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著者: 雷歌/らいと
2020-09-21 01:52:03
1806文字
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戦セバシリーズ
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【戦セバシリーズ / ユーB】みおつくし
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8. みおつくし -> 東雲, 白波, 尽くす
働き始めて半年ぐらいのBくん。
何故だろう。何故こんな朝早くに海に来ているのだろう。呆然と白浜に立ち尽くし、それでも綺麗な姿を見せる東雲の海に目を細める。
こんな原因となった人物はそのままの姿で海辺に立ち、寄る波で濡れたズボンの裾をまくり上げている最中だ。
デーデマン邸で働きはじめてから知り合った向かいの主人は、いつも気さくに声をかけてくるが得体の知れない人物である。付き合い方を間違わなければ害はない、というセバスチャンのアドバイスがなんとなく分かりはじめてはいた。
「あの、ユーゼフ様?」
「なんだい?」
まだ夜が明けぬうちに目が覚めて、とりあえず準備をするかとのんびり身支度を整えていると、いきなり部屋に侵入してきてここまで連れてこられたのだ。
「これ誘拐」
「ああ大丈夫。昨日のうちにセバスチャンには許可をもらってるから」
「本人への許可は?!」
「言ったら、君は行かないだろう?」
「ええそうですね」
オフを貰えるというのなら、思い切り羽を伸ばす。ひとりで、だ。そもそもこれはオフというより、よく取引をする向かいの主人への接待なのかもしれない。
「まあ、もうどうにもならないんで良いんですけど。なんで海なんです?」
「デートっぽくない?」
「ぽくないです」
なんの冗談ですか、とため息をついて諦めて靴と靴下を脱いだ。ついでにズボンもまくりあげる。
しょうがないので付き合って海辺で遊んでやろう。
浅いところへと足を入れ、その冷たさに鳥肌が立つ。それもそうだ、季節は冬も近い。この時期に海水浴をするような人などいないだろう。
ひと際大きく波が引いたかと思えば、さぶりと足にぶつかってくる。同時に靡く白波はすぐに消えてしまい、まるで幻のようだとぼんやり思った。
ああ今の状態も幻であったら良かったのに、なんて思ってもしょうがないだろう。わかってる。現実逃避だ。
「それで、俺を連れてきた目的はなんなんですか?」
「お疲れのようだったから」
「
……
はあ」
目的はないのかもしれない。ただの気まぐれで俺を連れてきたのかもしれない。
どうにもいまだよく分からない向かいの主人は、ただ笑みを浮かべて引いては寄せる波を受けている。それだけなのに、朝焼けの美しい景色があまりにもお似合い過ぎて、怖ろしい程に美しい人なのだと改めて理解した。
とはいえ自分が仕える屋敷にも美丈夫がいるので、他の人間よりはこの人に対する耐性は上だろう。本気を出されたらわからないけれど、そんな時は来ないから気にする必要はない、はず。
「冗談ではないよ? 僕は君を気に入っているからね」
「気に入られるような、思い当たる節ありませんけど」
「ああそうだね、君は」
意味深に言葉を区切り、こちらに微笑みかけてくる。慈愛を表面からも感じるが、どこか哀し気なそれに首を傾げた。
「まあいいや、今日ぐらいはデーデマン邸のことは忘れてリフレッシュしよう」
「え、ユーゼフ様と?」
「そう僕と」
「で」
出来そうもない、と言いそうになるのを寸でで止めた。本当の目的は──いや目的はないのかもしれないのだった──わからないが、悪いことをしようと、させようというわけでないならいいだろう。
「今日は一日、君に尽くそうと思うんだ、僕が」
「ユーゼフ様が?」
「そう、なんでも言ってくれていいよ」
「いやあ
……
」
なんでもは無理だろ、と心の中で突っ込みながら何度目かわからないため息をつく。
「ああ、ええと、じゃあ、お気に入りのアイス屋で、今限定フレーバーのアイスが出てるから、それだけお付き合いいただければ」
「よし、じゃあまずはそのアイス屋に行こう。その次はアイスを食べながら考えようか」
「いや、アイスだけで」
うきうきといった様子で海から出たユーゼフ様は、一瞬きの間にその身支度を整えていた。濡れてまくりあげていたズボンも元通りになっているし、いつの間にかぴかぴかの革靴もその足に履かれている。
本当に得体のしれない人である。
「僕は運転するから先に整えたけど、Bくんは車の中でいいからね。タオルとかもちゃんとあるから」
「はあ、お気遣いどうも」
楽し気な雰囲気に水を差すのも野暮というものだろう。しょうがないなと苦笑して、車へと歩いていくユーゼフ様の後ろへと続いた。
はたして本当のリフレッシュは、どちらができたのか。
end.
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