冬灯夜
2022-05-03 22:22:07
1849文字
Public TOV
 

染まる色は

TOV レイエス
・ED後
・久しぶりのダングレストで、思い出す人

……お?」
 久しぶりに戻ったダングレストは、何だか浮足立っているように見えた。
「レイヴンじゃねーか、久しぶりだな」
 天を射る矢の団員がこちらを見付けて近付いてくる。
「しっかしいいタイミングで帰ってきたな」
「え、何なに。妙に浮かれてる感じだけど」
「結婚式だよ、結婚式」
 思わず目を瞬かせる。
「ええー、誰よおっさんを差し置いて!」
「あいつらだよ、ほら――
 挙げられた名前は、確かに見知った顔だった。それぞれ違うギルドに所属していて、前々から間を取り持ったり交流を進めていた二人だが、なるほど。
「で、どこでやんの?」
「ここで」
「ん?」
 ここは街の入口だ。
 首を傾げると、天を射る矢の団員はにやりと笑った。
「ダングレスト全体でやってやろうぜ、ってこった」
 詳しく聞いた所によると、最初は中心の広場だけだったらしい。そこでお披露目のような形……だったのが、料理ギルドがじゃあうちが作る、写真ギルドも勿論出張る、どんどん参加ギルドが増えて、そうなると祭りだ祭りだとどこもかしこも盛り上がり、結果街全体で祝うことになったという。
「なーるほど。要するに祝いにかこつけて騒ぎたいわけね」
「そりゃそうだ。お前も好きだろ?」
「モチのロンよ」
 悪い笑顔を浮かべ合い、出し物をするというので見送って、広場へ向かう。近付くにつれて飾り付けが増え、料理の匂いがし、あれどこやった! などの声が聞こえる。
 ――大きな鐘の音がした。
 わっと沸いた広場に、足早に向かう。
 人混みの合間から、白い衣装に身を包んだ若い二人が見えた。もう少し見やすい所は、と隙間を探し、顔を出して。


 花が、空を舞った。


 色とりどりの花弁が夕焼けに染まり、目を捕らえて離さない。
「おめでとう!」
「おめでとー!!」
 見上げると、二階三階のベランダから複数の女たちが花を散らしていた。
 ある少女などは籠ごとぶちまけて叱られている。けれどそれさえも笑い声になり、ダングレストの街中が幸せな喧騒に包まれる。
「いいぞー、やれやれー!」
 無責任なヤジが飛び、そこに花の蕾が結構な勢いで突っ込んでゆく。今度は下の男が酒を掛けて、そうするともう収拾はつかない。
「おっとっと」
 飛んできた小さな酒瓶を捕り、屋根の下へと避難する。
「あーあ、やっぱこうなったかぁ」
 同じく避難していた、知った顔の若者がため息を吐いた。
「いいじゃないの、本人たち楽しそうだし」
 新婚夫婦は広場の真ん中で、いつ間にか始まった酒と肴と花を巡る戦いで大立ち回りを演じている。
 この何でもありで騒がしい、ごちゃごちゃした雰囲気がダングレストらしい。
「ま、確かに」
「で、おたくは行かないの? なくなるわよ」
「レイヴンこそ、ってちゃっかり持ってやがんな。しゃーねえ、いってくらあ!」
「いってら~」
 ひらひらと酒瓶ごと手を振って、喧騒に飛び込んでいく若者を送り出す。
 適当に箱を引っ張り出して椅子にした。
 おめでとうやら俺にも出会いをやら、何が何だかな騒ぎの中、己の目に残るのは空に撒かれた花だった。
 色とりどりの花が舞って、夕焼け空なものだからどれもが赤く――その中の薄紅色に染まった花弁に気を取られた。
 綺麗だと素直に思った。
 まるでハルルの花のようだと思った。
 ――エステリーゼに見せたいと、思った。
 きっと綺麗だと言ってくれるだろう。花が空を埋め尽くすが如く舞う様を、目を輝かせて見るだろう。新婚夫婦に心から祝いを言って、もしかしたら『素敵ですね』なんて言って。そしてこの喧騒には、目を丸くしながら笑ってくれるだろう。
 苦笑する。せざるを得ない。
……重症だよなあ、こりゃ」
 酒瓶の栓を開ける。軽く煽って、また飛んできた花を首を傾けて避ける。始まったばかりの祝宴はまだまだこれからだ。
 でも、そうだ。これが落ち着いた頃には、綺麗な花を探して拾ってみよう。
 白いのと薄紅色の。これが染まっていたんだと、エステリーゼに見せたら何て言ってくれるだろうか。
 ……ハルルのようで、嬢ちゃんのようだった、とは言わないけれど。
「おうこらぁ! 飲んでないヤツはいねえだろうなあ!!」
「ほい、次のベットはどっちに? すぐ締め切るぜ!」
 もはや何の宴か分からない掛け声と、止まない笑い声。すっかり出来上がった天を射る矢の団員に連れ出されながら、久しぶりの騒ぎの中に身を浸すことにした。