寝転がって目を閉じたまま、唐突にヒューマノイドは言った。
「大好きな夢」
指が大地を撫でる。
「みんながくれたもの」
ゆるく弧を描いた口はこちらの反応など待たず、歌うように、夢を浮かべるように、言葉を紡いでいく。
先程まで眠っていたとは信じがたい滑らかさだ。
接地面積が広いせいか、ぼんやりとしたイメージがこちらにも流れ込む。
「わたしの背中」
広い背と、リンゴを取る手と、背中を押す温かさ。
「わたしの瞳」
赤の目。茶の目。似ていると眇められる目。
「わたしの髪」
多くの優しい味と、髪を梳かす穏やかな手つき。
「わたしの手」
横合いから案じての声。転んで、助け起こして、引いてくれる手。
「わたしの足」
隣に、前に、いつでもある。歩み、走り、進むその力。
「わたしの口」
いつだってはじける笑顔と、自分の為にと開発された数えきれないもの。
一つ一つに鮮やかな思い出が付随して、一つ一つに遠くなった呼び声が響く。
ヒューマノイドは、身体を起こした。
「わたしの涙」
子よ、と呼びかける声がする。内に残るクイーンが温度を上げる。その紫の瞳が互いを捉え、笑った。
「わたしの苦しみ」
流れ込むイメージには、苦味と、だがそれを圧倒する柔らかな繭があった。
手が伸ばされる。
かつて、我に伸ばした手のように。よく似てきたと、とうの昔にいなくなったのに、近頃になって思う。
「わたしの名前、わたしの空、わたしの海、わたしの
――夢」
向けられた方角は、今も営みを続ける国境の街がある。
ゆっくりと、手が我の“端末”を包み込む。その後ろから、フォドラの核たる“端末”が包み込んだ。
核と融合を果たし、核そのものである我とフォドラのクイーン。共に生きる、永遠の少女。
「だいすきだよ」
囁いたそのすぐ後、少女を呼ぶ声が遠くからする。
「呼んでいるぞ、プロトス1」
「ソフィだよ。ソフィ・ラント」
繰り返されるようになったそのやりとりを、何故かやめようとは思わない。時に拗ね、頑なに言い張っていた口調はいつしか丸くなり、今やいっそ楽しげですらある。
「またね、ラムダ、クイーン」
再度の呼び声に、手を解いて少女は軽やかに歩いてゆく。
「時は、変わる。私のように」
所在を失った手をそのまま我に伸ばし、フォドラのリトルクリーンは呟いた。
我らは永遠を過ごす。
その永遠は、実のところ永遠ではなくすることが出来る。
やめようと思えば。対になり消滅すれば。眠りにつけば。
我ら以外のすべては永遠でなく、短く、いずれ別れゆく。傍に在れば在るほど、その軋みは大きくなる。
それでも尚あの少女が、我らが生きるのをやめようとしないのは
――本能だからとだけ言うのは、足りない。
希望とは裏切られるものであり、祝福とは呪いであり、夢とはいつか消える儚いものだ。
けれど裏切りたくないものであり、祝福したいものであり、消えるその時まで抱えていたいものだ。
我らはその想いの一部を共有している。
かつて掛けられた言葉であり、思い出であり、示された先であり。
原素を含んだ風が吹く。
今日も星には原素が巡り、命が芽吹き、潰え、そしてまた巡る。
ソフィ・ラントを真似て撫でられる温度のない手を、受け入れて目を閉じた。
#ふぁぼした人の文章を自分の文体でリメイクさせていただく の絵ver
はるさんありがとうございます!!
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