冬灯夜
2018-01-30 11:47:17
2977文字
Public テイルズ色々
 

彼の剣の話

・TOD2 ハロ+ジュ+シャル
・点検させろって絶対言うと思うんだ

「背中のそれ、見せなさい」
 と言うと、ジューダスは仮面の下ではっきりと顔をしかめた。仮面っていうか、ぶっちゃけ意味あるのかしらアレ。顔よりもヒラヒラした羽や骨そのものに目がいってしまって気を逸らせる効果はある。かもしれない。まあそんな検証は今はどうでもいい。
「断る」
「メンテナンスの一つもしてないんでしょ」
「手入れはしてる」
「メンテナンス」
 繰り返すと、ジューダスは押し黙った。短い言葉で理解する、そういう回転の速い所は好ましい。
「それがなきゃ戦いに行けなーい、なんてガキんちょのヌイグルミみたいな言い逃れは聞かないわよ」
 事実、剣技にも晶術にも、ジューダスは“彼”を使ってはいない。
……見られたらまずいだろう。大体、僕の手元から離したくない」
「あら、この私の腕を信頼できないなんて随分じゃない」
「妙な改造を施さないという信用がない」
 『ひぇっ』とかいう思念が聞こえた。失礼な主従だ。
「ならメンテナンスの間、あんたもいればいいでしょ」
……いいのか?」
 意外そうに片眉が上がる。
「別に技術が盗まれるなんて心配してないわよ。この後あんた用事ないでしょ?」
…………いいか?」
 潜められた声は、私へのものではない。同じく、聞き取れない程に小さな思念も。
「決まりね。そら、さっさと来る」
「僕に命令するな」
 返事を聞く前に踵を返す。点検とちょっとしたメンテナンスなら研究所まで足を延ばさなくても十分だ。足音のない気配がついてくるのを感じながら、ラボへ向かった。



 一通り、まず外見は問題ない。経年劣化はあるが、千の時を越えてこれなら流石ベルセリウム。本人が言った通り、手入れは怠っていない――どころか、どこまでも丁寧に繊細に、磨かれていた。
 中はといえば、軽い精神チェックと思念の検査。こちらも問題はない。というか。
「あんた、今より安定してんじゃない?」
『そ、そうですか? ……まあ、そうかもしれないです』
 シャルティエは気が小さくおどおどしてて、そのくせ変な所で開き直るような言動をする男だ。少なくとも今、自分が観察している分には。
「うん、まあ問題ないわ」
「そうか」
 後ろでじっと見ていたジューダスが、安堵の息を漏らす。
 最後に回路の通りをよくしてやろう――とその前に伸ばしたカップの中に、コーヒーがない。メーカーの中にもない。
「あーあ、切らしちゃってた」
 仕方ない、終わってから取りに行くか、と思った矢先。
「取ってきてやる」
「あら、どういった風の吹き回し?」
「メンテナンスを長引かせられるのは御免だ」
 ジューダスは立ち上がる。別に終わってからでもよかったけど、うん、めんどいしいいか。
 メーカーの横に放置してあった許可証を放り投げる。私の特権の一つ、いつでもコーヒー。と言っても、本当の意味で無制限無尽蔵に要求したことはない。物資がないというのも一つだが、本当に好き放題すれば許可を取り消されることが目に見えていたからだ。だから必要な分だけ要求しているし、人より頻度が多くとも見合うだけの成果を出している。現状、そのことに不満はないから私の特権は維持されている。
「それ配給所で見せたらもらえるから」
「分かった。……妙なことはするなよ」
「はいはい」
 そう言いながらも離れるということは、多少の信用はしたらしい。
 食物の増産は私も携わることがあったが、いっそソーディアンよりも難しい。スペースと設備的な意味で。
 ロックを開けて出ていくジューダスを見送り、クリーン用の設備にシャルティエを繋ぐ。
『な、何をするんです?』
「お掃除よお掃除。あんた結局、変わんないわねえ」
……そりゃもう植え付けられたトラウマが』
「へーえ。新しいトラウマ作ったげよっか」
『すみませんごめんなさい許してください!!』
 最初からそういう殊勝な態度でいればよいものを。
『剣になってまで新しいトラウマは欲しくないです……
 本当にまあ失礼な奴だ。とはいえ、今よりも言い返してきてるようではある。
 変わらないわね、と変わったわね、の想い。
「剣、ね。実際どうなの、そこらの意識」
 実の所、きちんと聞いたことはない。今いる自分は身体そのままの連続体だ。基本的に使い手もソーディアンも共にあり、この慌ただしさの中、深く問う機会がなかった。
『どう、と言われても。なった時点で、僕の身体は剣で……自分が複数いるっていうことの方が、どうにも慣れませんでしたよ』
「ふぅん」
 これは一度、兄貴に言って直接“自分”に訊いた方がよさそうだ。抽象的で掴みにくい。
 だからちゃっちゃと打ち切って、スイッチを入れる。内部回路の余計なゴミやノイズが除かれ、処理速度が上がっていく。
……僕は坊ちゃんの剣です』
 スイッチを切ると、ふとシャルティエは呟いた。会話の続きのようで、少し違う。
 今、シャルティエがふらふらと見失っているそれを、このシャルティエは見定められたのだろうか。
『僕に出来る何もかもを、捧げます』
「熱烈な告白ね」
『だから、剣に出来ない何かを――誰かが担って欲しいと、思っています』
 シャルティエは、臆病で小心者で人の顔色を伺う奴だ。
 そして誰よりも繊細で、一途で。心を懸ける何かを見つけた剣は、こんなにも静かで強い声を出せるのか。
「よかったわね」
『え』
「もういるでしょ、そういう奴ら」
 シャルティエは沈黙し――ややあって、はい、と穏やかに答えた。
 ピ、と部屋の前に誰かがいる、と感知センサーが言う。ジューダスであることを確認して、ロックを開けた。
『おかえりなさい、坊ちゃん』
「ああ」
 コーヒーメーカーに材料をぶちこむジューダスに急かされて、シャルティエを渡してやった。
 そんな、任務と任務の隙間の出来事。


「はい」
 それを思い出したのは、最後決戦も近くなっての時だった。
……何だ」
 突き付けた甘い焼き菓子を、ジューダスは胡散臭そうな目で見やった。
「見りゃ分かるでしょ」
「見ただけで何が入ってるか分からん」
「普通の菓子よ、普通の」
 一つ自分の口に放り込む。この時代の菓子は甘さがしっかりしていて、かつ上品だ。あの菓子屋は丁寧な仕事をしているのだろう。
 それを見て、ようやくジューダスは一つ手に取った。匂いを嗅いでから口に入れる。
 ……私なら無味無臭の薬品を作るのも不可能ではないということ、忘れているのかしら? まあ入れてないけど。今回は。
「うん、なかなかおいしいわ」
「悪くはない」
 素直でない物言いは、シャルティエには全く似ていない。それとも彼の剣には素直だったのだろうか?
……それで、何なんだ」
「何が?」
 一つ、二つと菓子を摘まむ内、再び問われる。
「何が目的だ」
「別に」
 ただちょっと、思い出してみて。
「気まぐれよ」
 剣に出来ないことをやってやろうかと、製作者として思っただけの、お話だ。
 もう一つ摘まんだ所で、残り半分を奪われた。
 こいつ。
 まあいいわ今回限り。笑った私を、仮面の少年は不可解そうに、それでも止めることなく菓子を口にしていたのだった。


甘いのはお菓子だけなじゅはろ(?)