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冬灯夜
2016-12-03 04:12:10
3053文字
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テイルズ色々
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せとまぎ
TOB マギルゥとライフィセット
・終盤
・火山に赴く前だと思われる
「マギルゥって、花が好きなの?」
式神を遊ばせていた手を止めて、下方から聞こえた声に目を向ける。
「何じゃ坊、急にどうした」
「さっき、ご飯の時、見てたでしょ」
ライフィセットの指摘に、ああ、と小さく頷く。
つい先ごろ買い出しをし、今日の夕食は早速その食材だったのだが、野菜の中に花が混じっていたのだ。
成長し過ぎて、或いは成長する前の、食材としては用をなさない花。
金を払ったのにと文句でもつけそうな面々は、まあ可愛いしいいんじゃない、と意外にもあっさり流されて、エレノアの手によって船室に飾られた。
花瓶など風流なものが海賊船にあるわけもなく、アイゼンのコレクションであった小さな壺が流用され、本来の用途と違うと講釈を述べ始めた副長をよそに、夕食と相成ったのだ。
「確かに見とったがの~。そう言う坊は、儂のことをしっかりばっちり見とったようじゃの?」
「あ、うん。マギルゥが何か一つに集中するのって珍しいなって」
ちょっとからかうとすぐに照れる初心な少年であるが、こうしてごく普通に返される時もある。天然スルーという奴か。チッ詰まらん。
ちなみにベルベットを絡めるとほぼ10割、エレノアだと他の面々よりは高い確率で照れる、といった所である。
「だから、好きなのかなって思ったんだけど」
「さてのぉ。魔女に花と言えば、やはり育てて煮詰めて効果抜群の秘薬にするのがぴったりじゃが、儂はそんなもん面倒じゃしの」
「マギルゥならビエンフーに作らせるんじゃない?」
「そのとーり! いやはや、便利な聖隷(げぼく)じゃわい」
いや、ビエンフーは前に大鍋をダメにしたことがあった。やはり却下。
ライフィセットはやや苦笑気味だが、楽しそうに笑っている。それで、と笑ったままの小さな口が開く。
「花、好きなの?」
「
……
なんじゃしつこいのぉ、坊」
「マギルゥがわざわざはぐらかすからだよ」
ライフィセットは何故だか得意げに胸を張る。
二度も逸らしたというに。それが分かってなお訊いてくるのだから、まったくイイ性格になったものだ。
「好きだとか、好きじゃないとか、そういう答えでいいのに違うから余計気になっちゃった」
「なるほどの」
この好奇心の強さは誰の影響か。
……
いいや、元から持ってはいたのだろう。それが表に出てくるようになった。開花するように。
「好きとか、嫌いとか。世の中そんなもんで括れるものばかりではないぞえ?」
「そうかな。そう、かもね」
「なべて世の大半は『どーでもいい』もんじゃわい」
ふぅ、とため息を吐いて見せる。ついでにシニカルに笑ってみるが、これが通用しないこともよくある者だと知っている。
そこまでして、何だか面倒になってきた。
案の定ライフィセットは気にもせずに、こちらを見上げたままだ。
「お師さんが好きでの」
はあ全く。ちゃっちゃと答えてやればよかった。口にしてみればたったこれだけのこと。
「儂は別に、好きでも嫌いでもないがの」
「そっか。メルキオルのこと、思い出してたんだ」
「思い出すというかの
……
まあ間違ってはおらんが」
「何か思い出あるんだ?」
メルキオルの名を出した時には少し項垂れ、思い出があると言った時には顔を上げ。思ってることが何ともまあ分かりやすい素直な子だ。
実際、ふと思い出したことがあった。
まだまだ幼かった頃。マギラニカと呼ばれていた頃。
