「ラウル、今日は女の子に声をかけに行きませんの?」
あまりにも普通の声で問われたラウルは、危うく飲みかけのコーヒーを吹く所だった。かわりにむせた。
「まあ、大丈夫ですの?」
ぽんぽんとアナマリアがラウルの背中を叩く。
「ありがと
……いや、急に何?」
「だってラウル、普段は宿に泊まると一人でフラフラ消えていくではありませんか。『ナンパでもしてるんでしょう、けがらわしい』とシャルルが」
「毒舌ぅ
……」
風評被害である。背中を落とすが、反論は一旦飲み込んだ。
「それで、行きませんの?」
「行かないよ
……行って欲しいの?」
まあ、どっちでもいい、みたいな答えだろうなと思いつつ、訊くだけ訊いてみた。アナマリアはパチクリと目を瞬かせる。
「いいえ?」
「へ」
ほとんど即答と言ってもいい速度に、ラウルの方が目を丸くする。ずい、とアナマリアは顔を近づける。澄んだ泉のような瞳が真っ直ぐラウルを映す。ラウルは動けなかった。迫り来るその瞳から目を逸らすことも出来ず、ただ見つめて
――まぶたが落ちて。
「
――熱はありませんわね」
アナマリアのひたいがくっついた。
「ね、熱?」
「はい。女の子に声をかけに行かないということは具合が悪いのではないかと思いましたの。大丈夫ならよかったですわ!」
身を離したアナマリアは、ぱっと明るく笑った。
「おやすみなさい、ラウル。具合が悪くなくても夜更しはいけませんわよ? コーヒーは飲み過ぎたら眠れないのでしょう?」
「そっちこそ久しぶりの宿に浮かれて夜更しする気でしょ」
「そっそそそそんなことありませんですわ!?」
大変分かりやすいお姫様に苦笑する。
「おやすみ、アナマリアちゃん」
女子部屋に帰っていくアナマリアを見送り、ラウルはため息を吐いた。
何故飲みにも行かず、ノンアルコールなぞ飲んでいるのか。
その
理由なんて、気付いては
――気付いてくれてはいないんだろうな、と。
けれどぬるくなったコーヒーを飲み干したラウルだって気付いていない。
『いいえ?』とアナマリアが答えたその
理由を。
画像版
亜挟さんにリクエスト頂いてその場で書いたやつ。
「ラウルがタジタジしてる方が好み」 私も好きです。ありがとうございました!!
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