冬灯夜
2017-09-16 01:20:12
2405文字
Public ザレイズ
 

変化の理由はそこに

TOザレイズ ガロリタ+レイエス
・甲板で考え事をするおっさんと議論に熱の入るガロリタ
・糖度的にはガロ+リタ+レイ→エスくらい

 ケリュケイオンは空を飛ぶ。
 速度を出す時もあれば、ゆっくりと中空に留まることもある。今日は街の様子を見つつ買い出しをしているようで、わりと速度は遅かった。
 こんな時は、甲板に出るのがレイヴンは嫌いではなかった。天気も穏やかで、進んだ分だけの風が吹いている。
 寄りかかって、ティル・ナ・ノーグに具現化された大地を眺める。殆どは見知らぬ土地だけれど、知っているような土地もある。自分たちの記憶から作られたという、テルカ・リュミレースもどき、とでも言えばいいのか。
 今の自分の境遇は、意外とあっさり受け入れられたようにレイヴンは思う。
 記憶はそっくりそのまま、何の変化もない。だから自分にとっては、生きる世界が変わった、ということだ。知った顔のいる本物のテルカ・リュミレースに『自分』がいるのなら、もうそっちはそっちに任せるしかない。……と表現するのも、全く妙な話だが。
 目下の所重要なのは、どう生きていくか、という話で――つまり最近突きつけられた命題と何ら変わりはしない。
 日差しに背を丸めつつ、未だ言い切れぬ答えをぼんやりと頭の隅に追いやる。風に吹かれながら眼下を眺め――見覚えのある大樹に目が引き寄せられた。上空からはまるで一つの花のような、柔らかな色を咲かせた――そう、彼女のような――――

……で、繋がってるのが……
「そう、……

 目を奪われると同時、横から足音と会話が聞こえてきた。
 近づいてくるそれに意識を切り替え、顔を上げると。
「だから回線の効率化には――よう、外にいたのか」
「おっさんそこ邪魔」
 軽く手を上げるケリュケイオンの技師ガロウズと、天才魔導少女ことリタがいた。
「邪魔っておっさんの方が先にいたんですけどー。お二人さんこそお揃いで」
「そこ通るのよ」
「飛行中の稼働を見ながら説明しててな」
 手でどけと示すリタに、苦笑しつつ説明をくれるガロウズ。対応の差に何とも泣けてくる。
 実際手狭ではあったので、レイヴンは丸めた背中を伸ばして外側へ寄った。
「悪いな」
「いんや」
 目の前をガロウズが通り過ぎる。
 そういえばリタはバウルが挽く船上でも絶対に船縁には寄ろうとしなかったが、よくもまあ飛行中の甲板になど出てこれたものだ。よほど議論に熱が入っているのか――ああ、そうか。
 会話が聞こえた時からずっと、外側にはガロウズが陣取っているのだ。
「で、効率化の話だけど。核と筐体を繋げるみたいなもんでしょ、この部分は」
「ああ。エネルギーの逃げ場も計算しないといけないだろ」
「それも含めての設計なんでしょ? その上で……
 立ち止まって機体を指し、また歩きながら二人は議論を続ける。
 位置を変えたり移動する時には、ガロウズが必ず外へ一歩踏み出している。風が強く吹けば、風上に移動するのもやはりガロウズだ。
「魔鏡の術式以外で負担を減らすのは……
「そうね、この設計の意図が……
 遠ざかっていく議論の内容はレイヴンにはさっぱり分からない。学者でないのだから問題はない。必要になれば説明はしてくれるだろう。多分。
 だから他に分かるのは、
(生き生きしちゃってまあ)
 あの意地っ張りで人に弱味を見せたがらない天才魔導少女が、実に素直に、楽しそうな表情を見せていることくらいだ。
 カロルに次いで(パティについては中身が中身なので一旦置いておく)パーティ内では若い、というか幼いにも関わらず、不貞腐れた表情や怒りの表情が多い。笑顔も増えてきたと思うが、特に年上の人間に対しては、未だ棘を見せることも多い。
 それが会って間もないガロウズに対して、ああも容易く『楽しい』を素直に出している。共に学者であり技師であり、話が合うということもあるのだろうが――ガロウズの性質も大きいように思えた。
 人当たりがよく、自らの技術に真摯であり誇りがある。そして他者を受け入れ、認めることを惜しまない。
 だからこそあの気難しいリタの、素直な表情を引き出している。それを見て思うのは、一種の微笑ましさと安堵感。そして。
(嬢ちゃんが見たら喜ぶだろうなぁ)
 ケリュケイオンに居ない、リタの親友のこと。
 エステリーゼが城を出て、年の近い少女に出会ったのはリタが初めてだと聞く。エステリーゼは誰に対しても優しく誠実だが、ことリタに対しては気の掛けようが大きくなる。
 だからああいう年相応のリタを見れば、きっと彼女は喜ぶだろう。にこにこ嬉しそうに笑って、話しかけようか見守ろうか、そうだ差し入れはどうだろうと色々考えるに違いない。
 ……そこまで考えて、全くいつからこんなに想像逞しくなったのか、とレイヴンは短くため息を吐く。
(嬢ちゃんの想像癖が移ったかな)
 本が好きで、色々な話を聞いては想像を膨らませ、ついには自ら話を考えるようになった彼女。優しくて、人が好きで、世界が好きで、誰かの為に――いつかは己の為に涙を流してくれた人。
 今ここにはいない、けれどきっとティル・ナ・ノーグのどこかにいるだろうエステリーゼ。
 鏡映点とは、世界を変えるほどの『何か』を持つ者だという。旅の仲間が既に複数いる。自分でさえいるというのに、彼女がいない筈はない。
 どこにいるだろう。危ない目にあってやしないか。いつものお人好しでトラブルに首を突っ込んでいないだろうか、そんな方向の心配もある。
 簡単にやられはしない。分かっている。けれど。
 護ると定めた。己の意思でそう決めた。
 それは己がなすべきことであり、同時に彼女が無事ならば自分の手でなくともよい筈だった。
 レイヴン、と己を呼ぶエステリーゼの笑顔を思い出す。
……会いたいな)
 浮かび上がる想いに交ざる、微かな色に目を瞑って、レイヴンは空を仰ぐ。
 ふわりと、淡紅色の花弁が舞った気がした。