お師さんが花を好きだと知ったある時、早起きをした。厳しい修行の前にちょっと外へ出て、朝露に濡れた花を一つ一つ吟味して摘んでいく。乏しい知識で色の組み合わせを考えて、何の色が好きだろうかと想像して。渡したら、どんな顔をしてくれるかと期待して。
修行の前に差し出した小さな花のカタマリは、『愚かしい』との一言で切って捨てられた。
あのじじいは草花が好きだ。
だから命を奪うことをよしとしない。それも人を喜ばせる為という、奴からしてはズレにズレた目的なんぞの為に。
「花を渡そうとしたらくだらーんとな」
「えっ、ど、どうして?」
「たかが人が感傷の為に花を摘むなど、意味のないことじゃからの」
「あ
……
」
アバルでも、と呟いたのが聞こえた。
あの時も確か、墓に花を供えることを罪深いと評したのだった。
『マギラニカ』
いつもと変わらぬ冷徹な表情と声を、思い出す。
『人の想いに振り回されるな。それが理を乱す。儂の後継者となるおぬしこそ、それを知らねばならん。よいな』
怒りでも露わにすれば、いっそよかったものを。本当にいつもと変わらなくて、己のしたことはお師さんにとって何一つ響かぬことなのだと思い知らされた。
恐らくそう思うこと自体が、感情に惑わされぬマギラニカを作る上で必要と判断していたのだろうと、後に思った。
――
後になってもありありと思い出せるほどに、心に刻み込まれていた。
「ま、そんなこともあったのお、というだけの話じゃ。そんな顔するでない、坊」
「う
……
ご、ごめん」
眉根の下がったライフィセットは、慌てて普通の顔に戻した。
ほんに素直な子じゃのう。
「あの、マギルゥ」
「なんじゃ?」
「僕は、もしマギルゥからお花もらったら、嬉しいからね!」
力強く宣言される。
……
いやこれはそうも強く宣言することなのだろうか。
「坊は儂からの花が欲しいかえ。女に貢物をさせる男に成長しそうじゃの~」
「ぅえ!? そ、そうじゃなくて! えっと、花じゃなくても!」
「ほほう直接的に金か。これはまたちょい悪どころか悪い男になるのぉ、泣けてくるのぉ」
「だからそうじゃなくてー!」
頬を赤らめて否定するライフィセットをからかい、笑う。
気の済んだ所で追及の手を緩めてやる。はあ、と一つライフィセットは息をついた。
「あのね、マギルゥから何かもらったら嬉しいよ」
「やはり貢物を」
「だから! マギルゥが僕を喜ばせようとして何かくれるなら、多分大体は嬉しいよって意味!」
その一瞬を、何と表したものだろうか。
唖然? 呆然? いいや。
「
……
多分、大体とは、含みのある言い方じゃのう」
「だってマギルゥ面白がって変なものにしそうなんだもん
……
」
それは、まるで、拾われたような。
そうだ。あの時、受け取ってすらもらえず、その場で捨てることもできなかった花。修行の後にはすっかり萎れてしまい、結局草原に戻したその花を、「綺麗だね」と言ってくれたような。
そんな馬鹿々々しい妄想すらしてしまった、一瞬。
「ほっほーう。そこまで分かっていながら儂からのプレゼントが欲しいと言いよるか。
いやはや、こうまで言われては仕方がないのー。面白おかしい魔女プレゼントを期待しておるがよいぞ!」
「そ、そんなに張り切らないでね」
にんまり笑うと、ライフィセットは思わずと言った風に一歩引いた。
もう遅いわい。
「でも、ちょっと楽しみにしてるね、マギルゥ」
けれど引きながらもそんなことを言って笑うのだから、この子は本当に悪い男になりそうだ。
「僕もマギルゥに喜んでもらえそうなもの見つけたら、あげるから」
「ふっふ、そうかえ。ではその日を楽しみにしておるぞえ、坊」
「うん」
笑いながら考える。
さて、魔女をも唸らせる逸品を期待してみようか。
何せライフィセットは、この災禍の顕主ご一行様は、魔女を驚かせることに関しては人一倍なのだから。
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