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著者: 雷歌/らいと
2020-11-16 03:38:28
5464文字
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ツイステ
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【#twstプラスB / イデ監】逃走ハロウィン!
ハロウィンウィーク何日目かの監督生くん。
「ったく、どこまで行ったんだか
……
」
マジカメでバズっている写真に写っているためか、グリムの人気が今すごい。ハロウィンウィークの一日目、寮へ戻った時にはそれはもうゴーストらとグリムが客に囲まれて写真を撮られまくっていた。
本日も似たような状況で、写真を撮ろうとする客の勢いに怯えて自由の利かないことに怒り、その場から逃げ出してしまったのだ。最初こそ、俺様の人気を記念に撮っておくんだゾ! とか言って、俺に周りから撮るよう言っていたのだが。
そんなもんだから、スマホは俺が持っている。グリムが持っていたら、エースかデュースにお願いして電話をかけて居場所を聞けたはずだ。
馴染みのあるその二人がいるハーツラビュル寮の会場にいるかと思ったのだが、会場にいる寮生に聞いても来ていないとのことだった。しょうがなく、俺はあてもなく学園内をふらふらと歩いている、というわけだ。
「ねえねえ、きみ!」
「はい?」
校舎も一通り見終わって外へと出ると、いきなりそう声がかかった。そちらを見やれば、一般来客者なのだろう。スマホと一緒にマップをもっている。一緒にいる別の客は自撮り棒とやらにスマホをセットしている状態だ。
「君もナイトレイブンカレッジの生徒だよね? 仮装してるし」
「はい、そうですけど
……
」
「どこの寮? 俺ぇ、全部の寮回って仮装をコンプリートしたはずなんだけど、その仮装どこでも見なかったし」
「あー
……
」
マップに、オンボロ寮の名前は書いてある。ディアソムニア寮の会場がそこになっているため、記載されているのだ。かといって、スタンプラリー対象になっている寮ではない。さらにはあそこの寮──というか建物に人が住んでいるわけないと思われているらしく、さてどう言ったものかと頭を悩ませた。
「分かった! あれじゃない? シークレットってやつ!」
「あ、レアキャラ? 見つけたらラッキー的な?」
「マジ? え、写真撮ろ撮ろ!」
「え、や、あの」
なにやら勝手に納得してくれたらしい。それはいいのだが、こちらの了承を得もせずにいきなりひっぱられて、その集団の真ん中に立たされた。
「笑って笑ってー!」
あしらうのも面倒くさいので適当に笑ってピースしてやる。
「次はツーショで!」
「ええ?」
乱暴とも言えるほどに強い力で肩を抱き寄せられ、驚いているうちにシャッター音が響いた。
次は俺、私、と写真を撮られているうちに周りに人が集まり始める。がやがやしている中にも聞こえてくるのは、何が起こっているのかと聞いている人に対して、シークレットキャラだってとか、一緒に写真撮ったら幸運なことが起きるらしいよ、とか。根も葉もない話が広まり始めている。
ああなるほど確かに、グリムが逃げ出したくなる気持ちがよくわかった。
こういうのは特に反応も返さずにただ流されておけばいつかはおさまっているものだ。雑な愛想笑いを浮かべながら落ち着くのを待った。
待った、の、だが。
俺は今、全力で走っていた。
(無理無理無理
……
!)
