お芋さん太郎
2022-06-01 21:40:08
6904文字
Public twst
 

監督生と滅びの歌

※ツイステ
※オールキャラ
※性別不明監督生

以前pixivで公開していた作品です。

◆◆◆


ホリデー前のテストが午前で終わり、教室を出る面々は総じて浮かれ気分である。
頭を使うということは存外腹が減るもので、食べ盛りの男子生徒たちは早々に食堂や購買部に向かい、昼食をとろうとする者が大半のようだ。
監督生とグリム、エース、デュースも例にもれず、消費したエネルギーを補給するためにメインストリートを抜けて購買部に向かっていた。
テスト最終日にふさわしく空は快晴で心地よい風が吹き抜ける。
昼食を買ったらピクニックのように外で食べようかと会話が弾んだ。

「僕は最後の問題が難しかった。応用問題だっただろ、あれ」
「フン、俺様は完璧なんだゾ!」
「毎回そう言って赤点ギリギリでしょグリム」
「あーやめやめ!せっかく解放されたんだから勉強の話はナシにしよーぜ!」

テンポの良い会話は体に染み込み、気分を高揚させる。
突然この学園に連れてこられ、そのまま入学。様々な厄介な事件に巻き込まれながら勉学にも手を抜かず励む日々を送ってきた監督生は、自分もずいぶんこの環境に慣れたものだと内心で笑った。
ようやく学園にも慣れ、友達や先輩方、先生方との関係もおおむね良好。相棒はトラブルメーカーだが子分想いの頼れるやつだ。
はじめのころは不安や劣等感でどうなることかと思ったが、案外この世界でよくやっていけてるのではないか。もしももしも元の世界へ帰ることができなくてもこの調子でなんとか生きていけるのではとまで最近は思い始めたのだ。

たった数か月の間に片手では数えきれないほどのトラブルに巻き込まれ、曲がりながらも確かな足どりでそれを乗り越えてきた。
その経験は自分の中に小さな自信をもたらした。その自信を丁寧に丁寧に育て、積み重ね、薄暗かった心を光で塗り替え、当初は両手で抱えきれないほどに大きかった不安も今ではティースプーン1杯に満たないほどにまで小さくなっていた。
テストが終わったこの瞬間を、ほかの生徒たちと同じように、心から「楽しい」と感じられた。

そんな時、監督生たちの一団の少し後ろを歩くとあるスカラビア寮生の心の中に音が生まれた。やっとテストが終わり、心も体も解放感にあふれたことで生まれた、歓喜の音だった。
その音は2つ3つと増えると美しい旋律となり、さらに口から紡がれる。
ひっそりと紡がれたその旋律は隣を歩くオクタヴィネル寮生に伝播した。
2人が奏でる音楽は風に乗り、今まさに購買に入ろうとしたポムフィオーレ寮生3人の耳に届きさらに音が重なる。
木陰でくつろぐサバナクロー寮生、具沢山のサンドイッチを口に運ぶハーツラビュル寮生、日差しに誘われ散歩に興じるディアソムニア寮生、寮に戻ろうと鏡舎に向かうイグニハイド寮生その空間にいるすべての生徒がつられて歌いだした。
監督生の一団も例外ではなく、わざとちょっと外した調子でエースが歌い出し、そのエースに答えるようにデュースも声を合わせた。グリムでさえ、ふなふなとリズムをとっている。
あたりが音であふれかえる。

この世界には魔法士が使う普段使いの魔法よりもずっと強力な魔法がいくつか存在するが、その中でも代表的なものは「愛の魔法」と「音楽の魔法」だ。
「愛の魔法」は言わずもがな。事例が少ないとはいえ想いの強さによって「真実の愛のキス」などでとんでもない奇跡を引き起こす。
「音楽の魔法」はもっと身近な魔法で、音楽を奏でたり歌うことで持てる力以上の成果を出せたり大切なものを見つけられたりといった、「運勢の強化」がもたらされる魔法だ。
もちろんただ単に歌えばいいというものではなく、心の奥の方からギューっと絞り出された想いに魔力をのせて発せられた特別な音から始めなければならないという制限はある。しかし魔力の有無に関わらず他の人に伝播させることができ、人数が多いほどたくさんの魔力を練られてより強力なものとなりその効果に上限はないという、使う時と場所場合によってはチートともとることのできる魔法である。
音が徐々に重なり確変状態になると体から自然と音があふれ、人も動物も物でさえも踊り出す。
音楽はこの世界のすべての者にとって遺伝子に深く刻み込まれているといってもいいほどに身近で、強力で、そして幸運の象徴である。

