著者: 雷歌/らいと
2020-10-11 02:28:47
4073文字
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【#twstプラスB / イデ監】媚薬を飲まないと出られない部屋

友達以上恋人未満

「は?」
「え?」
 唐突ではあるが、ドアがひとつしかない部屋に放り込まれたイデア・シュラウドと監督生である。オフホワイト色の壁に囲まれた、寮の個室程度には広い部屋である。
 壁にドアはひとつしかないが、部屋の中にはいろいろな物がそろっている。小さな冷蔵庫、二人分の椅子とテーブル、その横には遊び道具の入っている大き目の棚。あとテレビと据え置き型ゲーム機もある。そして、キングサイズと見て取れるほどに大きいベッド。
「こ、これは、例の部屋……!」
「例の部屋?」
 にまり、と笑みを浮かべたイデアに比べて、首をかしげる監督生。
「とあるクリア条件を設けられた部屋でござるな。それをクリアすれば、無事に部屋から出られるもので、界隈では有名な部屋なんですわ」
「界隈?」
「界隈っていうのは、大抵、え」
 ハッ、とそこでイデアは気付いた。そう、イデアが知っているのは大抵、十八禁で使用されている部屋ネタである。もちろんそういうのではないことも多いのだが、こういう部屋ネタはそういうことを見たいがために使用されることが多い。つまり、今回も。
 イデアは冷や汗だか脂汗だかが浮き出るのが分かった。
「え、なんですか?」
「な、な、ななななんでもない! クリア条件はなんだろうなっ?!」
 挙動不審になるイデアに、きょとりとする監督生は、とりあえずと天井を指さした。
 それにしたがって、上を見上げれば、そこには。
「うわきたこれ」
──媚薬を飲まないと出られない部屋
と、これみよがしにでかでかと書かれている。
「おお、見てくださいイデア先輩。冷蔵庫にいっぱい入ってますよ、ピンクの液体」
「え、いっぱい? 一本でなく?」
「いっぱいですね」
 見たところ、十以上はありそうである。しばらくそれを見つめて、監督生は冷蔵庫を閉めた。
「え、取らないの……?」
「だって、飲んだらクリアなんでしょう? ドアが開くんでしょう?」
「う、うん、そうだと思うけど……
「じゃあ、飲まないです」
「なんで?!」
「イデア先輩とせっかく二人きりになれてるのに、なんで早々にここから出なきゃいけないんですか?!」
 目をぱちくりとさせて、イデアはなるほどと頷いた。そういえば監督生はこういう性格だったのだと。
 様々なトラブルを逞しく乗り越えてきたのは、別の発想をできるからでもあり、適応能力が高いということでもある。
 とはいえ。
「いや、明日には待ちに待った新作ゲームが出るんで拙者ははやく出たいでござる」
「イデア先輩の阿呆ッ!」
 友人程度には距離は縮まっているが、恋人同士にはなっていない二人なので、イデアにとっては二人きりとかはどうでも良いのだ。それよりも、明日の新作ゲーと明後日のコミックスの発売である。
「まだ新作ゲームには勝てないとは……しょうがないですね」
 ため息をついて、監督生は冷蔵庫から媚薬を一本取り出した。瓶詰になっており、蓋はコルク栓である。内容量は百ミリほどだろうか、一口ぐらいで飲み干せそうだ。 
 コルク栓を外して、匂いを嗅いでみる。
「あ、甘いですね、桃かな?」
「ま、まま待って監督生氏が飲むの……?」
「え、飲みたいですか?」
「いや、そういうわけじゃ」
「俺だったら、あとはオンボロ寮に帰るだけですし。そこで一人で悶えてても……まあゴーストはいますけど、生身の人間は入ってこないから、恥ずかしいことにはならないでしょうしね」
「ぼ、僕は、引きこもりのプロだから、僕でもっ」
「でも副作用とかあれば、明日買いに行けないかもですよ?」
「うぐ」
「イデア先輩は、大人しくドアが開くの待っててください」
「監督生氏……男前すぐる……
「褒めていただき光栄です」
 嬉しそうに笑みを浮かべて、それじゃあ飲みますね、と告げて一気に煽った。
 桃味のする少しとろみのある甘ったるい液体が喉を通っていく。飲めないこともないが、甘いのが苦手だったら地獄だな、なんてことを思った。
 空になった瓶を見てしっかり飲んだことを確認し、頷く。
「ドアはどうですか?」
 イデアはドアに近づいて、そのノブを回す。しかし、がちゃり、と音を返すだけで開こうとはしない。
「まだ、開いてない……
「うげぇ、冷蔵庫の中全部飲めってことかなあ」
 再度冷蔵庫を開いて、その量にため息をつく。ひとつひとつの量は少ないが、個数が多いとやがて腹にたまるものである。まあしょうがないか、と監督生は何本か一気に取ってテーブルへと置いた。
「よし、飲みますか」
「いや、あの、監督生氏? 体の方は?」
「体……そうですね、今のところなにも、遅効性とかですかね?」
 よく知らないが、薬や毒にも即効性や遅効性があるため、そういうものなのではないかと監督生は適当に言っている。実際効果が出れば、イデアはその発散に付き合ってくれるのだろうかと、じっと見つめた。
 イデアはその視線の意図を察してか、困ったように眉を寄せる。おそらくイデアも、そうなったらどうしようと考えているのであろう。
 考えても仕方ない、飲まねばドアが開かないというのなら飲まねばならない。小さい声で気合を入れて、監督生は二本目のコルク栓を引き抜いた。
 そうして八本ほど飲み干したころである。異変に気付いたのは、イデアであった。鼻をくすぐる甘い匂いに、最初は媚薬の入っていた瓶から少し香っているものかと思っていたのだが。少しずつそれが強くなっていることに気付いた。いくら残り香とはいえ、それが異常だとわかるぐらいに。危険な匂いだと気付くほどに。
「さすがに、お腹いっぱいになってきた……
 媚薬の効果か、監督生自身も暑く感じ始めて制服のジャケットはすでに脱いでおり、シャツの上の方のボタンも開けていた。
 次の瓶をと手を伸ばすと、イデアがさきほどよりも距離を置いていることに気付く。
「どうしたんですか?」
「いやいやなんでも、なんでもないから」
 表情を見ればなんでもない、という顔ではないことがわかる。何かを耐えているかのように、無を取り繕おうとして失敗しているのだ。明らかに、イデアに何かが起こっていることは察せられる。
 そういえば、とずっと飲むことに集中していたがふとその手を止めると、監督生もあることに気付いた。
 瓶の中身と同じ匂いが、むしろそれよより煮詰めたような甘い匂いが、漂っていることに。監督生にとってはただの甘い匂い程度なのだが、もしかしてこれがダメなのか、と。
 いずれにせよ、はやく飲み干してここを出るしかない。お腹がいっぱいだ、などと言ってられない。
 さらに気合を入れて、監督生はまだ冷蔵庫に入っている媚薬をすべてテーブルの上に並べた。まだ半分以上あるように見えるが、大丈夫いける、と自身に暗示をかけて次の瓶のコルク栓をあけた。