写真を撮るぐらいはまあいい。なすがままにしておけば大して疲れない。けれど、それをいいことに帽子を勝手に取って写ろうとしたりするのには、さすがに怒ってしまった。
せっかくエースやデュースが、ゴーストらが、俺たちのことを考えて用意してくれたものだ。それを乱暴に扱われては、腹立つのもしょうがないだろう。
追っかけてくるような人はいないが、なるべく人がいないところに行きたかったのだ。またああいう輩に見つかって、写真撮影会が繰り広げられてはたまらない。グリムもまだ見つけられてないし、どうしたものか。
「あっ、ジャミル! さん!」
「ユウ?」
体育着で歩いている姿のジャミルさんを見かけ、思わず声をかけてしまった。おそらくこれからスカラビア寮の会場である購買部に向かうところなのだろう。
ふと辺りを見回せば、木々の上に鏡舎の建物が頭を出しているのが見えた。そちらから来たのだろうか。
「なんだ、そんなに急いで」
「め、めんど
……
くさ、い、きゃ、からっ」
「息が整ってからでいい」
言葉に甘えて深呼吸を繰り返す。まともにしゃべれる程度には息が整ってから、改めて答えた。
「面倒くさい客から逃げてきました」
「面倒
……
ああ、いろんなところで問題が起き始めてるからな」
「そうなんですよー。せっかくオンボロ寮でのんびりできると思ったら、ずかずかと人があがってくるし、それならと外に出たらグリムは逃げるし、俺もちょっと大変な目にあって」
「ふうん?」
「それで、人気のない場所知りません?」
「俺に聞くか。俺は、俺の野望を潰してくれやがったお前のことを、なんとも思ってないわけではないが?」
未だにスカラビア寮での事件について根にもっているらしい。リドルさんは特になにも言わないけれど、アズールさんはさすがにあの契約書を砂にする計画を立てたことにはねちっこく言われた。そう考えると、アズールさんとジャミルさんって似ているのかもしれない。
「うわ面倒くさい」
「教えてやらんぞ」
「嘘です嘘です、教えてください」
ジャミルさんは顎に手を添えて思案しながら言う。
「とはいえ、今こちらに人気のない場所ってのはないだろうからな。どこかの寮に退避しておくしかないだろう」
「それしかないですかー。忙しそうなのにお邪魔しちゃうなんて」
「大人しくしておけばいいだろ。大人しくしておけばな」
そう言うジャミルさんは、ニヤリと笑みを浮かべていてとても悪そうな顔だ。
「わー、何かやらかせばいいって顔だ」
「ああ思ってるな」
素直である。事件前は爽やかで気のいい先輩だったような気がするが、すっかり本性を見せるようになった。
「とにかく、ただでさえ大変なんだからこれ以上問題を起こすな」
「も、問題児だと思われてる
……
!」
「問題児だろ?」
「俺のせいじゃないです、だいたいグリムのせいです」
「はいはい」
じゃあな、と手を振ってジャミルさんは購買部の方へと向かっていった。
この場にいてもしょうがないので、俺はジャミルさんとは逆に鏡舎へと向かう。第一の候補はハーツラビュル寮だが、もちろんのことイグニハイド寮のことが気にならないわけではない。今の忙しい期間だったら、どさくさに紛れてお邪魔してもバレないんじゃないか、なんてことを考えたりもする。しかし、オルトくんに侵入者撃退機能なんかついていたら大変だ。会ったときにでも聞いておこう。次の侵入機会が来た時に気にせず行けるように。
グリムのことは、もう野生の勘あたりで安全な場所を見つけていてくれと祈るしかない。
「ふなぁああ~~!!! 離すんだぞ!」
ちょうど考えていたところにそんな声が聞こえて辺りを見回す。幻聴だったかと思ったが、再び聞こえてきたグリムの声にそうではないと気付く。慌てて声が聞こえてきた方へと走っていくと、そこは鏡舎の入り口だった。その前でグリムを発見したのだが、なぜかイデア先輩に抱えあげられていた。しかも、グリムの腹に顔をうずめている形で。
「グリム! イデア先輩!」
「ユウ! こいつ引きはがすんだゾ!」
「ユウ
……
? 監督生氏?」
「うわ酷い顔!!」
グリムの腹から顔を上げたイデア先輩の顔は、明らかに疲労度を蓄積しまくっていた。いつも血の気のない顔をしているが、今日はさらに隈が酷いしいつも以上に顔色が悪い。おまけに目に光がなく焦点が合っていない。
「どうせ陰キャな拙者の顔なんて世間に向けられない顔ですよ知ってますとも」
「そうじゃなくて、めちゃくちゃ顔色悪いじゃないですか! なんでそんな
……
」
「夜通しでプロジェクションマッピングの手直しに、パンプキン・ホロウを見直して演技に磨きをかけてましたからねー」
イデア先輩と同じく鏡舎から出てきたイグニハイド寮生がそう言いながら去って行く。その寮生もイデア先輩と同じように疲れた表情を見せていた。
どうやらイグニハイド寮は思っている以上に大変なようだ。
「演技に磨きを
……
あっ、じゃあ今日は実写ショーあります?」
「今日までは無理っすわ。まだプロジェクションマッピングの調整が終わってなくて、明日から
