「美しいな」
輝くような紅葉を前に、メルクリアは呟く。
独り言なのか話しかけられたのか。声が静かだったので、リヒターはひとまず返事は控えることにした。
それから暫く、メルクリアはじっと紅葉の森を眺めていた。
「紅葉というのは、実は色とりどりなんじゃの」
すぐ傍にあった葉を一枚、拾って再びメルクリアは言った。
「これは完全に赤くなっておる。あちらの木は疎らに緑や黄色もある。その隣も赤いが、真紅というべきか、同じ赤でも違う色じゃのう」
「そうだな。同じ場所に生えていても、種類が違えば
……いや、同じ種類でも差があるのは面白いな」
「まこと、美しい」
メルクリアは感嘆の息を吐く。そして、摘まんだ紅葉を見据え、小さな声が零れた。
「兄上様と、あと何度見られるじゃろうか」
数えられる程だろう、とリヒターは口にはしない。少女自身がそれをよく分かっているからだ。
「行ける限り共に行けばいい。行けないのなら、お前が持って帰ればいい」
「そうじゃの。
……けれどな、リヒター。そうすると、わらわの思い出作りの為に兄上様を連れ出しているようで
……そのように考えてしまうことも、わらわは
……」
「
……お前の兄が、お前との思い出が欲しくない、と思うのか」
メルクリアは、俯いた。その表情は見えない。
「
……いいや。思わない」
やがて呟いたその声は、ほんの少し震えていた。紅葉を摘まんだ手をもう片手で強く握る。
「すまぬ。ありがとう。いつもおぬしには、諭されてばかりじゃの」
「何度でも言えばいい。お前が一人で潰れてしまえば、お前の兄はより悲しむだろうからな」
「そうじゃな。わらわはずっと健康でおるのじゃ。リヒターもじゃぞ?」
「
……気を付けよう」
返答に間があったリヒターに、メルクリアは小さく笑った。また紅葉を眺め、地面を眺め、空を眺め。くるり、と隣のリヒターに向き直る。
「リヒターは、わらわより長く生きるのじゃろう?」
「元の世界と同じならそうだろうな」
ここに来て初めてこの少女と目が合った。ふと、リヒターはそう気付いた。
「リヒターは
……わらわとの思い出は、欲しいか?」
一瞬、答えに詰まる。だが揺れるメルクリアの瞳を見てしまえば、答えないでいるのは出来なかった。
「いらない、とは思わない」
メルクリアは破顔した。
嬉しそうに、寂しそうに、けれどやはり喜ばしく。
「それはよかった」
風が吹く。秋から冬に向かう、冷えた風だ。
くしゅん、と小さな音がする。
「早速健康を害しかけているな。ちゃんと上着のボタンを留めろ」
「分かっておる!」
「そろそろ戻るぞ」
促したリヒターに、メルクリアは大人しく頷いた。ふと、メルクリアが空を見上げた。指を高く示す。
「雲も秋じゃのう。夏の空はもっと、もこもことしておった。もこもこが欲しいのはこれからの季節じゃというのに」
「夏の雲は雨を含んでいるからな」
「そういうことを聞いておるのではないのに、まったく」
呆れた笑い声にリヒターは無言で眉を顰める。
「ああ、ほら。雲が動いておる。季節でも変わるのに、こんな一瞬の間にも変わっていく。
……また夏が来ても、秋が来ても、同じ空に戻ることはないのじゃろうな」
空を見上げるメルクリアの横顔に、出会った時より大人びた表情が見える。
これからも変わっていく、戻らない時を歩む少女に、変わらぬ時を過ごすだろう自分のことを考える。時は変わらずとも、戻らずとも、人は変わる。そんなことを考える自分もまた、変わってはいるのだろうな、とリヒターは隣を歩く少女を横目で眺めながら、思った。
ワードパレット
10.アーティフィー【雲】【戻る】【紅葉】
千晶さんより【リヒメル】
画像版
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