冬灯夜
2016-08-04 21:04:59
686文字
Public オリジナル
 

今日は翡翠の雨が降る

オリジナル
・雰囲気短文
・雨降りの話


 今日は翡翠の雨が降る。





 細い音がする。
 さあ、さぁ、さあさ、さぁ。
 木の枝に、葉に、草に、雫が垂れては跳ね返る。ひたひたと柔らかな音で跳ね返る。
 白く真っ直ぐな糸が空から降り注いでくるようだ。
 ぽすり、と重さを伴う音がした。
 草むらに降り続ける雨。草を折り曲げて、一つ小さな雨の塊が包まれていた。
 拾い上げたそれは、白と緑の石だった。
 ああ、今日は翡翠の日。
 空から翡翠の雨が降る。

 ぽつり、さあさぁ、しとりしとり、さぁさあ。
 傘を叩く静かな音を聞きながら、ぼんやりと雨を眺めて佇む。
 不意に入り交じる一瞬の翠色を追えば、ころりと草むらに転がった。白く青く、優しく混ざった色は草木とは違う色を生じる。
 白、白、白、緑、白、白、青、白、白、白、白、
 手を差し出すと雫はとろけて、透明な軌跡をつくって手から滴る。
 軟らかな石は、石としてこの手に残らない。ただただ色とぬるい感覚を残していくだけ。
 暫くその感覚を味わっていると、ぽすりと手の平に重い音。
 翠の丸い石が、そこにある。
 親指の爪ほどの石に雨が降り、とろとろと柔らかな雫になって滴り落ちる。交わる色でありながら、決して交わらない石と石。
 ころりと転がし、指先に持っていく。危うく零れる所で、何とかつまんだ。
 空に翳せば、薄雲の先から漏れる光に照らされて、石の奥底に透き通った翠が光る。
 白よりもずっと透明に。空よりもっと青に近く。
 二つの色を宿しながら、翠は翠でしかない色だった。




 今日は翡翠の雨が降る。
 ひすいの色が、降ってくる。