……
って、ん? グリム氏?」
「あ、焦点がグリムに合った」
イデア先輩は自分が抱え上げているグリムをじっと見つめて不思議そうな顔をしている。グリムの腹に顔をうずめていたのも、疲れが溜まったあまりの行動だったのだろう。
「いい加減離すんだゾ!」
「あ、ごめんねグリム氏」
離されたグリムは深くため息をついて、俺の頭の上に乗っかった。いつもの重さが少し増しているので、ぐったりと力を抜いているのだろう。お疲れさん、と言う意味を込めて少し撫でてあげた。
「それじゃあ、明日図書館行きますね」
「ああ、うん、それと、来るなら監督生氏は仮装しない方がいいんじゃない」
「え?」
「ほら、これ、全部目が死んでるから」
イデア先輩から差し出されたタブレットには、さきほど撮られたハロウィンウィークの客とのツーショット写真が表示されていた。すでにマジカメに多数アップされているようで、ハッシュタグにNRCシークレットキャラなんてものがついていた。
スッスッと指で送っていくそのどれの写真にも、俺の目はうつろに写っている。雑な愛想笑いとあいまって、見る人がちゃんと見れば適当に写っているんだなと分かるだろう。
「というか、よく俺の写真なんて見つけましたね」
「まあNRCに関する情報は逐一集めてるからね」
「なーんだ、俺に関する情報、じゃないんですね」
「いやいや、監督生氏に関する情報なんてこの世界にはないですし? 無駄だとわかってるのにしませんから」
確かにその通りなのだが、まだNRCの一生徒という価値しかないんだなあと思うと少し残念に思えてしまう。優しさを向けられたり、疲れていてもこうして話してくれるから、頭一個分ぐらいは抜き出ているはずだ。たぶん。おそらく。
「まあ、せっかくのアドバイス嬉しいんですけど、仮装はして行きます」
「え、なんで?」
「せっかく俺のためにゴーストたちが作ってくれたのに、着れる期間にめっちゃ着ないと勿体ないじゃないですか」
そう言えば、イデア先輩に思い切りため息をつかれた。
「わかりませんわ。自分が大変な目に合うのにそうまでして人のために着るの」
「ああいえ、人のためじゃなくて。俺のためですよ。俺が、めいっぱいハロウィンウィークを楽しむため。イデア先輩も、実写ショーをよくするために演技に磨きをかけてるんでしょ? 大変でしょう?」
「ああ
……
なるほど」
どうやら納得してくれたようだ。
しかし、疲れて頭が働いてないのか、タブレット越しじゃないのによくしゃべってくれるなあ、なんて思っている俺である。こうしてたくさん話せるのなら、疲れているイデア先輩も悪くない。
「寮長~! まだそこにいるんですか! そろそろ戻ってください!」
イグニハイド寮寮生が、こちらに駆けてきながらそう叫んでいる。イデア先輩は休憩時間だったのかもしれない。
「じゃあ、イデア先輩。明日、楽しみにしてますね」
「うん
……
」
「ん?」
なぜだかイデア先輩にジッと顔を見られて、首を傾げる。
「なんか、監督生氏の顔がいつもより鮮明な気が」
そりゃあタブレット越しじゃありませんからね、とは言わないでおいた。
ほらさっさと戻ってあげてください、とイグニハイド寮寮生の方を指させばイデア先輩は頷いてからのそりのそりと歩いて行った。
「お疲れだな~」
「そんなでも、ユウの写真は見たんだな」
「ハッシュタグの使用数が多かったんだろうね」
「あいつ、全部って言ってたゾ? ユウが写ってるの全部見たんじゃないのか?」
「全部
……
」
そういえば、言っていた気がする。全部目が死んでる、と。見せるだけなら一枚だけでもいいだろう。けれどそれを何枚も表示させてくれた。
言葉の綾かもしれないけれど、本当にわざわざマジカメにアップされている俺の写真を全部見ていたとしたら。
「頭一個分どころか、もっと飛び出てるかも」
「なんの話なんだゾ?」
「いやいやこちらの話」
今日も今日とてにやける顔をもみながら、さてどこに退避しようかと考えた。
ふと気付いたが、寮への侵入を防ぐために鏡舎近辺は立ち入り禁止区域になっている。ということはつまり。
「グリム、少し居づらいかもだけど、鏡舎でのんびりしようか」
「人が来ないならどこでもいいんだゾ~」
投げやりな様に思わず笑ってしまった。それほど、グリムも疲れてしまったのだろう。それじゃあと鏡舎の中に入って、一般客がいないことを確認して壁沿いに座る。
スマホを取り出して、その中に保存されている写真を確認する。何枚か撮ってるものを送っていき、とある写真で手が止まった。
パンプキン騎士と、グリムと俺。
「せっかくなら、イデア先輩とも撮りたいよなあ」
一日目のあの時、すごく勇気を出して声をかけてくれたのだろう。けれどこれは、あくまでもパンプキン騎士である。本人がそういう振りをして撮ってくれたのだから。
いつか撮れるといいなあと思いながら、誤って削除したりしないよう、その写真に鍵をかけた。
end.
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