冬灯夜
2022-09-03 20:56:34
2550文字
Public ルミナリア
 

貴女の邪魔

ルミナリア セリ+ラプ+バス
・ラプラスの振る舞いに対する拡大解釈
・未来の話


 彼女と対峙するのはもう何度目だろう。
 最初は波々斬ノ国で。次は連邦領になった小さな村で。偶然に、或いは作戦行動中に。幾度も見えては戦った。その内に、段々と“見えて”きたことがある。
 ――そうして今、私は自分の意思で彼女と対峙している。


……あら、セリアちゃん。こんな所まで来ちゃうなんてぇ、いけない子」
 いつものように人を食ったような、煙に巻く言い方の彼女――ラプラス。けれど言葉を紡ぐその前、嫌そうに眉をしかめたのをこの眼は見逃しはしなかった。
「ラプラスさん」
「今ね、アタシ、忙しいの。遊んであげられなくてごめんなさいねぇ?」
 ラプラスはひらりと手を振る。構わず一歩、踏み出した。
「セリアちゃあん。分かるでしょ、見逃してあげる、って言ってるのよ?」
「私にも目的があるので」
 更にもう一歩。
 ラプラスは胡乱な目を向ける。
 大きな遺跡だった。地下に広がる遺跡と罠を踏破していけば、唐突に視界が開けた。広場の天井は高く、一部が壊れて外の光が差し込んでいる。一番奥に祀られた宝玉が鎮座しており、ラプラスはまさにその面前にいた。
「聞き分けのない子ねぇ。……撃っちゃうわよ」
「撃ってみたらいいでしょう」
 ゆらりと弓を構えたラプラスに、同じく弓を構える。
 私とラプラスの戦い方は少し似ている。弓を使うけれど、中心となるのは物理的な矢ではなく、追尾するマナの矢。私が一撃に重きを置いているのに対して、ラプラスは複数の矢を多段ヒットさせる。けれど、相殺は可能だ。私の矢は貫通する。
 ――マナが赤紫に収束する。
 私の手元は青く。
 同時に放たれた矢は私達の中間地点でぶつかり、一瞬混じり合って、弾けた。マナの光がある間にもう一本、天井へ向かって放つ。
 光が収まった時、ラプラスは宝玉の前から動いていなかった。
 本気で戦う気なら近接でも何でも仕掛ければいいのに、そうしなかったのはやはりあの宝玉が鍵らしい。
「それ、よほど大事なんですね」
「アナタには関係ないことよ」
「ありますよ」
――ああ、もう、殺しちゃおうかしら」
 不意に、温度の消えた声でラプラスは言った。
 思わず笑ってしまう。
……何よ」
 今更そんなもので怯むなら、ここまで来てはいないのだ。
「殺せないでしょう?」
「たまたま。これまでそうだったからって、今もそうだと思ってるなら、甘いを通り越して学習能力ないの?」
 一歩。
 弓を持ったラプラスの手が一瞬揺れた。ラプラスの目を見据えて言い放つ。
「貴女、自分に悪意を持ってない人は、殺せないんでしょう」
 ――ラプラスから表情が抜け落ちた。
 直後、彼女の顔が歪む。吊り上がった目は、これまでにない程の激情を込めて私を睨みつけていた。
「ふざけたことを――!」
「だから」
 弓を構えて矢を作る。
 ラプラスは咄嗟に弓を構え直し――頭上からずどん、と落ちてきたものにその動きを絡めとられた。
「な、」
「だからその人も、殺せないんですよね?」
 宝玉とラプラスの間に落ちて、否、飛び込んできたその人は、片腕は首に回し、もう片方は弓を持つ手をしっかり押さえこんでいた。
「ナイスタイミングです」
「よい気の引き方だった、セリア・アルヴィエ」
 黒狼将。黒髪に真っ黒な鎧を身に着けた、その名の通りの人――バスチアン・フォルジュ。
 ラプラスは唖然と彼に視線を向けていた。
「な……アナタ達が、なんで」
「む」
 ひょい、とバスチアンがラプラスを抱える。私の側に飛びのいた直後、そこそこ大きめの石、というか天井の欠片がその場に落下した。
「あっちゃあ……壊しすぎちゃったかなー」
「元より壊れかけだ、問題あるまい」
 最早ラプラスは、はくはくと口を開け閉めしながら私とバスチアンに交互に目線をやるしかない。
 ラプラスはバスチアンが抱えたまま、ということは、とりあえず目標の一つは確保出来たので。
「ええと、戻りましょうか」
「そうだな。また崩れないとも限らん」
――下ろしなさいよ! というか説明しなさいよアナタ達!!」
 ぎゃん、とラプラスが吠えた。
「さっき言った通りですけど」
「だから何でアナタ達がいつの間に、こんな」
「貴女は、自分に悪意を持たない者を殺せない。だから今、バスチアンさんと私を巻き込んで自分の命を犠牲にも出来ない」
 この遺跡――神殿で、宝玉と自分の命を使って、ラプラスはしようとしていたことがある。それを私達は止めたかったし、恐らく成功した。
「貴女は、優しい」
 バスチアンが変わらず淡々と告げる。
「そういう戯言はいらないのよ」
「ラプラスさんて、悪辣で、人を甚振って、笑い者にしますよね」
「そうよ、それの何が」
「貴女は好きなように振る舞う。貴女の命を惜しむ者が現れぬように」
 ラプラスは黙り込む。唇を引き結んで、微かに震えさせて。
 それが答えそのものだ。
 自らの目的の邪魔をされないように。邪魔をする者がいても、それごと巻き込んで目的を果たせるように。
 一番の計算外は間違いなく彼女を抱き上げているバスチアンで、次にこの眼を持つ私に絡んでしまったことと、その私達が接触を持ったということ。
 ラプラスを抱き上げたまま、バスチアンは歩き出す。私もそれについていく。
「ちょ、お、下ろしなさいってば!」
「逃げないのであれば」
「獣は私が先読みしておくので、そのままでもいいですよ」
「~~~~っ!」
 ラプラスは怒っているのか呆れているのか悲しんでいるのか、もうさっぱり分からない表情をしている。
「あ、あと私達以外にも貴女の目的を邪魔する人、いるので。私の幼馴染みとか、その隊長さん達とか」
…………ああ、もうっ!!」
 顔を覆って叫んだラプラスに、バスチアンが小さく微笑んだ。
 ……彼のことはよく知らないながら、もしかしてこれってとても、珍しい?
 それを向けられた人は全く見えていないけど。
 にまにましながら歩いていると、「なに笑ってるのよ!」と声が飛んでくる。けれど先に見えた獣を射るのに忙しかったので、知らないふりをした。









「殺せない」は制約とか誓約のイメージで