この日は条件がそろっていた。
気持ちいほどの快晴、爽やかな風、テスト明けの解放感、そして普通よりも力を持った魔法士の卵たちが集うこの学び舎。
誰か一人が歌えば次々と歌の波紋は広がり、巨大な魔法が発動してしまうのはもはや必然であった。


筆頭は宴が大好きなスカラビア寮生。
ジャミルはダンスのソウルがうずき、自然とステップを踏んでいた。
カリムは寮に戻って自慢のゾウ達を連れてこようと鏡舎に走った。


サバナクロー寮生は思い思いに雄たけびを上げて駆けずり回る。
ジャックは遠吠えで、ラギーは側転バックステップ宙返りのアクロバットを披露して場を盛り上げる。
普段は面倒くさそうに寝てばかりいるレオナも、寝転がりながらご機嫌な様子で鼻歌を歌った。


ポムフィオーレ寮生は歌声まで美しく。
ひらひらとしたデザインの寮服をひるがえしてくるくると舞うように踊る。
ルークはシンプルな横笛をスウィングしながら優雅に吹き続け、エペルはいつも控えめにしている声を高らかに上げた。
寮生たちの中心にいるヴィルはコーラスの指揮をとりはじめる。


ディアソムニア寮生は厚い底の靴を踏み鳴らし手をたたく。
セベクは自慢の喉で誰よりも力強い旋律を奏で、芝生で寝ていたシルバーはその声で飛び起きる。その周りでは動物たちが愉快な様子で踊り狂っていた。
リリアはチャンスとばかりにギターを取り出しシャウトする。
校舎のガーゴイルを観察していたマレウスは楽しそうに目を細めた。


ハーツラビュル寮生はバラの庭で手を取り合って踊る。
整列したフラミンゴたちはきれいな羽をリズムに合わせて広げ、足元でハリネズミたちがころころと転がりまわる。
リドルとトレイは仕方がないなと言わんばかりの表情を浮かべながら流れる音楽に身を任せる。
ケイトは滑らかな歌声を響かせながら友達の写真を激写、その音は合いの手のように歌と歌の間に響き渡った。


オクタヴィネル寮生は楽器を奏でる。
寮やラウンジの鍋という鍋をドラムのように叩くフロイドの横には、寮の装飾に使っていた大きな巻貝をほら貝のように吹きながら練り歩くジェイドがいた。
ストールをひらひら泳がせながら踊るアズールはまるで海の中で踊っているようだった。


寮の自室に引きこもったイグニハイド寮生にまでもその音は届いた。
調子のよい機械音でリズムを刻みながら各部屋で思い思いに踊るも、まるで示し合わせたようにピッタリと調子があっている。
イデアは先日新しく購入した光る棒を振り回し、それを見ながらオルトが嬉しそうに部屋を飛び回った。


学園全体が沸いていた。
賢者の島中に音楽があふれているような感覚だった。
だから監督生が自分も歌いたいと思ったことは仕方がないことだった。
監督生は実のところ歌は得意ではないと自覚していた。
元の世界では音楽の成績は下の方だし、カラオケではマイクではなくマラカスが標準装備だった。
だからといって歌が嫌いなのではない。苦手なだけで歌うこと自体は好きなのだ。
しかし思えばいままで心の余裕がなく過ごしていたせいで、この世界に来てから歌を歌っていないことに気づき、久しぶりに大きな声で歌いたくなった。歌が恋しかった。

よく耳を澄ますと周りで歌を歌うみんなは、リズムはあっているものの変にハモっていたりハズれていたりしているがそんなことは気にせずに実に楽しそうに歌っていた。
どうやらこの世界で大切なのは声の美醜や音程の正確さではなく「歌うこと」それ自体らしい。
その自由さは素直に羨ましいと思った。
そして自分も仲間に入りたいと思った。

ちょっと恥ずかしいけどみんな歌ってるし。
せっかくこの世界で過ごしてるんだからこの世界の歌をみんなと歌いたい。
一緒に歌えばきっともっとこの世界が好きになれる。


なんてったって今日でテストが終わったのだから!!!