 そうして、残り二本となったところで監督生はテーブルに突っ伏していた。足元には飲み終わった瓶が転がっている。もちろんそれはテーブルの上にもあるが、瓶が落ちるのに構ってられるような精神状態ではない。
(しんどい、なにこれ)
 暑いだけではない明らかな体の異常。体が求めるものに思考を放棄して応じてしまいそうになるが、必死に残った理性を掴んで引き留めているところである。より距離を離しているイデアへと視線を向ければ、今はこちらに背を向けて何故か縮こまっていた。
 しっかり立てば人を見下ろすぐらいに大きい体が今やちんまりとしていことが、なんだかおかしくて思わず笑みを浮かべる。
 動くことさえも刺激になってしまっているが、それに耐えながらなんとか体を起こす。深呼吸を繰り返して、理性を少しずつ手繰り寄せた。楽になりたいとは思うのだが、未知の状態に一晩で楽になれるかわからない。
(そんなことしてたら、明日に間に合うかわらかないし)
 新作ゲームを買えば、イデアは一日中ひきこもるのだろう。それならば、今回のことを理由に褒美としてそれに付き合う許可でももらおう。そう思えば、いくらでもいける気がした。
 残り二本、すぐに飲めるようにどちらのコルク栓も引き抜いておく。お腹はいっぱいだし、理性もギリギリだ。それでも残り二本というのは救いである。ゴールは近い。
 さあ飲むぞとそれへと手をのばせば、横から別の手が現れて目の前から消えた。瓶を取った別の手を目で追えば、いつの間にか近くに来ていたイデアが二本とも一気に飲み干したのだ。
 そうしてこちらを見る目が、どこか必死でいて切なげにも見える。
「いであ、せんぱい?」
 呆気に取られたのと、朦朧とする意識でたどたどしく呼ぶのと同時に、ドアの鍵が開く音が部屋に響いた。その音を聞いて、ああよかったなと安堵したところで、監督生の記憶は終わっている。



 翌日、昼過ぎに目が覚めた監督生は頭を抱えていた。
 オンボロ寮で寝ているベッドのシーツなどの寝具が何故か新品になっていたり、それがいままで触れたこともないほどに滑らかな肌ざわりだったりしたのだが、それよりも。
 やたらとすっきりしているのだ。
「なんで、なんで、覚えてないんだ俺ッ!」
 最後まではしていない。だってそういう違和感はないから。けれど、そう、手伝ってはくれたのだろう。そうでないと、この状況は説明がつかなない。
「なんか、制服も新品がかかってるし……
 こちらもぼろいがクローゼットには普段来ているものとは違い、パリッとさせてある制服がかかっていた。シャツも数枚追加されている。
「サムさんとこに、監視カメラとか売ってるかな……
 今度同じようなことがあれば、また記憶がなくなってもいいように部屋にカメラを置いておけば逃すことはないだろう、なんてことを考えた監督生であった。
 なお、それから数日間イデアは目を合わせてくれなかったという。


end.



──(二人が)媚薬を飲まないと出られない部屋──