登山をして山の天辺でのむコーヒーの味は格別だ。それは苦労して山を登ったという体験が特別にしてくれているだけで、実際山の上で百度を迎えず沸騰してしまうお湯で、ろくな道具もなく、粉混じりの状態で飲むコーヒーは平地で飲めば泥水のようだと感じるものなのだろう。
しかしそのためにわざわざ携帯コンロを荷物に加えるくらいには、私は高地でのむコーヒーの味が好きだ。
そんな私にぜひとおすすめされたのが、とある太平洋に面した国が有する山だった。知る人ぞ知る秘境であるという。
私は早速パスポートを取得して荷物をまとめ、その山に向かった。携帯コンロを海外に持ち出すのに多少手間取ったが、問題はなんとか解決し、当地でもコーヒーは淹れることができるようになった。
私は期待すると同時に、その期待が裏切られることを恐れてもいた。何がそれほどまでに人々を惹きつけてやまないのだろう。経験と体力があれば、登るのにさほど苦労はしない山である。私は下から攻めたが、ライトな登山客向けに、そもそもロープウェーで山の中腹までは登ることができた。
一体何を楽しみにしろというのだろう。
その秘密は山頂に待ち受けていた。
石を組んだ小屋がある。読めない文字が書かれた幟が立っている。山小屋という風ではない。何かと思えば通訳は、菓子屋だといった。
こんなところに、わざわざ菓子屋をしているのはどんな物好きだろう。店主の顔を確かめようとしたが、見ることは叶わなかった。決して中を覗き込んではいけないと忠告された。
よく見れば、品物を差し出す開口部はあるが、出入り口がどこにもない。
中にいるのが誰であれ、人ではないのだ。
山頂で甘いものを補充できるのは良いことだ。
私は通訳に聞いて、一番おすすめの商品を購入することにした。それはわたあめだった。高地を流れる雲を集めて作ったわたあめだ。空模様によって味が違う。
私が山に登った日はよく晴れていて、わたあめは鼻に抜ける爽やかな匂いを含んでいた。
そのわたあめは、コーヒーのとてもよく合う。他の味も試してみたくなったし、どうして人々がここの山に登りたがるのか、その理由も理解した。
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