満を持して監督生の口から音が奏でられる。
その小さな歌声に気が付いたマブたちが誘うように手を伸ばす。
その手をつかみ踊りだす。
声が重なる。
大きな旋律を生み、音楽は最高潮をむかえる。


ああ、なんて楽しいのだろう!







最初に異変に気が付いたのはルークだった。
機嫌よく吹いていた笛をやめ、あたりを見回す。
なにも異変はないように思う。だが何かがおかしいと狩人の勘が告げた。
周りを見ると止まっているのは自分だけ。みんなまだまだ足りないとばかりに歌い踊っている。
自分の勘は頼りになる。やはりなにかがおかしい。
ヴィルに何かを伝えたい。
しかしその思いに反して口は動かなかった。



リドルが踊りながらふと目線をそらしたら何本かのバラの木が枯れていた。
先ほどまであんな状態の木はなかったはずでは?管理は確かに完ぺきだった。いったい何が起きた?
心に何かが引っ掛かったが、リズムのテンポが上がった。
寮生たちに情けないところは見せられない。検証はこの曲が終わったらにしようとダンスに集中した。



カリムがパレードをしようとゾウ達の小屋に入ったとき、ゾウ達はとても気が立っていた。
頭がよく温厚なゾウばかりを連れてきているのにどうしたのだろう。
エサは切らしていないし、水も潤沢、特に寒かったり暑かったりもしない。
もしかして踊りたくてうずうずしている?
俺も早くジャミルと踊りたいんだ!
さあ早く行こう!と小屋の扉に手をかけた。



フロイドの鍋ドラムのスティックさばきは絶妙でそれでいて激しく、海の荒波のようだった。
しかしそれがいい、とばかりにアズールのステップは止まらない。
ただスティック替わりにしている菜箸はあとで買いなおさせる。これは絶対だ。
さあもうワンフレーズ、と思った。

その瞬間、大水槽のガラスが割れた。
大量の海水が部屋に流れ込む。
何が何だかわからず、頭は真っ白だった。
オクタヴィネル寮生には人魚が多いが人間も少なくない。
水槽の近くにいた者たちはもう水にのまれていた。
水の壁が迫る。
二匹のウツボが「アズール!」と叫んだ。



急に着信を告げたスマホの画面を見てレオナは驚愕した。
実の兄夕焼けの草原の国王からだった。
兄からの連絡はそもそのあまり頻度は高くない上に、必ず夜に行われる。
昼間は公務で忙しいし、レオナのほうもそばに聞かれたくない誰かがいる可能性もあるからだ。
それなのに昼間に電話が来るということは、家族か、国に何かがあったのか
深呼吸を一つつき、通話ボタンを押した。
知らされた事実に息が止まるようだった。
ただただ、ありえないと思った。

いままでに経験のないほど強いく大きな竜巻がいくつも発生し、国全体に壊滅的被害。特にスラムの住民は、ほぼ、全滅。
うるさいほどに小言を言いながら自分を世話する小柄なハイエナの顔が頭に浮かぶ。
通話中のままスマホがするりと手から落ちた。



マレウスはこのガーゴイルを見たら宴に混ざろうと思った。
人の集まる場所にはいままで無縁であることが多かったが、これは招待がなくても混ざっていい催しの類だ。たぶん、きっと、おそらく。

ゾワリとした感覚が体を包む。
これは実によくない感覚だ。何かが起こる。
とても大きなよくないものが迫っている。
自分の巨大な魔力をもってしても、これは、







この事態を一番正確に把握していたのはおそらく学園長のクロウリーだろう。

彼は言動は胡散臭いが正真正銘、大魔導士の一人である。
魔力量もコントロールも他の教員とは一線を画し、この世界全体を見ても彼ほどの実力者は片手で数えるほどしかいないのだ。
逆に言えばそんな彼をもってしてもこの事態は止めることができなかった。
それまでに突然で強大であまりにも偶然が重なりすぎたのだ。

彼はテストが終わって解放感にあふれる学生たちを校舎から眺めていた。
これから出される課題の量も知らずに、無邪気にはしゃぐ子供たちのなんとかわいいこと。
小生意気で小憎たらしいと常々思ってはいるが、それはそれとして輝く青年たちを見守ることのできるこの職はなんとも意義のある仕事だと感じている。

