホを取り出して、この一週間で撮った写真を眺める。その中にはもちろんあの写真も含まれていて、最後はゴーストたちやケイト先輩、ヴィル先輩、ジェイド先輩らと一緒に撮ったものだ。
「楽しかったなあ」
「ふなあ、ずっと続いて欲しいんだゾ~」
 そうだねえと軽くうなずいて、苦笑する。終わりがあるからこそ、こうやって精一杯楽しめるというものだ。永遠に続くパーティーはきっとつまらないだろう。けれども、ずっと続いて欲しいという思いも分かる。
「たくさん思い出作っちゃったなあ……
 写真をサムネ一覧表示させて、その数に目を細める。ただでさえ、こちらで過ごす日常は刺激的で楽しい。大変なことに巻き込まれることもあるが、それも悪くないと思っている。いつかの時のために笑っていられるように、悔いなく過ごすのが一番だろう。
「ユウ、イデアと写真が撮りたいんじゃないのか?」
「ああ、うん、落ち着いたら」
「あいつ帰りそうだゾ」
「へ」
 グリムが見ている方向を見れば、物陰に隠れながらこっそりと動いているイデア先輩の姿があった。パレードでの練り歩きもあったし、さすがに人前にいることに疲れてしまったのかもしれない。
 ちょっと行ってくるね、とグリムに声をかけて俺もこっそりとイデア先輩の後ろをついて行った。
 鏡舎近くになり、人影が見当たらないことを確認してイデア先輩はカボチャ頭を取る。俺が一目惚れした青く燃える髪が流れ落ち、背中一面に広がった。
 やはり綺麗だなあと思う。意志を持つかのように揺らめき、途切れることのない炎。近くにいる感じでは熱くはなかったが、まだ触れたことはない。
 遠くでは聞こえないが、何かぶつぶつ言っている。おそらくは疲れただのパーティーまでは付き合いきれないとか、そういう内容だろう。
 よし、と気合を入れて口を目いっぱい開く。
「イデアせんぱーい!」
「ひぃっ、か、監督生氏!」
 今追いかけてきたかのようにイデア先輩に走り寄り、慌ててカボチャ頭を被ろうとするのを、俺も慌てて止めた。
「待って、待って先輩! イデア先輩と写真撮りたくて来たんですから!」
「え、いや、監督生氏とは写真撮ったでしょ」
「パンプキン騎士とは撮りましたね」
「それで充分」
「俺は、イデア先輩と撮りたいんです」
「いや拙者と撮っても得にもなりませんし」
 誰にも自慢できないしむしろなんか変な呪いがスマホにかかるかもしれませんぞ、とかぶつぶつ言い出すイデア先輩に苦笑を浮かべる。それを止めるように、俺は少し強めにイデア先輩、と口にした。
 驚いた先輩は肩をびくつかせて、こちらを見ている。
「ねえ、先輩。俺に思い出をください」
「お、思い出?」
「いつかここからいなくなる時、後悔しないように」
「い、いや、何言って」
「笑ってさよならできるように、たくさん俺のわがままを叶えておきたいんです。だから、一緒に写真撮ってください」
 自分の目の前にスマホをかざして、口元で笑みを浮かべる。しばらくの沈黙に、やはり駄目かなあ、と思い始めた時だった。
「写真を撮るのが、思い出なの?」
 そんな声が聞こえて、驚いてイデア先輩を見る。イデア先輩はこちらを見てこそはいないが、どこか怒っているかのように眉を寄せていた。
「ほら、写真があればいつでも反芻できますし」
「写真を撮ったら、拙者はもう思い出の中の人ってことですか。あーはいはい、いつかいなくなる人にとっては、どうせその程度ですよね。イベントで出会った程度の、夏の思い出的な? 一過性のものなんだ」
「え、えーと……?」
 何を怒っているのか分からず戸惑う。
「しゃ、写真を撮りたくない、てことで?」
「そのスマホで撮ることは、ずっとないでしょうな」
「ええ?」
「さんざんこちらをかき乱しておきながら、スチルだけで終わると思ったら大間違い」
 細められた目で、イデア先輩は俺を見る。暗闇の中でジャックオランタンのオレンジの光を反射した瞳が、やはり綺麗だなと思った。
「拙者にとって思い出とは、スチルだけじゃなくすべてのストーリーも含めてますから? まだ終わりを迎えてないストーリーなのに、それまでのスチルを見返して良いストーリーだったなあ、なんて浸るのは解釈違いもいいところ。語るなら、反芻するなら、すべて終わらせてからにしてくだされ。だから」
「え」
 イデア先輩に腕を引き寄せられ驚いていると、カシャッ、とシャッター音が聞こえた。驚いて音の方をむけば、いつの間にかイデア先輩愛用のタブレットがそこに浮かんでいる。画面に、さきほど撮ったのであろう写真がしばらく表示され、消えた。
「ハロウィンイベントのスチルの解放は……それ以外の、これからもあるであろうスチルの解放も、ストーリー終えてからですから」
 わかりましたな?! と確認されるように言われ、なにがなんだかわからないがとりあえず頷く。イデア先輩は、じゃあ拙者は帰ってアニメリアタイするんで、と言ってさっさと鏡舎へと行ってしまった。
「と、とりあえず……写真は、イデア先輩が撮ってくれる、という……?」
 疑問は多々あれども、それよりもさきほど掴まれた腕からじわじわと熱が広がってくるように感じて、落ち着かない。腕をさすったりしたがそれが治まるわけもなく、やがて顔に到達した。
 自分の頬を触ると、熱をより実感してしまってダメだった。
「あつ……
 そう呟きながらその場にへたり込む。
 饒舌に話している際の炎の揺らめきが、射すくめるようにこちらを見た瞳が、瞼を閉じると鮮明に浮かんできた。
 思い出で終わらせてくれないらしい。わからない単語もあったが、つまりはそういうことだろう。これからも付きまとっていい、ということだろうか。イデア先輩の端末であったら、一緒に写真も撮ってくれるということだろうか。それはなんて楽しくて幸せなことだろう。
 心を侵食していた想いが強くなる感覚に、泣きそうになる。後悔がないようにめいっぱいこちらを楽しみたいけれど、こちらの世界からいなくなる際に心残りになるようなものを作る気は実際のところはなかった。
 イデア先輩に接触するにしろ、ある程度のセーブを心がけていたのだ。親しい後輩になれればいいなあ、と思ていた程度だったのに。
「もう……どうしてくれんの……
 両手で顔を覆い、あふれ出す想いにたまらなくなる。今誰かが来たらすぐには立てないだろう。落ち着く時間が欲しい。自分の想いをちゃんと受け入れる覚悟が欲しい。
 ああ、俺は、貴方のことが──



end.