著者: 雷歌/らいと
2020-09-03 23:54:33
2185文字
Public アクナイ
 

【akni / 銀博】快晴に漕ぐ走馬灯

銀博要素はちょっとです。

 目に入るは綺麗な青。それが雲一つない空だとわかると、ああこれは夢だなと理解した。
 ここ最近、そんな綺麗な空を見ていない。時折雲間から日が差すことはあるが、暗い雲がなくなることはなかった。
 こんなにも良い天気なのに、鼻は嗅ぎなれた匂いを感じ取っていた。
 砂埃、硝煙、それにわずかな鉄臭い匂い。
 匂いを認識すると、とたんに耳にも声が聞こえ始める。誰かの悲痛な叫び声、檄を飛ばす声、怒号。
 夢の中なのに、目を閉じるという行為をする。瞼裏に見えるは、私ではない私、それとも私か。
 戦場に立ち、果敢にも指揮をとる姿。
 そこには、私の知らないオペレーターがほとんどであった。それが、今と同じく敵対組織と戦っているのだろう。
 すると、流れ弾がいつも頭全体を覆っている防護メットにあたった。ヒビが入り、破片がぱらぱらと落ちていく。
 近くにいたオペレーターが駆け寄るが、それを手で制し、自分は大丈夫だと口にする。
 メットの割れ目からわずかに素顔が覗いた。
 今と同じように日に当たらないため不健康にも見える白い肌のためか、やけに唇の色が際立つ。
 そしてその割れ目から見えた口元は、少しだけ──



 目を開けた。薄い灰色の天井は、見覚えのあるものだ。
「ドクター! 良かった、目を覚ましたんですね」
 声の聞こえる方へと視線をやると、アンセルが安堵の表情を見せている。
 記憶を掘り起こす。
 確か戦場に出ていて指揮をふるっていたはずだ。そこでレユニオンの狙撃手に狙われて、攻撃が当たった。幸いにも防護メットの上からだったため貫通はしなかったが、その衝撃で倒れこみ頭を打ったという顛末、のはずだ。ということは、私は脳震盪あたりを起こしたというわけだろう。
「ドクター? どうかしましたか?」
「ああ、いや。記憶の整理を少しね。ありがとうアンセル。もう大丈夫だから、部屋に戻るよ」
「いいえ、もうしばらく休んでください。お仕事の詰めすぎで体調もあまり良くなかったと聞きましたよ」
「ええ? それはアーミヤから?」
「いいえ、シルバーアッシュさんからです」
「ああ……そう……
 私が良いというまで出ては駄目ですよ、と念を押してからアンセルは医務室から去って行った。
 私をここに運んだのは、そのシルバーアッシュなのだろう。いまだに向けられる好意に戸惑ってしまう。こちらに何かした記憶がないため、いっそ不気味とさえも感じるそれは、けれども心地の悪いものではない。
(まあ、好意を向けられるのは、よほど嫌いでない限りは嬉しいものだしなあ)
 医務室のドアが開く音がする。アンセルが戻ってきたのかな、と思えばそこに姿を見せたのはまさに今想像していた人物で。
「目が覚めたと聞いてな」
「うん……ええと、運んでくれてありがとう?」
「ああ、礼には及ばない」
 シルバーアッシュは柔らかい笑みを見せて、それからベッド近くの椅子へと座った。
「肝が冷えたぞ、さすがに」
「私も驚いた、死を覚悟したね」
「覚悟されては困る」
 冗談のつもりだったのだが、少し睨まれてしまって口を閉じた。
「ええと、そういえば、シルバーアッシュは、以前の私と戦場に出たことあるんだっけ?」
 少しだけいたたまれなくて話題をそらそうと、先ほど見た夢を思い出していた。
「そうだな……指揮をとっている姿は見たことがある」
「ああ、ならさ……
 頭に過る、過去か、それとも今か、いずれにせよ私の姿。
 戦場に立つその姿勇ましいと思えるのに、けれどもいやに頭へ映像としてこびりついたその口元。
 私はその時──
「指揮をとっている私は、楽しそうだった?」
 口元が少しあがっていた。
 ゾっとした。私もそうではないか? 指揮をふるいながら笑みを浮かべていないか? 戦場で大変な思いをしているオペレーター達を見ながら、楽しんでいるのではないか? 様々な思考が走って、寒気がした。
「盟友よ」
 ハッと我に返る。恐る恐るシルバーアッシュを見れば、頭を横に振った。
「その時、私は顔を見れなかったから分からない。しかし少なくともお前は、楽しそうではないぞ」
「そ、そう、そっか……
 私を気遣ってなのか、それとも本当のことなのかわからない。でも今は、シルバーアッシュの言葉を信じたかった。
「さて我が盟友よ。今日は久しぶりに空が晴れ渡っている。私を甲板に案内はしてくれまいか?」
「え、でもアンセルが大人しくしとけって」
「私と一緒なら大丈夫だろう。それとも、抱き上げて連れて行こうか?」
「いいですいいです一人で歩きます」
 そういうと、シルバーアッシュはわざとらしくも盛大に残念だという素振りを見せた。おそらく、お願いしますと言ったら本当に抱き上げるつもりだったのだろう。
 ベッドから降りて足元がふらつかないことを確認して、ゆっくりと甲板へと向かう。
 途中ですれ違うオペレーターたちが、起き上がった私を見て、それぞれに回復祝いの言葉をかけてくれた。
 甲板へと通じるドアを開けると、そのまぶしい光に目を細める。ゆっくりとあけ放って、空を見上げた。
 雲一つない真っ青な空。
「綺麗だなあ」
 そう思うのに。瞼を閉じると夢の景色が見えそうで、笑っている私の姿が見えそうで、私は──

end.