冬灯夜
2023-06-29 11:00:05
1275文字
Public ルミナリア
 

らしいこと

ルミナリア エドリディ
・アムル天将領での一時
・王子様らしいことって?

「何ていうか、凄いわよね」
 長閑な湖の畔で、焚火にあたりながら呆れたようにリディが呟いた。
 アムル天将領には湖を始めとして水辺が多い。緑都イザミルに向かう途中、飛び石にはしゃいだアナマリアが派手に落水し、「お嬢様ー!」と叫びながらシャルルが続いた。二つの水飛沫でリディはずぶ濡れになり、波々斬ノ国での惨状が記憶に新しいラウルとエドは、顔色を変えて飛び込んだ。残されたリディは荷物の無事を確認し、ため息を吐きながら火の用意をすることにしたのだった。
「まあ、よくあそこまではしゃげるもんだとは思うが」
 エドワールの視線の先には、ここまで濡れたのだからと全力で水遊びをしているアナマリアとシャルル、巻き込まれたラウルがいる。最初に濡れた服は干してあるが、今の服はいつ乾かすつもりなのか。
「それもあるけど。そうじゃなくて、たった五人の中に、お姫様と王子様が二人もいるのって」
 確かに随分な確率だが、今更どうしたというのだろうか。
 それに。
 リディに視線を向けて、少し躊躇う。
……リディもお嬢様だろ」
「そういえばそうね」
 迷いつつも口にした言葉に、リディは涼しげに笑う。軽口に出来ている、ということにエドワールはそっと胸を撫で下ろした。
「まあ、皆あんなだからそんな感じしないけど。でもたまには王子様らしいことしてくれてもいいのよ、エド?」
 パタラに乗ったりダンスしたり、と続けるリディは、明らかにからかいの姿勢だ。ため息を吐き――ふと、悪戯心が芽生える。芽生えたことに戸惑いながらも、エドワールはそれに逆らわず、リディの前で膝をついた。
「エド?」
 訝しげな声には答えず、リディの手を取る。
「リディ嬢におかれましては、何卒御身を大切に。この地は穏やかで温暖といえど、風邪でもお召しとあらば、私の心は千々に乱れましょう」
 まだ冷えてる。風邪を引くな。の意を長々と紡ぎ、指先に一瞬だけ唇を押し付けた。
 さて、いかにも王子らしいことをしてみたが、と顔を上げると、リディは目を見開いて固まっている。やがてふるふると震え始めた。
「リディ? 寒いのか、」
 薪を足そうと立ち上がった所で、リディも立ち上がった。ウサギをその手に掴んで。
「アクティベート!!」
「は!?」
 何を、と問う間もなく、勢いよく振り回されたウサギを咄嗟に避けて――エドワールは水場へ落下した。アナマリアの歓声と、シャルルの罵声と、ラウルの悲鳴。
「リディ、っおい、水を掛けるな!!」
「エドも参加するのではありませんの!?」
「お嬢様に水飛沫を浴びせるなど言語道断!」
「ちょっシャルル、お兄さん踏んで、待って溺れっ」
 喧騒の中、水が飛び交い、視界も音も揺れる。
 だから、エドワールは知らない。
 後ろを向いてウサギを抱き締めたリディの顔も手も、しっかりと熱を持っていることを。




……それ、どっちかって言うとさ、女の子を口説いてる野郎じゃない? 口調は貴人だけど」
 とラウルに言われ、いらん影響を受けた、と気付くのも、もう少し後の話。