次の作戦のことを聞きにケルシーとアーミヤがいるであろう部屋へ向かっていると、多目的ルームとして開放している場所が少し騒がしいことに気付いた。入り口付近にいる人間に聞くと、どうやら次のロドス・アイランド製薬CM用の衣装合わせが執り行われているらしい。
多種多様な人種がいるので、こうして開放された場所でお披露目していろんな意見を聞いているのだ。
「ドクター! よければドクターも見てって!」
私に気付いたオペレーターの一人が、そう声をかけてくる。私はいいよ、と言うつもりだったのだが、人垣が割れて道みたいになってしまったので致し方なくそこを歩く。
高身長なため頭が抜きんでて見えていた話題の中心人物は、やはり予想通りその人で。
「へぇ、今回の衣装はそれなんだね」
そう声をかければ、シルバーアッシュはこちらを見て首を傾げた。
「夏をイメージしたものらしい。お前好みか?」
「好みかどうかは置いといて、海賊みたいで格好いいね」
普段の彼とは違い、胸元が大胆に開いた衣装だ。いつもは理知的な印象だが、こういうものだと野性味を感じさせる。大きい青色のペンダントを配しているから、胸元に視線を導きたいのだろう。ご多分にもれず、私もそこへと視線を流してしまった。
男らしい厚みの胸板にどきまぎするのは、男といえど私だけではないはずだ。
それからゆっくりとシルバーアッシュの全体を見るようにして、にやり、と笑む。
「お頭、今度の宝はどこにあるんですかい? なんちゃっ──」
何かで観た海賊の子分のつもりで冗談で口にしたのだが、ぐっと顔を近づけられて言葉が途切れた。
「宝なら私の目の前にある」
真っ直ぐにこちらの瞳を見つめ返される。目を細められて、ぞわりと肌が粟立った。
口は弧を描いているが、目は本気だ。獲物を見る目だ。
「このまま奪ってやろうか、ロドスという堅牢な島から」
「へ」
「ん? 抵抗しないのか? それならばこのまま」
「ま、まま待って待って冗談はそれぐらいに」
気づいたら腰に伸ばされていた腕を解いて、少しだけ後ずさる。
「冗談ではないのだがな」
肩を竦めながら、素直にその腕を引いてくれた。
「……シルバーアッシュ、私を困らせて楽しんでいるだろう?」
よくこのようなアプローチをされている気がするが、この男が”私”に対してそんな気になるとは思えない。完成されたと言っても過言ではない相貌を持つのだから、そういうことに対しては引く手あまただろう。
よりによって、専門研究と戦術指揮ぐらいしか取り柄のない平凡たる私を選ぶこともないだろう。
「そのつもりはないが、まあお前のような賢き者が困る姿は少し楽しいな」
「その標的を私にしないでくれるかい? うちには私以上に賢い子が多いのだから」
「だが、私が興味を引かれるのは、認めているのはお前だけだ」
あまりにも真っ直ぐに見つめられて言われるものだから、いたたまれなくて目を逸らしてしまった。
私はこの男の、私を見る目が怖い。何故そんな曇りなき瞳で私を見れるのか、かつての私はこの男に何をしたというのか。得体の知れないものを見ているような気分になって、腹の奥底が気持ち悪い。
「ああ、ほら、衣装担当の人も困っているよ、最終調整かなんかあるのだろう。はやく終わらせてくるといい」
衣装担当の社員と目が合うと、困ったように笑まれてまだ何か作業があるのだと気付いた。
「しょうがないな。盟友よ、また後で」
「ああ、うん……」
衣装担当と話始めるのを見て、私はその場を後にした。
本来の目的の場所へと歩いて行きながら、ふと海賊然としたシルバーアッシュのセリフが頭に過った。
「そうだな……もし、"私"がこの世界から不要とされたその時、まだ"私"を欲しいと思うのならさらわれてもいいよ」
だがその時が来たら、"私"はもういないのだけど。
end.
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