著者: 雷歌/らいと
2020-10-25 01:21:23
1488文字
Public アクナイ
 

【akni / 葬博】優先順位

まだまだ葬博未満。

 食堂にて少し早い朝食を摂っているときに、他の部署の職員が目の前に座った。私に用があるのだろうが、こんな早い時間に、と思わないでもない。
「ねえドクター。最近、イグゼキュターさんを独り占めしすぎよ?」
……ええ?」
 独り占めしているわけではない。秘書業務を頼むことは確かに多いのだが、だからといって独り占めしているつもりはない。
「彼が秘書担当でないとき、よくうちの部署を手伝ってもらっててすごく助かってるの。だから、またお願いしたいと思っているのだけど」
「ああ。イグゼキュターがいないと回らないほどの人手不足なら、そちらに人財を回せるかアーミヤにかけあおうか?」
「えっ、ええ、けど、そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
 大方何が言いたいかは分かっている。だが、そういうことに首を突っ込まないためにあくまでも鈍感であることを演じなければいけない。
 それに、イグゼキュターはそういう目で見られるのも嫌だろう。嫌という感情さえも抱きそうにないが。
「君も知っている通り彼はとても優秀だから、秘書業務をお願いしやすいんだよね。独り占めしているつもりはないんだけど……そうだな、それじゃあ彼に選ばせようか」
「選ばせるって、なにを?」
「彼が、私の秘書業務を行いたいか、それとも君の部署の手伝いをしたいか」
 ほんの興味が沸いた。彼は、こちらが優先順位をつければその通りに業務を遂行する。それでは、選ばせたらどうなのだろう。これまでも選択肢というのは何度か用意されてきただろう。その度に選んできたのだとは思うのだが、そういえば私が選択肢を用意したことはないな、ということに気付いた。
「今日はそんなに忙しくないはずだから、イグゼキュターが君の部署の手伝いを選んでも特に困らない。どうかな?」
「いい、けど……
 自信なさげな表情に少しだけ驚く。私としては、どちらを選んでも不思議ではないから、自信もなにもないのだが。
 とりあえずは私の提案に了承をいただけたので、傍に置いておいた端末でイグゼキュターへとメッセージを送る。すでに起きているかどうかはわからないが、これの返信が来たら君の部署へ連絡するよ、と言って部署名だけ聞いておいた。さすがに、女性の連絡先を気軽に聞くほど軽率ではないので。
 あとは、一応このことについてはイグゼキュターには内緒で、というお願いもしておいた。
 彼女が去って行くのを見て、食事を再開する。と、端末が画面を点灯させて、メッセージの受信を知らせてくれた。すい、とメッセージを開けば、イグゼキュターからで。
──秘書業務です
 その一言だけのメッセージであった。なぜ? と聞けば、少しして返ってくる。
──ドクターに関してのことは、最優先事項のためです
 そんな話は聞いたことないけどな、と苦笑する。ラテラーノからの出向の際にも、そういう条件は出していないはずだ。いつの間にかそうなったのか知らないが、彼の中では私のことが一番になってしまったらしい。
 すすす、と端末に指を這わせてメッセージを打ち返す。
──ごめん忘れてた。今日は他の子にお願いしてたんだった。だから、君は他部署の手伝いをお願いするよ。
 それから、前よりも少し長めの間があいて、わかりました、とメッセージが返ってきた。それを見て、少しだけ息を吐く。
 そうなってしまうだけの長い時間を共に過ごしていたのだろうか。だとしたら、他の人間ともコミュニケーションを取るのが彼のためにもなるだろう。
 いつかいなくなってしまう人間を相手にするよりも、きっと。



end.