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冬灯夜
2022-09-16 16:35:05
3845文字
Public
ルミナリア
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笑顔の人
ルミナリア ロランス隊
#ルミナリア版ドロライ企画【アメリー】【笑顔】
ユーゴが狼将補になった辺りの時間軸
アメリー・ロランスという人は、とても明るい人だ。
よく転んだり涙目になったりするが、次には笑顔を見せて前を向く。
まるで花が咲くような笑顔は、眩しくかけがえのないものだ。亡命してから、彼女の笑顔は本当に得難いものだった。
「アメリー隊長!」
だから、狼将補の任務から戻って来てアメリー隊長を見つけた時、あの笑顔で迎えてくれると疑ってもいなかった。
「あ、ユーゴくん
……
」
なのに僕を目に留めたアメリー隊長は精彩を欠いた顔と声で。
狼将補として隊を離れることが多くなってしまったが、僕を見つけた時には必ず笑顔で手を振ってくれたというのに。
「た、隊長? 何かあったんですか?」
「え、あ
……
ううん、何でもないよ!」
明らかに何でもなくない。
笑顔こそ見せてくれたが、心配を掛けないようにという笑顔だ。時折セリアが見せていたそれを連想する。
「あの、」
「ユーゴくん、ちゃんとご飯食べてる? バランスよく食べないとだめだよ」
「は、はい。それはちゃんと」
「そっか、よかった。えと、ごめんねユーゴくん、ちょっと用事があるからまたね!」
「ちょ、アメリー隊長!」
何があったのか。何か出来ることはないか。
そう問おうとしたのに、アメリー隊長は眉を下げて申し訳なさそうにしながら、その場を去ってしまった。
「
……
僕には話せない、ってことなのかな」
彼女にとって僕は頼れる人間ではないということなのか。
逃げるような去り方をされて、僕は肩を落とした。
「ファルク!」
「おう、何だよユーゴ」
訓練場で見つけたファルクに呼びかけると、彼はいつもの通りに返してきた。
それにほっとする自分がいる。僕をユーゴと呼び、当たり前に隊の人間として接してくれる二人がいることで、僕は今も笑えている。
それだけに、先程のアメリー隊長の態度はやはり堪えた。
「ファルク、アメリー隊長は何かあったのかい?」
「アメリー? ここ二、三日は別行動だったから知らねえよ」
「任務で?」
「
……
始末書出して清掃任務食らってた」
「また何かやらかしたんだね
……
」
「るっせえ、売られた喧嘩だ」
ファルクは傍若無人だし問題行動が多いが、正式に下された任務や罰則はきっちりこなす辺り、根の真面目さが見え隠れする。強さが全てと言いながら、正当な手段で上り詰めようとしている。そうして笑った奴を笑い返してやるのだと。
「じゃあ、ファルクもアメリー隊長が元気のない理由は知らないんだね」
「ああ? あいつが?」
つい先程あった出来事を話す。
ファルクは呆れたように息を吐いた。
「んなもん、どうせ大したことじゃねえよ」
「いや、そうは見えなくて」
「大体、話さなかったんだろ。なら放っとけよ。へっぽこだってへっぽこなりに思うことくらいあんだろ」
アメリー隊長の意思を尊重せよ、とのファルクの言い分は分かる。彼女は僕よりも大人だ。狼将補というある意味で浮いた役職ではなく、一隊の隊長として地に足の着いた責任と彼女個人の信念がある。そんな彼女が何も言わなかったのならば。
だけど。
「僕は
……
出来るなら、アメリー隊長の力になりたいんだ。嬉しいことがあったなら僕も嬉しいし、元気がなければ心配になる」
居場所などないと、一人で強くなるのだと覚悟していたのに、息をする場所になってくれた人達だから。
じっと見つめていると、ファルクはがりがりと頭を掻いた。
「
……
あーーったく! じゃあもっかい訊きゃいいだろうがよ!」
「ファルクも来てくれるかい? 任務、というか罰則完了の報告もまだなんだろう?」
「どうせ頷くまで諦めねえんだろテメエはよ。ったく、めんどくせえ」
何だかんだと付き合ってくれるファルクは、流石アメリー隊長の幼馴染みだけあって面倒見がいい。僕には話せないこともファルクになら、ということもあるし。
さっさと終わらせようとしてか、率先して歩き出すファルクの背中に声を掛ける。
「あ、勿論ファルクも同じだよ。元気でいて欲しいし困ったことがあれば助けるからね」
「いらねえよ!!」
食い気味に返って来た声に、僕は笑った。
結局アメリー隊長を探す前に、元気づける為に何か用意しようということになり(ファルクは話聞くだけでいいだろと言っていた)、ああでもないこうでもないと言いつつ、城下の菓子屋でメレンゲ菓子を用意した。
「ファルクは花でも用意するかい?」
「何でだよ。付き合ってやってるだけで感謝しろや」
