冬灯夜
2017-08-26 00:05:46
2527文字
Public テイルズ色々
 

羽を広げて

TOS 神子んび
・ED後
・見に行きたいもの


 たまには綺麗な景色を見に行こう。きみと。



 さくさくと草を踏んで、久方ぶりの白い背中を見つけた。
「ゼロス」
「よ、コレットちゃん」
 声を掛けるよりも早く、金髪の少女――コレットはこちらを振り返る。
「元気だった?」
「いやあ、あんまし」
「え、だいじょぶ?」
「具合は悪かないけどさ、コレットちゃんに会えなくて、俺さま寂しかったぜぇ」
「私もちょっと寂しかったよ。そか、身体の調子悪くなくてよかった」
 大げさに嘆いて見せたが、いつもの笑顔で流される。本人に流しているつもりがないのでこれ以上はどうともいかず、結局自分も苦笑で終わるのだ。
「手紙、ちゃんと届いたみたいでよかったぜ」
「うん、最近の郵便屋さんは凄いね。ちゃんと私がいる時に宿に来てくれたよ」
 コレットは世界再生の旅が終わってからも、旅を続けている。そんな彼女に連絡を取ろうと思えば、定期的な集まりの他は、情報を集めて手紙でも出すくらいだ。
「コレットちゃんも手紙、ありがとな。嬉しかったぜ」
 一方テセアラに拠点を持つ自分は、仲間内では連絡の取りやすい方だろう。例え不在にしていても屋敷に届きさえすれば、執事が保管しておいてくれる。
 コレットから手紙が届いたのは、ちょうど帰る直前のことだった。
 元気ですか、私は元気です。
 この前のことが終わって、またあの人に会いました、この人に会いました。
 新しく生まれた犬にも会いました。こんな名前を付けました。
 そんな近況報告と共に、添えられたメッセージ。

 お誕生日おめでとう、ゼロス。
 この前、海の夕焼けを見ました。とても晴れた日で、本当に短い時間のことで、地元の人も時々しか見れない景色だそうです。
 夕焼けのミカンみたいな色と、赤と、ほんの少しだけ昼間が残った青の空。それが海に映って、きらきら輝いていて、とてもとても綺麗でした。
 ゼロスみたいだなって思いました。いつか、ゼロスにも見て欲しいです。
 お誕生日のプレゼントには、そこで取れたお魚の干物を送ります。おいしく食べてね。

 全く、ちょうど帰る頃に届いてよかった。
 手紙に記されていた場所と噂を元に、コレットの現在地に目星をつけた。そしてそこに手紙を送ったのだ――ちょいとばかし寄り道して、会えないかと。
 手紙が返ってくるかは不明だったので、とりあえず一方的に場所と日時を指定した。
 こうして無事会えたのだから、いや本当にタイミングがよかった。
「干物、おいしかった? 喜んでくれたならよかった」
「おう、美味かったよ。まだ残ってっから、帰ったらまた食うわ」
 嬉しかったのはそこではない。のだが、とりあえず話を進めることにした。
「で、お礼っつーことで、来てもらったわけだけど」
「お祝いだからいいのに」
「まーまー、デートってことで付き合ってよ、コレットちゃん。何なら俺の誕生日祝いの続きでもいいからさ」
 ウインク一つ。ぱちりと目を瞬かせたコレットは、笑った。
「うん、分かった。お祝いするね!」
「そんじゃ早速行こうか」
「あれ? 集合場所、ここだったよね?」
「そ、こっから一緒に行って欲しいとこがあんだよね」
 背中に意識を向けた。一瞬の後には、天使の羽が広がっている。
 首を傾げているコレットに、手を差し伸べる。
「俺さまとコレットちゃんでしか行けない所」
 手の上に、手が乗る。
「分かった!」
 背中に羽を出現させて、コレットはやはり楽しそうに笑った。


 集合場所に指定したのは、その登山道ではお馴染みの休憩ポイント。少々開けた場所で、道に沿って登っていれば分かりやすい場所だ。
 そこから二人で中空へ舞う。
 目指すのは山頂を逸れて、登山道のない方面。コレットの手を引いて先導する。
 そうして、山肌が切れる――小さな盆地のようになっている所が見えてきた。
「ほら、あれだよコレットちゃん」
 逆の手で指し示す。
――わぁ……!」
 ぽっかりと削り取られたかのような窪みには、花が咲き乱れていた。大小様々な、まさに選り取り見取りの花の色。
 周囲は丘のような山のような、ちょうど円の形で囲まれていた。
「凄い、綺麗だねゼロス!」
 ぎゅっと握られた手から、興奮が伝わる。
 統合の影響か、その後の異常気象のせいか、切り取られたような景色だとたまたま見つけた時に思ったのだ。
「何だか、鉢植えの花束みたい」
 そう、まさしくそう思った。
 空からでない限り、見つけることの出来ない花束。
 高度は変わらないが、ぱたぱたとコレットの羽が細かく動いている。感情表現は羽にも出るらしい。
「どーよ、気に入ってもらえた?」
「うん、とっても! ありがと、ゼロス」
 こちらに向けられる顔は、やや上気してとても嬉しそうに見える。希望的観測の欲目でなければ。
「ゼロス、こんなとこ知ってたんだ。凄いね」
「ま、たまたまな。凄いっつーなら、コレットちゃんだって凄いぜ」
「? なにが?」
「海の綺麗な景色、見つけたろ?」
 景色を見て綺麗だと思ったことなど、あっただろうか。雪は嫌いだ。海に行ったってそこが綺麗だからではない。
 今だって特段、景色が綺麗だからと心動かされるわけではない。
 ただ。

『ゼロスみたいだなって思いました』

 その言葉が。コレットが綺麗だと感じた景色に自分を重ねてくれたことが。

「海も、綺麗だったよ」
「だろうなぁ」
 幼い頃、あの雪の日から空虚に聞こえていた『おめでとう』が。
「ゼロスとも皆とも見たいな」
「おう。また集まろうぜ」
「うん」
 腐れ縁のあいつに、旅で出会った彼女に、彼に、あいつらに。『また会おう』なんて、本心から言えてしまうようになった自分が――
……そだ、直接言ってなかったね」
 くるりと身体ごとこちらを向いて、コレットは両手で手を握り直してきた。
「お誕生日おめでとう、ゼロス!」
 ――その笑顔は、今日一番に輝いている。



 世界は単純ではない。けれど、時には単純になったっていいだろう。
 こうして、きみと景色を見て、美しいと思う時くらいは。