リゼットに直接会うのは一年ぶりだった。
ほんの数年、帝国と行き来していたことを考えればもっと短い期間しか滞在しなかったシルヴェーアだが、その僅かな期間に馴染んだ温暖さは何も変わっていなかった。
マイシュに戻ってからは早々シルヴェーアに滞在することもなく、あっても結局は『任務』のやり取りばかりで、自由な時間もなかなか取れない。そんな中でマイシュの『職場』で休みが取れて、任務はあれど余裕が持てた。となれば、久しく会っていない幼馴染みの下に足を向けるのは当然で。
最後に会ったのはリゼットが騎士学校の教官になる前。それも随分バタバタしていたし、偽装した手紙のやり取りこそあったが、密かに浮かれているのは自覚していた。
……マイシュに戻った後、リゼットに決定的な転機が訪れてしまったのは分かっていたけれど。
俺自身に今なお伸し掛かる任務のことや、質とされている現状に思うこともあるけれど。
そもそもリゼットが現役を退いて騎士学校に行ったのだって。
考え始めればキリがない。だからこそ、あえて浮き立つ心を第一に、騎士学校の門を潜って
――懐かしい薄紫色の髪に、不意に胸が締め付けられた。
言葉にするならば多分、きっと、郷愁だ。
マイシュの地には帰っているのというのに、そんなものをこの地で感じるのも変な話だ。知らず、小さな笑みが浮かぶ。
「リゼット」
後ろ姿に声を掛ける。
近く戻ると知らせてはいたから、驚きはしないだろうけれど。
そうして、薄紫色の幼馴染みは振り向いた。
ぱちりと目を瞬かせ、ほんの少しだけ口の端を上げる。
「久しぶりだな、ガスパル」
穏やかな声に何も返せなかった。
黒いロングコート。化粧をしているのか艷やかな唇。ヒールの高いロングブーツ。エンブリオの露出した太腿。育った気がする胸元。曝け出された白い肌!
――……は?
いや、えー、と? 何だそれ。見たことないんだがそんな格好。
え、だって任務の時は普通に鎧も着けてたし普段着も露出はそんなに多くないっつーか、別にそういう趣味とかなかったような。なかったよな!?
きょうか、教官ってそういう格好義務付けられてる!? なワケあるか!!
「
……ガスパル?」
一人ツッコミに忙しい脳内は何も言葉を発せない。
訝しげにリゼットが近付いて来て、おい待て何、マジで何で、その格好で教鞭執ってるのお前!?
かくて混乱を極めた結果。
ぺたり、と。
すぐ傍まで来たリゼットの腹に手をやった。やってしまった。
「
……腹冷えねえの、それ」
これじゃない。
久しぶりの幼馴染みに掛ける第一声、確実に、これ、違う。
リゼットは腹に貼り付いた手に視線を落とし、俺に視線を戻し。
意外と冷えてねえな、腹筋割れてるもんな、なんて現実逃避をする俺に、リゼットは低い、それはもう低ーい声で紡ぐ。
「
……言いたいことはそれだけか」
「
…………すんませんでした」
言い終わるや否や、手が捻り上げられ胸倉を掴まれ
――次の瞬間には思い切り地面に投げ飛ばされていた。
ひっくり返って見上げた空は青く爽やかに晴れ渡っている。こちらを見下ろすリゼットの目は心底呆れて冷たくて、マイシュの雪雲のようで。
――何だか無性に、笑えてしまったのだった。
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