「お菓子と来たらやっぱり花があるとバランスがいいからね」
「聞けよ」
軽口を重ねながらアメリー隊長を探す。再びアメリー隊長を見つけたのはやはりと言うべきか、隊室だった。
「あれ、二人揃ってどうしたの? クロードくんはお掃除の方
……
」
「終わった」
「そっか、ご苦労様! 報告しておくね」
アメリー隊長は書類の山から一つを抜き出して、さらさらと書きつけた。
その表情は穏やかだけど、やはりいつものような笑顔はないし元気もない、ように見えた。思わず手を握ると、菓子を入れた紙袋がくしゃりと音を立てる。
「った!」
ふくらはぎにファルクの蹴りが入った。さっさとやれと。うん、そうだね。
「アメリー隊長」
「うん? どうしたの、ユーゴくん」
「何か困ったことがあるんですか?」
「え
……
」
アメリー隊長は困惑して僕を見る。
「さっき、隊長の元気がないように見えて。もし何か困っているなら、悲しいことがあったなら、力になりたいんです。僕に話せないことならファルクに」
「ま、ま、待ってユーゴくん!」
気付くと机越しにアメリー隊長に大分近付いていた。
いけない。アメリー隊長とファルクには、どうもレオやセリアに対する距離感になってしまう時がある。
「え、えっとね
……
その
……
」
アメリー隊長は言葉を濁しながら目を泳がせる。やはり何か困ったことがあるのか。
どうか話して欲しい、と隊長をじっと見つめると、やがて意を決したように真っ直ぐにこちらを見た。
「じ、実は
……
」
「はい」
再び手に力が入った。アメリー隊長は真剣な顔で。
「お気に入りのお店のコックさんが辞めちゃったの!」
「お気に入りのお店のコックさん、
……
え?」
思わず復唱して首を傾げた。
沈黙。
「くっだらね」
「下らなくないよぉ! もうすっごい絶品のオムレツ作ってくれる人なんだから!」
ぼそりと呟いたファルクに、アメリー隊長は反論する。
何でも自分へのご褒美に訪れる店として大事にしていたそうで、昨日の夜も楽しみにしていたのに辞めたと教えられて、今の今まで意気消沈していたらしい。
ついでに別れ際に「用事」と言っていたのは、普通にこの書類の山のことだった。
「じゃあ、何か大変なことがあったわけでは
……
いえ、お気に入りのコックさんがいなくなったのは大変ショックだと思いますが」
ほっと息を吐く。
「ほれみろ」
騒ぎすぎだと言わんばかりのファルクの目。
「やっぱり幼馴染みなだけあって隊長のことよく分かるんだね、ファルク」
「えへへ、お姉さんだからね」
「違えよ! 二人揃って気色悪い言い方すんな!」
ファルクの蹴りがもう一発入りそうになって、寸での所で避ける。
くしゃりと手の中で音がして、そういえば菓子を持って来ていたのを忘れていた。
「あー
……
あの、隊長。全然見当違いだったんですが、これ、よかったら
……
」
「なになに?
……
あっ、メレンゲのお菓子だぁ! ありがとう、ユーゴくん!」
アメリー隊長は中身を見て、満面の笑みを浮かべる。それは憂いなどない、純粋な喜びと感謝の笑顔だった。
「よし、休憩しよう。二人とも、一緒に食べよう!」
手早く茶の準備を始めた隊長に倣い、僕も机の上を片付ける。ファルクは腹に溜まんねー、なんて言っていたけど、去りもせずにちゃんと最後の一つまで平らげていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、じゃあまたね、と扉の前まで来てくれたアメリー隊長に向き合う。
「もし今後、困ったことがあったら
……
いえ、なくても。僕はやっぱり、アメリー隊長の力になりたいと思います。隊長は僕の隊長ですから。ファルクもそうだよね?」
「ケッ」
態度は悪いが、否定はしなかったのでとりあえずよしとしよう。
「
……
うん! ありがとう、ユーゴくん、クロードくん。私もね、二人の力になるよ。私はロランス隊の隊長で、お姉さんだから!」
明るく笑ったアメリー隊長に暖かい気持ちになりながら、僕とファルクは隊室を辞した。
ファルクとも別れて自室へ向かう。
彼女の笑顔に安心すると同時に、大切なものが増えてしまっていることに、少しだけ重いものも感じていた。
レオとセリアのことさえ守れるなら。二人が幸せに生きていってくれるなら、自分がどうなろうと構わないと思って帝国に来た。なのにそこでもまた、大切なものが増えてしまう。
いつかまた、選ばなければならない時が来たら。
「
……
それでも」
例えこの手に残らずとも、どこかで彼らが、彼女らが生きていてくれるならそれでいい。この手はその為にあるのだと、もう何も持っていない手を握りしめた。
後日。
「あのコックさん、独立して自分のお店持ったんだって!!」
と眩い笑顔のアメリー隊長に報告されたのは、余談である。
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