「校内で食べ歩くな」
「よ、リゼット。と、ブレイズ諸君」
プレッツェルを食みながら歩いていたガスパルに、開口一番リゼットは注意を飛ばす。全く悪びれることなくガスパルはプレッツェルを砕いて飲み込んだ。
授業終わりのリゼットの後ろにはレオ、セリア、ミシェル、イェルシィ。他は各自、任務と訓練で外していた。
「ガスパっちもあのゲーム?」
日付に因んだイェルシィの疑問に、ガスパルは大袈裟な嘆きを返す。
「相手してくれる女の子いねえんだよなあ、今ん所」
「当たり前だ不審者」
「きょーかんは?」
「やると思うか?」
「「「思いません」」」
「教育が行き届いてるぅ
……」
息のあった否定にガスパルは項垂れる。が、次の瞬間には気を取り直してプレッツェルの袋を振ってみせた。
「キミらもやってんの、アレ」
「あたしはいつもトトとしてるしー、さっきレオレオとミーちゃんもやったね!」
「なのでもう結構です」
「同じく」
レオとミシェルが揃って首を振る。
……少々ミシェルの圧が強かったのは全員が流すことにした。それを聞いたガスパルは笑ってプレッツェルを咥える。
「へー。じゃ、セリアくん、やる?」
「え」
お断りします、とセリアが言うよりも早く。リゼットがその先を咥えていた。
え、嘘?
とその場の誰もが思った瞬間
――リゼットの首の動きによって、プレッツェルは見事に真っ二つになっていた。
「うわ、チョコの部分大半もっていきやがった、こいつ」
「パン好きだろう、お前」
「好きだけどこれパン生地じゃなくね?
……ってそうじゃなくてさぁ」
目を丸くしたり拍手したりしている四人にリゼットは向き直る。
「節度を持ってする分には楽しい遊びだろうが、こういう便乗する輩も多い。一時のノリに流されないように気を付けろ」
「はーい」「うっす」「勿論です」「はい」
「ほーんと教育が行き届いてることで
……」
ため息を吐くガスパルを無視してリゼットは各々の次の授業や任務を促した。そうして生徒達が去れば、残るのはさくさくとプレッツェルを砕く音だけだ。
「まったく、生徒に手を出すなと言うのに」
「出してないじゃん。多分普通に断られたし」
「だろうな。アルヴィエはそうした判断は出来る」
ならあれは過保護なんじゃねえの、と言ったら確実に怒られそうな言葉をガスパルは呑み込んだ。代わりにプレッツェルをもう一本、咥えて差し出してみる。
「何だこれは」
「鬼教官ともあろう者が不戦敗でいいんですかねえ?」
器用に喋りつつ挑発の笑みを浮かべるガスパルを、リゼットは半眼に見つめた。
「馬鹿が」
呟いて、リゼットはその端を咥える。おや乗ってきたか、とガスパルが一口進めたのと同時、再びリゼットはプレッツェルをへし折った。
「えー、おま」
抗議しようとしたガスパルの肩にリゼットは手を掛け
――プレッツェルの先端でガスパルの咥えた先端を正確に押し込む。思わず噛み砕いて飲み込んだ。
「お前の方が先に食い終わったからお前の負けだな」
「何その謎ルール」
「これ以上、生徒達にちょっかいをかけるなよ」
リゼットは口に残ったプレッツェルを全て食べ終えると、踵を返して去っていった。
「
……言いたいことだけ一方的に言ってきやがって、あいつ」
ガスパルはその背を見送って、小さくため息を零す。
この場に残るのは、プレッツェルの甘い香りだけ。
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