ことが起こったのはメインストリートだった。
ある生徒をきっかけに音楽の魔法が発動した。
これはとても楽しく運がものをいう魔法だ。
一人でひっそりと奏でるとおまけ付きのお菓子であたりが出る程度の小さなラッキーしかもたらされないが、大人数で歌うとより大きな幸運が生まれる。
人数もだが、練られた魔力の量や質や練り時間、果てには歌のテンポやリズムの合わせ方など様々な要因が絡み合うことで成果が左右され、二度奏でたところで全く同じような結果にならない、とても興味深い魔法だ。
音楽は最高潮を迎え、さて彼らの歌は何をもたらすのかと高見の見物をきめ込もうとした時だった。

暴力ともいえるほどの量の魔力が注ぎ込まれ、異常なまでの速度でそれまで生徒たちが練った魔力と絡み合い、混ざり合い、溶け合った。
大きく質の異なるその魔力は混ざり合う過程で大きな衝撃波をもたらした。
その波は、クロウリーの意識が飲み込まれてしまうほどの衝撃だった。

もう音楽は聞こえない。

メインストリートで楽しく歌い、踊っていた生徒たちは地面に倒れ伏していた。



ただ一人、監督生を除いて。



クロウリーが理解したのはその時だった。

衝撃波が生まれる前に注ぎ込まれた魔力は監督生のものだった。

当初監督生は闇の鏡により、魔力はないとされていた。
しかしそれは間違いだった。
監督生の魔力が「強すぎて」測定できなかったのだ。
馬車は間違えていなかった。
確かに魔導士の素質のある者を連れてきていたのだ。

強すぎる上に、異世界の質の異なる魔力を持つ者を。

魔力があるとはいえ、それまで魔法を使う習慣がなかった環境にいたがために体からそれを出す感覚がわからず、今まで発動しなかったのだろう。
使われずにその体の中で練りに練られ最高水準までに純度を高められた異世界の強大な魔力は、この世界であればスクールで習わなくとも誰でも使えるほど簡単な「音楽の魔法」によってはじめて発現し、偶然発現していたこの世界の魔力と混ざり合った。
どちらかの魔力が極端に少なければこんなことにはならなかったのだろう。
しかしこの魔法士養成学校に通う、比較的強い魔力を持つ生徒たちが、ほぼ全員関わっていたのだ。
どう考えても一般的に発動する「音楽の魔法」の何十倍、下手をしたら数百倍の魔力が集まっていたことだろう。

それらが一度に混ざり合った結果だった。

クロウリーは後悔した。
自分の見立てが甘すぎた。
もっともっと詳しく調べていれば
ああ、倒れている生徒たちは無事だろうか。

しかし今の衝撃はまだ魔力が混ざり合ったことで起きただけなのだ。
「音楽の魔法」の発動はこれからだ。
特大のものが来る。
クロウリーの背をヒヤリとした汗が伝う。

「音楽の魔法」の効果は「運勢の強化」だ。
広くは知られていないがその「運勢」には「悪運」も含まれる。
「音楽の魔法」の直前に奏でられる歌の調子で幸運か悪運かが決定するが、歌を歌う時は楽しい時が多いし、アンハッピーな時は多人数で盛大には歌わないから一般的には「幸運」がピックアップされる。
しかし、条件によっては「悪運」も確かにもたらされる。


最高にまで練られた超巨大な魔力で発動した「音楽の魔法」。
そして発動直前に突然途切れてしまった歌と吹き飛ばされた生徒たち。

今の状況は最悪だった。

何が起こるのか、見当もつかない。

クロウリーは身構えた。






普段の引きこもりの片鱗などどこにも見せずにイデアは踊っていた。
イグニハイドは普段から静かな寮であるが、いまばかりは歌と音楽が響いていた。
寮生たちの好みはそれぞれ違うのに、そのそれぞれの音が妙にマッチしている。
各寮生の「好き」が混ざって新しいものが生まれようとしていた。

だがしかし、それが生まれることはなかった。

心地よい音楽はいつの間にかピタリと止まり、異常を告げるブザーによって肩がびくりと跳ね上がる。

いきなりの警告音に戸惑う。

「兄さん!モニターを見て!」
弟が叫び、はじけ飛ぶようにモニターを確認する。


自分たちが今いるこの島。


賢者の島に、超巨大隕石が迫っていた。


どこから?予測は?なぜ?瞬時に疑問が浮かんでは消えていく。


もう、まにあわな







すべてが白に包まれた。