学園長がオンボロ寮のことを忘れてくれていたおかげで普通の一般生徒としてハロウィンウィークを楽しんでいる俺とグリム。せっかくならこれを持っておくといいよ、と言われてケイト先輩からスタンプラリー用のマップももらったので、ラリー対象の場所を巡っている。
「鏡の間はすごかったな……」
「人が多すぎて疲れたんだゾ」
「さすがスーパーモデルのヴィル先輩」
そこにさらに通常公開はされない鏡の間という場所。その場とヴィル先輩をしっかり堪能しようという心づもりなのか、人がなかなか途切れなかった。
「さて、次が最後だね」
「図書館だな」
俺のわがままで、図書館は最後にしてもらったのだ。位置的にも悪くないので、グリムは素直に受け入れてくれたけれど。
「イデア先輩の仮装どんなのか、デュースは教えてくれなかったんだよね~。エースの入れ知恵みたいだけど」
当日まで楽しみにしておけよ! とエースはにやにやしていた。良い意味なのか悪い意味なのかわからないけれど、それも悪くないと思ったのも事実だ。
だから、ネタばらしを自らしないようにとそれからイデア先輩と図書館には近づいていない。さすがに準備が忙しくて夜の外出もしてないだろうが。
「さて、イデア先輩は、と」
今は開け放たれている図書館を覗き込む。いつもは本棚だらけの場所にジャックオランタンやその他の装飾がほどこされていた。
目的の人物は見当たらないが、入り口にいたイグニハイド寮の案内にしたがって椅子に座って待つこととした。マップには、図書館ではプロジェクションマッピングと実写を合わせたショーが開催される、とあったが。
図書館の内部に映し出されている森の映像。凸凹している場所もきっちりと計算されて、歪みなど一切ない。じわりじわりとスモークもたかれはじめて、そこはまるで霧深い森だ。より森を演出するためか、木々のざわめき、鳥の鳴き声などの効果音も聞こえてくる。
なるほどこれは、不気味な森を演出しようとしているんだな、と頷いた。けれど、周りの客はロマンチックだとか映像で飛び出してくるように見えているジャックオランタンが愛嬌があって可愛いだとか、そういう反応ばかりである。
これから実写のショーも始まるはずなのだが、それを心待ちにしている客はあまり見当たらない。それに、そういうのが始まる雰囲気もない。
「グリム、ちょっと裏に行ってこようと思うけど」
こっそりとグリムに話しかければ、俺様も一緒に行くんだゾ、ということでそういうことになった。
イグニハイド寮の寮生にイデア先輩がいる場所を聞いてそちらへと向かう。客から見えないように仕切られた場所で、イデア先輩は寮生と何かを話し合っていた。
「あれ、監督生さん?」
「や、オルトくん。なにかトラブル?」
「うーん、そういうわけじゃないんだけど」
詳細を聞けば、客の反応が想定していたものと違い、少々イデア先輩がへそを曲げているということだった。実写ショーへのやる気やモチベーションも下がり、おそらく今日のショーはなしになりそうだという。
「そっかー、それは残念。せっかくの格好いい衣装なのにね」
遠めに見ても本格的な鎧の仮装で、こういうのは少年心というのか、そういうものを擽られてしまうものだ。どこの寮の衣装も本格的ではあったのだが、イデア先輩が緩い服装以外を来ているのを見るのが新鮮で、今のうちに目に焼き付けておきたい。
「まあ忙しいようだし、俺らは行こうか」
「えっ、兄さんと話していかないの?」
「俺がイデア先輩のモチベをあげられるようなことを言えればいいんだけど、残念ながらそういうのは言えないたちなもので」
「え、でも」
「あ、じゃあイデア先輩にお菓子を渡してくれる? 少しは気分転換になるかもだし」
そういって、時々他寮生からもらったお菓子を取り出して、その半分をオルトに託した。勝手にだが、イデア先輩と半分こというわけである。
「本当にいいの?」
「一緒に写真を撮りたかったけど、それどころじゃないみたいだし。イデア先輩に、お菓子と一緒にめっちゃ格好いい衣装ですね、て伝えてくれればそれで」
