著者: 雷歌/らいと
2020-09-24 00:57:32
2200文字
Public バンやろ
 

【bnyr / 大京】そうらい

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18. そうらい -> 明く, 日和, 音色

「晴れたー!」
 青く広がる空に向かって、大和は両手を上に広げながらそう叫んだ。隣では苦笑しながら京もいる。
 ここ数日、陰鬱とした空模様が続いていたのだ。時折、雨が降ったりもするためなかなか気の抜けない外出はできないでいた。
 しかしようやく暗く重たい日々が明け、幸いにも休日と晴れの日が重なって待ちに待ったお外デートと相成ったわけである。
 大和と京は、部屋で過ごすのを厭うわけではないが外は外の楽しさがあるのだと知っていた。
「京! ほら、はやく行こうぜ!」
 楽しみでしょうがないといった様子で、京の手を取ると速足で目的の場所へと向かう。掴まれた手をきちんと握り直し、京はひとつ頷いた。
「あっれー?」
 ここオススメ、と事前に翼から聞いていた店の前で大和は首を捻る。
 店内ではいろんな曲が自由に聞けて、リーズナブルに軽食も取れるような店だ。ここなら京さんも好きなんじゃない? ということだった。
 が、しかし。どうやら本日は定休日らしい。
「ここはまた今度だな!」
「そうか、また今度か」
「ああ!」
 楽しみにしていた店が休みだからといって落ち込むような二人ではない。二人にとってのまた今度は、その場のしのぎの言葉ではなく、確かな次の約束なのである。
 じゃあ次は京が行きたいところな! と言って、さっさと次の目的地へと向かう。
 お気に入りのレコード店だったり、小腹が空けばよく行くファストフード店だったり、たまたま見つけた良さげなお店だったり。どこへ行ったとしても二人は楽し気である。
 そうしてあちこち行っては最終的に京がよく行っている海辺へと足を運ぶ。京と同じOSIRISメンバーのレイや進と出会った話をして、実際に大和を連れて行ってみれば、俺もここ好きだな、という話になり二人のお気に入りの場所になった。
 スタジオ以外でカラオケボックスや家で歌の練習をしていた大和にとって、海へ向かって歌うというのがとても気持ちの良いことだと気付いたのだ。とはいえ、それは京と一緒だからというのも、理由のひとつかもしれない。
「歌日和だー!」
 日は少し傾きつつあるが、晴れ渡った空と海のコントラストに向かって思い切り声をあげる。京は楽し気に笑みを浮かべて、そうだなと頷いた。
「今日は、新曲だったか」
 果たしてそれは先に聞いてしまってもいいものか、とふと京は疑問を浮かべる。間髪入れずに大和は、いいぞ! と答えた。
「宗介に聞いたら、せいぜいしごかれてこいって!」
「し、しごかれ……?」
 どういう聞き方をしたのか知らないが、どうやらBLASTのギタリストである宗介の中では京が歌を教える、ということになっているらしい。
 ただ歌いたいだけなんだがな、と苦笑すると俺もそのつもりだ、と大和は頷き返す。
「歌詞間違ってるかもだけど、全力で歌うからな」
「ああ」
 ひとつ息を吸うと、大和は語りかけるように歌いだした。いつもの元気な曲とは違ってどこか夏の終わりの寂しさを感じさせる曲に、京は素直に関心する。もちろんそれは、BLASTの作詞作曲を担当するギタリストに対して、それに大和に対しても。曲に合わせてしっかり歌い方を変えてくる姿は、立派なボーカリストである。
 紡がれる音色に耳を傾けながら、京は眩しそうに目を細めて大和を見つめる。元々響く声ではあったが、どんどんと成長する歌声に、負けてられないな、と笑みを浮かべた。
「京の視線が、すごく熱かった!」
「ん、そうか?」
 歌い終わって感想でも言うのかと思えば、大和の口から出たのは違うものであった。
 そんなに真剣に見つめてしまっていただろうかと思い出してみるも、あまり覚えていない。楽しい時間だったな、と思うぐらいだ。
「おかげですごく気持ちよく歌えた気がする」
「なら良かった。そろそろ帰ろうか」
「京の歌、まだ聞いてないぞ!」
「冷えてきたし、冷たい風は喉に良くないからな」
 まだ時間が許すのなら家に帰ってからでもいいが……、と思い浮かべると大和はそれで! と言う。
「時間は大丈夫なのか?」
「今日はバンド練もないからな」
 だから夜まで平気なのだと言う。本人が言うのなら良いのだろうと、それならそうしようと京はひとつ頷いて了承した。歩き出そうとすれば、大和は京の手を取った。
「あ、やっぱり冷たくなってる」
 海風に当たっていたこともあり、体はじわじわと熱を奪われていたのだ。そんなことに気付かないほど、大和の歌に聞き入っていたのだろう。
「大和の手は、温かいな」
 取られた手を握り返し、そんなことを呟く。すると、大和もより強く握り返してきた。
「京、やばい」
「え?」
「ちゅーしたい」
 あまりにも真剣な顔で言うものだから、思わず京は噴き出していた。本気なんだけどな、と言う大和に笑いながらもわかってると頷く。
「それも、帰ってからな」
 握られた手を持ち上げて、その代わりだと言わんばかりに大和の手の甲に軽く唇をつけた。大和はなんとも言えない表情を浮かべながら少し唸って、そして思い切り息を吐き出す。
「京はお預けがうまいなー」
 そんなつもりはないのだがと心の声で呟くと、大和は仕返しだと言って、同じように京の手の甲に口づける。
 京は、なるほど、と少し赤くなった顔で頷いたのであった。



end.