冬灯夜
2018-08-25 09:41:16
1317文字
Public TOL
 

TOL13周年

TOL ワルフェニ
空について


「空を見ることって、ありますか?」
 ふと、尋ねてみた。
 ハムサンドの入ったバスケットを受け取りながら、ワルターさんは眉をひそめる。
「何の話だ」
「なんとなくです。……すみません」
 眉を寄せたままのワルターさんに、つい謝罪の言葉が出る。
「謝る必要はない」
「は、はい。ありがとうございます」
 ……優しい人だなぁ、と思うのはこういう時だ。最初は冷たく見えて、メルネス様のことしか興味がない人だと思っていた。いや、興味がないのはその通りなのかもしれないけど。
「本当になんとなく、思っただけなので。気にしないでください」
 世間話にでもなるだろう、とか。そんなことを考えたわけですらなかったので、なんとなく以外の理由が思いつかない。
「お前は、あるのか」
 だがワルターさんは、話を繋いできてくれた。
「あ、ええ、はい。朝日が眩しいなーとか、今日も一日終わったなーとか。あ、洗濯物を干す時にいい天気だなーとか思って見たりします」
 青い空は気持ちがいい。雨空も、水の音が心地よい。
 この遺跡船で見る空は、広い。
 故郷での空は、記憶に残らないほどに、当たり前にそこにあった。
……そうか」
「はい」
 今日の空は、雲が少ない。日差しが多いと動くには大変だ。
 ワルターさんは手元のバスケットに視線を落とし、次いで私を見た。
「この後、時間はあるか」
「え?」
 咄嗟にこの後の予定に頭を巡らせる。薬草が乾いたら回収して欲しいと頼まれている。……きっとまだ乾いてないので大丈夫!
「あります」
「なら、来い」
「あ、ワルターさん!」
 くるりと身を翻して、ワルターさんは歩いていく。慌ててそれを追いかけた。
 草を踏んで進むワルターさんの後を、オートマタと一緒に進んでいく。隠れ里を裏から出て、さらにもう少し。大きな樹の下で、ワルターさんは止まった。
「行くぞ」
「行くって」
 どこに――と言うが早いか、ワルターさんはテルクェスをあたしと自分の周りに展開させる。
 そのまま宙に浮かび上がり、樹の枝葉を抜けて昇っていく。
 そして、一番高い所に着いた時。
……海」
 真っ先に見えたのは、波を荒ぶらせる海。
 それから、青い空。
 青い、青い、どこまでも青い。
「空を見るのは、嫌いじゃない」
 まるで、それは――
「メルフェス《輝ける青》に、似ている時がある」
 水の民は、水に入ればその髪を輝かせる。メルネスはきっと一層美しいのだろうと勝手に思っている。
 海は。滄我は――あるいはそれよりも、もっと、美しく輝くのだろう、と。
……はい」
 同じことを、思っていたかのようで。
「嬉しい、です」
 上から差し込む光は空を透明に、荒れる波を照らしだす。
 隣にいる人の髪も、水中とは違う色に輝かせる。
 暫く、海と空の狭間を、ふたり黙って眺めていた。


 ――降りた後、オートマタが「遅い」とばかりにぴこぴこ行き来していて、つい笑ってしまったのは許して欲しい。





レジェンディア13周年おめでとうございます!!
一番書きたいのワルフェニだな……ということでお祝いかというとあれですがさておきワルフェニ