「お前にしては気持ち悪いほどにあっさりしてるんだゾ」
「気持ち悪いってところは聞かなかったことにする」
戸惑うオルトくんに笑顔で手を振って、その場を後にする。図書館を出てから、少しの後悔はあった。
「なんの仮装かは知らないけど、鎧姿のイデア先輩めっちゃ格好良かった。最高だった。もっと目に焼き付けたかったな~!」
「そう思うんなら、もっといれば良かったんだゾ」
「いいのいいの。一週間もあるし、また図書館行こ? その時は実写ショーも見れるといいな」
それじゃあ次はどうしようか、とマップを広げる。寮の場所はぜんぶ回ったしねえ、などと二人で悩んでいると。
「監督生氏!」
それはもう耳になじませた声が聞こえて、驚くほどのはやさで俺は顔をあげた。声がしてきた方を見れば、ジャックオランタンと似たような目鼻口が彫られている青みの濃ゆいカボチャを頭に被り、鎧をまとっている人物がこちらへと向かってきていた。
思わず目を見開いて、固まる。声からして、それはイデア先輩だと思うのだが、カボチャ頭を予想していなくて、目の前の人物をそうであると認識するのに時間がかかってしまった。
「監督生氏?」
「お、あ、すいません、い、イデア先輩ですよね?」
「そうでござ……ああ、いや、オレは悲しきモンスター、パンプキン騎士!」
「ぱんぷきんないと?」
とは一体? と思ったが、瞬時にイデア先輩の仮装の元ネタがそれなのだろうと理解した。
これは後でオルトくんあたりにパンプキン騎士の詳細を聞かなければならないな。
「それで、パンプキン騎士さんは俺に何の御用で?」
「え、ええと、俺の鎧を格好良いというその見る目ある君には、特別に写真を一緒に撮ることを許そう!」
オルトくんからお菓子と伝言を受け取ったのだろう。それどころじゃないだろうに、どうやらイデア先輩の優しさを向けてもらえる程度には俺は昇格できているようだ。
「ありがとうございます、パンプキン騎士さん」
急いでスマホを取り出して、後ろから着いてきてくれていたオルトくんにスマホを渡す。そうして、俺とグリムとパンプキン騎士を一緒に撮ってもらった。ポーズは、オルトくんオススメで人を脅かすときにするような両手を持ち上げたポーズだ。
撮ってもらった写真を確認して、改めてパンプキン騎士にお礼を言う。
「良い記念になりました!」
「う、うん。あの、監督生氏」
おやもうパンプキン騎士の役は終わりなのかな、と思いつつスマホの画面から顔をあげる。
「監督生氏も、に、似合ってる、その、衣装」
俺も今日はゴーストらが作ってくれた偉大な魔法士をモチーフとした衣装を着ている。グリムとお揃いの帽子にローブを羽織って、いつもの制服にネクタイがある場所にはハロウィン柄の紫色のスカーフがリボン結びをされていた。ナイトレイブンカレッジの生徒だと確かに客には思われるようで、ちょいちょい写真を求められ可愛いですねと言われることもある。
とはいえ、まさかイデア先輩から褒められるとは思ってもおらず、少しだけ照れてしまった。
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ、拙者は忙しいから!」
ガシャンガシャンと金属音を鳴らしながら、慌ただしくもイデア先輩は図書館へと戻っていく。その後を追うオルトくんに、ありがとう! と言えば、嬉しそうな笑みを浮かべて軽く頷くと、図書館へと戻って行った。
「やばいグリム」
「なにがだ?」
「思った以上に嬉しくて泣きそう」
にやにやする顔が止められない。スマホ画面を見て、ますます顔がにやけてしまう。
「やばいやばい、不審顔がおさまらない」
「今日ぐらいは大丈夫なんだゾ」
なんで、と首を傾げるとグリムは辺りを見まわしてから言う。
「みんなハロウィンウィークが楽しくて、にこにこしているからなんだゾ!」
end.
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