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冬灯夜
2022-06-13 22:29:01
2802文字
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ルミナリア
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見届ける者と継ぐ者
ルミナリア セリア+ラプラス
#ルミナリア版ドロライ企画【セリア】【ep.3観測者】
クロスロードep1のch4の二人
海都オノコロ。愛国だとかいうお馬鹿さんが起こした騒ぎの中、洞窟の前でアウグストと
ブレイズの二人
カレシ候補
と合流した。その時から感じていたのは、隠された視線。気配はないけれど、どこから見られている。
アウグストとブレイズの二人が洞窟に入ると、その視線も消えた。
「ラプラスさん、私たちも行きましょう」
あの感じは帝国のものではないだろう。そもそもそんな指示は皇帝もラプラスも、恐らくアウグストもしていない。
となると、狙いはあの見覚えのある坊や
……
かしら。
「
……
ラプラスさん?」
隣でセリアが首を傾げている。ああ、つい思索してしまった。
「どうかしたんですか?」
「何でもないわ」
行きましょ、と声を掛けて街の方へ歩き始める。隣に付いて歩くセリアは、まるで雛鳥のよう。まあでも自ら一日デート権をあげたのだから、たまには壊さない遊びもいいだろう。
「あの、アルベルトさんのことだったら大丈夫ですよ」
「え、何が?」
唐突に出てきたアルベルト
――
アウグストの話に思わず素で聞き返す。
「私の幼馴染み、強いので! アルベルトさんもお強いってことでしたけど、ちゃんと二人がアルベルトさんのことお守りするので、心配しなくて大丈夫ですよ」
ぐっと手を握って、実に爽やかな笑顔。無垢な信頼と、でもほんの少し奥に隠れている自虐
……
いえ、何かの負い目?
「あはっ。セリアちゃんてば、面白いこと言うのねぇ」
「え? 今のが
……
?」
アウグストがどうにかなる、なんて的外れな心配はこれっぽっちもしていない。
いま楽しんでいるのは、この善意の少女と、奥に抱える不穏の種と、全く意識していないらしいその瞳と
――
。
もう一度、周囲の気配を確認する。洞窟の入口で微かに纏わりついていたあの視線は、やはりない。
「ねぇ、セリアちゃん」
「はい、何ですか?」
琥珀色の左目に青く染まった右目。エンブリオを利用したマナ感知能力かと思えば、ただ『見えている』だけだと言う。常人や軍人という括りに関係なく、決して見えない位置を正確に捉え、撃ち抜いた。
「もう少し、『見られてる』って意識してみたらどうかしら?」
ブレイズだと明かすのは、連邦ではそうすべき事柄だろう。けれどここは中立の波々斬ノ国で、目の前にいるのは誰とも知れぬ『商人』だ。
特別と感じていないから簡単に明かすのだろう、その目のことを。明かすという意識すらなく、ただの事実として。
「え。
……
えっと、一応制服なんですけど、身だしなみとかやっぱこう
……
何かダメでした!?」
「別にぃ?」
あわあわとセリアは裾やら髪やらを気にし始める。
悪くはない。お洒落は勝手にしたらいい。
恐らく他の誰も気付いていない。今はまだ。でなければ、あの妙な視線が消えた理由がない。
エンブリオの瞳と同じ色をしたピアスに指を掛ける。
「もう少し自惚れて、『見られてる』って知った方がいいかもね? っていうだけよ」
ピアスを揺らしてにんまりと笑ってみせる。
いつか気付かれる時が来る。その時、この少女はどんな風になるのだろうか。
悪意が似つかわしくない少女が、悪意でさえない義務のようなシステムに巻き込まれた時。何かを大切に想って、自らを正しく計れず引け目に思うその歪さ。
今ここで単純に壊してしまうより、それを待つ方が楽しくなりそうだ。
セリアは大量の疑問符を浮かべている。分からないだろう。まだ、彼女は『そう』ではないから。
……
ああ。でもやはり、ここでもう少し壊してしまおうか。理由は幾らでもつけられる。だって彼女はブレイズで、自分は赤狼将なのだから。
ピアスから指を離してエンブリオの右目に近付ける。頬に触れて、ゆっくりと顔を寄せていく。彼女は困惑したまま、けれどそれを拒まない。
右目は左目ほど揺れはしない。感情を映しにくく、ただ照準を合わせて青く
緑
あお
く凪いでいる。
「
……
ね」
セリアちゃん、と囁いたその時。
「え、と。
……
はい。ありがとうございます、ラプラスさん」
何故だか照れたように、セリアは笑った。
「うう、やっぱり美人のどアップは心臓に悪い
……
」
気にする所そこ?
何言ってんのかしら、というのが完全に表情に出た。弁明するようにセリアはまたあわあわし始める。
「いえ、あの
……
よく分からないなーというのが正直な所
……
なんですけど。でも、私のこと心配してくれてるんだなって思って。だから、ありがとうございます」
……
。
あーあ。
心配、と来た。
そんなわけはないのに、どこまで人の好い解釈をするのだろうか。
「ま、いいわぁ」
手を離すと、セリアはほっとしたように息を吐いた。そしてまた歩き出す。
さて、そろそろオノコロの街で、ここまで来れば宮殿はすぐだ。
「セリアちゃんはお仲間がいるんだったかしら?」
「はい、私たちの教官が
……
ラプラスさんもお仲間の方がいらっしゃるんですよね」
ブレイズの教官。中立国とはいえ外つ国まで来るくらいだ、非戦闘員ということはないだろう。ブレイズを伴って前線に出るタイプであれば、どこかで顔を合わせたこともあるかもしれない。面倒なことになりそうだ。
「アタシ、そっちの飲食街の方を確かめるから、ここでお別れしましょ」
「あ、はい! まだ残党がいるかもですし、お気をつけて」
「じゃね、セリアちゃん」
礼儀正しく頭を下げるセリアに一つ手を振って、背を向ける。
「ラプラスさん!」
だというのにすぐに呼び止められて、仕方なく振り返った。
「まだやっぱり分からないですけど
……
さっきの、覚えておきます。ありがとうございました。
今度はご飯やスイーツ、ご一緒しましょう! ルディロームならおいしいお店、紹介します」
屈託なくセリアは笑う。
白犬じゃあるまいし、もしルディロームに行くとなれば、それは戦火を伴ってのことだろう。
「そうね。アタシ好みのスイーツ、楽しみにしてるわぁ」
けれど笑って、そう答える。
また! という声には振り返らず、もう一度手を振ってだけ返した。
この状況下、飲食街にいつまでもアレクサンドラがいるとは思えないが、痕跡くらいはあるだろう。まあ、セリアと例の教官さえやり過ごせればいいのだから、本当に探す必要もない。
「次は戦場ね、セリアちゃん」
独り言ちる。
その時にはきっと、あのオッドアイでこちらを睨みつけてくることだろう。
こちらは何も変わらず、先ほどのように微笑んであげよう。そうして幾度か邂逅を経た頃には、己の瞳の正体も知ることになって、あの視線の主にも気付かれているのだろう。
……
ああ、でも。
やはりどうしてか、悪意で以ってこちらを見ることはないのだろう、と。そう思えて仕方ない自分が可笑しくて
――
馬鹿馬鹿しかった。
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